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かつて手汗がヤバすぎた話。〜手掌多汗症について〜

物心ついたときから、私は手汗がヤバかった。手汗って本来、暑さを感じたときとか、緊張したときとかに出るもの。でも私の手汗は、ほぼ常に。ふと、全く汗をかいていない瞬間もあるのだけど、そんなのは一日のうちの本当に短い時間だけ。自分の気持ちや体温とは関係なく、ずっと手汗がヤバかったのだ。

まだ親に手をひいてもらわないといけないような年齢の頃は、ハンカチを一枚挟んで手を繋いでもらっていた。これだけ聞くと「我が子の手汗くらい気にしなくても…」と思うかもしれないが、そうでもしないとポタポタと汗が滴り落ちてしまうから、親も仕方なくという感じだった。

幼い頃は手汗が酷くても特に困ることはなかった。しいて言えば、折り紙を折ってもヨレヨレになるだけで完成しないことくらい。手先が不器用なわけではないのに、手汗のせいで折り紙が折れない子どもだった。

本格的に自分の手汗に嫌気がさしてきたのは小学校中学年あたりからだったと思う。このくらいの年齢から、周囲の人に不快感を与えるのではないかという不安が芽生え始めた。運動会でのお遊戯で手を繋ぐときだったり、組体操で手を繋ぐときだったり。腕相撲大会なんかも最悪だった。「私の手汗って気持ち悪いよね…」と、相手を不快にさせることが、とにかく怖くなった。

だから長袖を着ているときは袖を手のひらの方まで伸ばし、俗にいう“萌え袖”の状態にして、相手と触れ合う面積が少なくなるように工夫していた。半袖のときはこの方法が使えないので、手を繋ぐ直前しっかりと手汗を拭くようにしていた。これはあまり意味ないのだが。

思春期以降は、さらに手汗が嫌になった。恋人ができたら手を繋がないといけなくなるから、私は彼氏もつくれないなと考えた。テストの時間も最悪。ハンドタオルを握りしめながらでないと、答案用紙が手汗で破れてしまうのだ(まじで)。高校生になって電車通学が始まると、吊り革も最悪。汗が滴り落ちるので、吊り革には掴まらないか、タオルを挟むようにしていた。カラオケのマイクを握るときも同じ。ケータイよりも何よりも、ハンドタオルが手放せない毎日だった。

高校生の頃、大きな病院に行って手汗について診てもらったことがある。漢方を処方してもらい何ヶ月か飲み続けたが、効果は得られず飲むのをやめた。たしか長期間飲まないと効果は得られないとの話だったが、良くなる兆しがないので、高校生の私はすぐに諦めてしまった。同時に塗り薬も処方されていたが、こちらも効果なし。

こんなに手汗に悩まされる人生を送っていたのに、ピアノが得意だったために大学は芸術系の学部でピアノを専攻した(メンタル強い)。もちろん、ピアノを弾くときも手汗は邪魔だった。指がツルツルと滑ってしまうし、一曲弾き終わる頃には鍵盤はビショビショ。大学の授業ではピアノを回し弾きしたり、連弾をしたりしなければいけなかったので、ここでも周囲のことが気になって仕方がなかった。

大学生らしく、飲食店で接客のアルバイトも始めた。レジ打ちという地獄があることを失念していたのだ。お客様にお釣りを渡すときは一苦労。不快に思われたくないので絶対に手が触れないよう工夫していた。

手汗を気にしながら大学生活を送っていたある日、電車で「手汗に困っていませんか?」的な広告を見つけた。病院の広告だった。私へのメッセージじゃん!と思い、すぐにその病院を調べた。

調べたところ、私の手汗には「手掌多汗症」という立派な病名がついていた。その病院では手掌多汗症を治す手術が受けられるとのことだった。手術で治るなら治したいと思ったので、すぐに両親に相談した。手術の費用はもちろん出すよと即OKしてくれた。両親はこれまで、私の苦労を知りつつも「汗っかきは体質なんだから仕方ないよ」くらいの温度感だった。おそらく私を深く悩ませないための、親なりのフォローだったのだと思う。

そこからは手術までトントン拍子。10年以上前のことなので記憶違いがあるかもしれないが、最初にカウンセリングを受けて、手術のリスクや歴史(これが面白かった。たしか南方の血に手掌多汗症が多いと聞いた気がする。)や手術当日の流れについて担当医より話があった。

手術は日帰りと一泊入院と選択でき、私は自宅が病院から少し遠かったので一泊入院にした。全身麻酔をした上での内視鏡手術なので、麻酔から覚めるときに不快感があったのと、小さな傷口がほんの少し痛んだりしたが、手汗の苦労がなくなると思えば全然平気だった。

手術後、ピタリと手汗が止まった。本当にピタリと!!手汗をかいていない自分の手が信じられなかった。心の底から感動した。アメージング!

ちなみにこの手術には代償性発汗といって、手汗を止めることで身体のほかの部位に汗が出やすくなる副作用が生じる場合がある。私の場合、太腿の裏に以前より多くの汗をかくようになったが、手汗に比べれば全く苦痛はないと感じている。

親しい友だちに実は手汗の手術をしたと話すと「手汗が酷かったなんて知らなかった!」とビックリされた。うまく隠せていたんだ!と自分に感心した。そのくらい私は、必死に手汗を隠して生きてきた。

最近この話をした夫には「もっと早くにググらなかったの?治せるかどうか」と聞かれた。たしかにググらなかった。なぜかなと考えると、そもそも“病気”とも思っていなかったので“治す”とかいう発想に至らなかったのと、高校生の頃に病院で診てもらったのに治らなかった経験があったから、治すのは無理と諦めていたのかもしれない。手掌多汗症の手術も、近年ようやく認知されてきたみたいだ。

だから声を大にして言いたい。尋常じゃない手汗は病気だし治せるよ!!!と。もちろん、手術することを推奨したいわけではない。選択肢のひとつとして手術もあるんです、ということだけ。調べてみると他にも治療法は色々あって、病院もいくつかあるらしい。

幸い私は手汗に悩まされてはいたものの楽しく生きてこられたが、人によっては手汗が耐え難いものになっているかもしれない。必死に手汗を隠して生きている方が、どうか救われますように!!

追記:2021/06/11
この記事を読んだ手掌多汗症を患う方へ
この記事をTwitterに投下してから手掌多汗症についてTwitter内でも色々と調べてみました。手術後に代償性発汗が副作用として酷く出てしまった方、その他、手術によるものと思われる別の副作用に苦しめられている方々がいることを知りました。決して手術をすすめる意図でこの記事を書いたわけではありませんが、記事によって手術が最善と思わせるようなことがあってはいけないと思い、ここに追記させていただきます。手掌多汗症に悩む方々が最善の治療法に出会えますように。


コグレアンナ(anna_kogure_)

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