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盛岡で美しい「かき揚げ」に出会った

盛岡の町を流れる中津川沿いに、そのお店はある。

お店の名は「くふや」。

このお店で、6月下旬の一週間だけ、期間限定の「かき揚げ」が出されると聞き、足を運んでみた。

なんと、ランチで値段は3500円。

いったい、どんな「かき揚げ」だというのか。

橋を渡ると、向こうの建物にお店がある

午後の2時も近く、客は自分だけだった。
お店の中を見渡せる一番大きなテーブルに座らせてもらった。

木目の走った落ち着いたテーブル。
壁際に飾られた食器類。
テーブルに飾られた花は、デンティベスというバラだという。

お店の窓からは、中津川の風景が見える。
梅雨に入り、川の向こうにはアジサイも咲いている。
どこか非日常的な空間。
店内にゆったりとした時が流れていく。

ふと、油のジュワーという揚げ物をつくっている音が聞こえてきて、現実に引き戻される。
そうだ、「かき揚げ」を食べにきたのだ。

「お待たせしました」
目の前に、料理の品々が並んだ。

美しい。

赤、緑、白、オレンジ、黒…。
色彩の、なんと豊かなことか。
見ていると、幸せな気持ちになってきた。

こういう美しい食卓に出会うと、食べるという行為は、見ることがとても大事な要素を占めるということに気づかされる。

味噌汁を一口。
やさしい味だ。
おいしい。

そして、「かき揚げ」を食べる。
まず箸で切り分けて口へ。
できたてのサクッと感。
口にまったりと広がる甘み。

エビ?だろうか。
うまい。

ぎゅっと詰まった具材。
野菜も入っているが、何が入っているのか、わかりそうでわからない。
具が絶妙にからまって一体化し、味も混ざり合っているからだろうか。

何が入っているのですか?

尋ねてみると、お店を切り盛りするお二人が話してくれた。

「このかき揚げは、二層構造になってるんですよ」

まず、たまねぎ、セロリ、ピーマンを1センチほどに角切りし、卵と小麦粉で混ぜる。このとき、エビの殻を煮てとったダシを使っているという。

こうしてつくった衣に、エビとホタテを入れ、たっぷりのごま油で揚げる。

エビ殻のダシとごま油を使うのが肝心なのだそうだ。

「タレはかかってますが、薄いと思ったら、追いダレはこちらに」

「薬味として山椒もお好みでどうぞ」

追いダレ。
何かをそそるいい響きだ。
少しずつ足してみると、なるほど、醤油風味の濃厚さが増して、また違う旨味が香る。

追いダレと山椒

勧めてくれた山椒は、「庭で採れたものなんですよ」。

自家製の山椒。
さらっと言われたが、初めて聞いた。
鼻を軽く刺激するあの香り。
ぱらぱらかけて食べると、相性がぴったり。
これはうまい!
山椒は、実をオリーブオイルにつけて調味料にすると、最高の味になるのだという。

食後にデザートも用意されていた。
色彩が、これもまた美しい。

黄色のゼリーのようなデザート。
緑色のガラスの器に乗って、まるで宝石のようではないか。

一口食べてみる。
驚きで思わず小さな声をあげた。

「夏みかん?」

味にというよりも、みかんの素材そのものを食べたような感覚に驚いた。

素材そのものと思って食べたら、次の瞬間には消えてなくなる。
…あっ、ゼリーだったんだと気がつく。
そんな不思議な感覚だ。

愛媛の甘夏のゼリー。
かき揚げの後だからこそ、爽やかさが何倍にも感じられた。


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