「美容室」台本

舞台中央に椅子。
アンナ・カリィ、上手から走って出てきて、下手側へ。
マスクをしたまま、息を切らしている。
リュックと三脚ケースを背負い、両腕に大きいトートバッグを抱えている。

すみません19時で予約した山田ですごめんなさい遅くなりましたまだ大丈夫ですか。
カットと、シャンプーですね。
はい、申し訳ないです。

会員証、会員証ですね先に荷物預けてもいいですか？

トートバッグ、三脚ケース、リュックの順におろして、その場に置いていく。

けっこう重いです、これ場所とりますごめんなさい、三脚は倒しちゃって大丈夫で、こっちはいちおう、カメラ入ってて、はい、申し訳ないです。

荷物を預け終える。

会員証ですよね。

ポケットの財布を探る。

ごめんなさい、こっちかもしれない。

トートバッグやリュックの中身を探す。
カバンからマネキンが出てくる。
カバンからレフ板が出てくる。 
たたまれていたレフ板がバサッと開く。

ああ、ごめんなさい、レフ板が。

両腕をひねるようにしてレフ板をたたむ。
マネキンもしまう。

会員証、忘れました。

舞台中央の椅子へ。
正面を向いて（鏡越しに）話す。

ほんとすみませんでした。
そうですね映画というか、大学で、卒業制作的な、はい。
取ったほうがカットしやすいですかね？ じゃあとります。

マスクを外す。

そうですね。
あの、坊主にしてみたいと思ってて。

あのさっき映画撮ってるって話したじゃないですか、僕その、映画監督の山戸結希に憧れてて、わかります？ 『溺れるナイフ』の、山戸結希さんって、映画を撮るときだけ必ず坊主にするんです、イメージないですよねでも撮影期間だけは坊主なんですよ、ほんとですよ？ それで僕もそうしてみようっていう。
今日それのリハーサルとか衣装合わせしてて、主演の人とわりと揉めちゃって、そのまま抜け出してきて遅れてしまったんですけど、だからいま坊主にしたらそいつに対するなんというか意味合いが出てきて、明日会ったときに、うわ昨日の喧嘩のあれがあっての坊主にしてるじゃん、てなるかもなとか、ほんとは僕と山戸結希さんだけで完結する坊主なのにって、それでいまさっきまで坊主にするか迷ってたんですけど、決めました、坊主にしてください。
ありがとうございます。

じゃあ、緑茶で、お願いします。
はーい、すみません。

前かがみになって正面をじっと見る。

似合うかなあ。

ありがとうございました。