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わがままさくらんぼ

ヒロイン:遠藤さくらさん




澄み渡る青空と
命を芽吹かせる春風

そんな爽やかな天気の中

私は1人寂しく下校していた。

私はこの春らしい穏やかな時間が好き。

でも…

この時間を突然、
ぶち壊してくる後輩が

どこかに居るとか居ないとか。

その子の登場は、
いつも予測できない



「さくらさぁぁぁああん!」

私の名前を大声で叫びながら、
坂を駆け下りてくる男の子

ほらやっぱり、いきなりでしょ?

勢い余って、
上手に止まれなかった様子

先まで走り抜けちゃった彼は
少し戻って、私の横に並び直す。

「さ、さくらさん…お疲れ様です…!」

肩で息をしながら、
笑顔で話しかけてくる

そんな全力で走ってこなくても…

いつ見ても変わらない
底無しの元気に呆れながらも

”さくらさん”という
呼び方を注意しておく。


さくら:ねぇ、遠藤先輩でしょ…?

この後輩くんは
出会った当初から”さくらさん”呼び

こういうのはね〜

先輩らしくはっきり
言っておかないと

私にも威厳と言うものが…


〇〇:分かりました!気をつけます!

屈託のない笑顔を見せる〇〇君

分かってくれたみたい。
素直でいい子だね

〇〇:あっ、そうだ。”さくらさん”
折角だし、一緒に帰りません?

ん…?先程の元気な返事はどこへ

真面目に相手するのが
アホらしくなってくる。

常にテンションの高い〇〇君

彼にはいつも
振り回されてるような気がする

ただ、こうやって親しげに
接してくれてるのは嬉しくて

会う度に、
笑顔で挨拶してくれるし

正直、彼からは
かなり元気を貰っている

素っ気なく
振舞っちゃう事もあるけど

〇〇君の事を
かなり意識しちゃってたりする




のかも知れない。

だからかもな

下の名前で呼ばれるのが
何だか恥ずかしくて。

周りの人からすると
初心すぎるのかもしれないけど

恥ずかしいものは、恥ずかしいの…

…なんて、考え事をしていると

〇〇君がジーッと
こちらを見ているのに気がついた。

さくら:ん、どーしたの?

〇〇:髪切ったんですか? 似合ってますね

さくら: …っ

君の何気ない一言に、
大きく胸が弾む

君からの言葉で、
高鳴なった胸の鼓動を抑えて。

長い長い一本道を
2人楽しく話をして歩いていた。


それからしばらくして…

自転車に乗った女の子が
猛スピードで通過した

と思ったら急ブレーキ

レイ:あ、〇〇じゃんお疲れ様っ!



その子は、親しげに
〇〇君に声をかけた。

〇〇:おー!お疲れっ

どうやらその子は
〇〇君のクラスメイトらしい

課題がどうだとか
明日の授業は何だとか

楽しそうに話している。

レイ:じゃあ、〇〇また明日ね!

その女の子は元気に手を振ると
力いっぱい自転車をこぎ出した

〇〇:おう!じゃあな〜  ”レイ”

レイか。
下の名前呼び…

目の前で繰り広げられた
親しげなやり取り

何だか少し複雑な気持ちになった。

私にとって、

君からの名前呼びは
特別な事だったけど

私が思い上がってたんだね

君は私の事なんてちっとも…

〇〇君にとって
特別な意味 なんて無いのなら

…今までの
胸の高まりを返してよ。

────────────

「………さん。さくらさん!」

ぼーっとしちゃってたみたい

〇〇君が心配そうに
顔を覗き込んでいた。

勝手に君に期待して

傷つくのはもう嫌だから

はっきり言おう。

『下の名前だとさ勘違いしちゃうから…もう”さくらさん”って呼ばないで…?』



〇〇君はキョトンとした顔で

「……え?勘違いって言われても」

もう、鈍感だな…

『わ…たし…の事す、好きなのかなって…ちょっと思ってたのに…』

自然に出たその言葉は
思い出すだけで恥ずかしい。

その言葉を聞いた〇〇君は
すぐに口を開いた
     
「”僕さくらさんのこと好きですよ”」



『えっ…?』

「だから好きですよ…?さくらさんの事」

さも当たり前かのように
こちらを見ている〇〇君

「結構アタックしてるつもりだったんですけどね… 」

君は恥じらう事もなく
そんなことを言ってくる


それなのに私は

『私も、〇〇くんのこと好き……かも』

飛び上がる程嬉しいのに
素直になれない

そんな私にも

「え、ほんとですか!嬉しいです」

優しい笑顔を向けてくれる。

”君を好きになって良かったな”

「じゃあ、改めて…」

そう言ってこちらを
向き直す〇〇くん



「さくらさん。付き合ってください」


『は、はい…よろし…く… お願いします…』

「これで、やっと本人公認で、さくらさんって呼べますね!」

『やだ、だめ…』

「え?付き合ってもダメなんですか…」

かなり、落ち込んだ様子の〇〇君

君からはさ

もっと特別な呼び方が良くて。

『つ、付き合ったんだからさ…』



『”さくら”って呼んでよ…』






〇〇君は一瞬だけ驚いた表情

でも、すぐに
私の大好きな笑顔に戻って

「これからもよろしく… ”さくら”」

────────────

付き合えたんだし
もっとわがままでも良いよね。

先程、目の前で見た
親しげな会話に嫉妬したのか

それとも、
そもそも私はそういう性格なのか

今なら…甘えられる気がした。

『んっ…』

少し視線を逸らしながら
〇〇君に向かって、右手を伸ばす

「え…?」

でも、それだけじゃ
察してくれないみたい

『手… 繋ご…?』

「えっと、あの…」

『いいから繋ぐの!』

「わ、わかりま…した…」

〇〇君は、恐る恐る私の右手を掴む

『えっへへ〜』

「そんなジーッと見ないでください…」

恥ずかしがってる
〇〇君はレアかも…

可愛い。

手を繋いだまま帰り道を進む2人

その顔はどちらもさくらんぼのように赤く染まっていた。


 〜わがままさくらんぼ  おしまい〜

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