模擬試験の闇1

模擬試験は予備校のような受験産業では重要な商品だが、「実はそれほど収益性は高くない」と聞いたことがある。「しかし、やらないわけにはいかない」というものらしい。そんなわけだからか、模擬試験の運営を内部から見ると随分とアラが目立つ。

私は英語のことしかわからないが、教員の目で模擬試験を見ると採点基準が気になる。受験生は「模試は模試」と思っておいたほうがいい。模擬試験の問題や採点基準は経営管理上の理由で色々な歪みがあって、実際の入試とはずいぶん違うのだ。

まず問題作成の闇について記しておこう。

模擬試験は問題作成用の枠組みがある。これは模擬試験作成チームのチーフが提案して会議にかけて、微調整ののちに承認をもらうことが多い。チーフはまあまあベテランが入る。

この枠組みでそれぞれの問題形式や配点などが決まる。問題作成の担当者はこれにそって問題を作成する。問題を公募して、そこから選定することもある。選ぶのは作成チームだ。「これ」という問題が集まらなければ、作成チームのメンバーが問題を作成することもある。公募で選ばれるかどうかは若手の登竜門だったりもする。というわけだから、問題作成者がベテラン教員とは限らない。

さて、問題を選定したり、作成したりする模擬試験作成チームのメンバーはどうやって決まるのか。だいたいは教務スタッフにメンバーを決定する権限がある。彼らには英語教育の素養はそれほどないので、生徒から集めたアンケートのデータを見て、成績の良い先生に依頼することになることが多いようだ。(このアンケートは経営管理上、予備校の弱点とも言えるのだが、それは別の話。)

英語教員といっても、予備校で教えている教員は英語が専門とは限らない。ベトナム語が専門の人もいる。言語が専門ならまだしも、心理学や経済学が専門の人もいる。まあ大学入試に出題される英文の内容は千差万別なので、そういうバックグラウンドの人にも需要はある。また、そういう人は英語が専門でない負い目もあって、生徒を惹きつける努力を惜しまない人が多いようにも思う。現にそれでとても人気を博す人もいる。教室での授業に関する限り、教員に英語学の専門知識がどれほどあるかは生徒にとってはあまり気にならないことのようだ。

とはいえ、試験問題の作成となると、教室で教えるのとは事情が異なってくる。テスト理論の幾ばくかの見識はないとまずいし、解説を書くことも考えると英語学のバックグラウンドも相当に必要になる。しかし、そういう人員が試験問題の作成要員として配置される仕組みにはなっていないことは上述の通りだ。

かくして、予備校の作る試験問題は何を測っているのかよくわからないものになっていることが多い。まあ、同じことは大部分の大学の作る入学試験の問題にも言えることだが、大学入試で出来の悪い試験問題が出題されているからといって、予備校がその悪例を踏襲するべきだと主張する根拠にはならない。予備校は予備校で、試験問題として良質のものを商品として顧客に提供する社会的責任があると私は思うのだが、生徒にとってはそんなことより「的中」のほうが気になることなのかもしれない。


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