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ドラマCD『霹靂双星伝 上・下』レビュー

 ハァー、日本でやってねえ、売ってねえ、日本語環境もちろんねェ! の台湾のテレビ人形劇シリーズ『霹靂布袋劇(戲)』。実は過去数度、海外進出を目指し、日本向けに制作された作品がありました。

 それが映画『聖石傳説』(リンク先公式サイト)であり、その前日譚をラジオドラマにしたのが、今回ご紹介する『聖石傳説異聞 霹靂双星伝』上下巻です。ちょっと双星伝側の公式サイトは見つかりませんね……。

 聖石傳説は00年に台湾で制作、二年後に日本で公開されたそうです。で、映画のDVDは現在廃盤。インターネットでも配信しているサイトはなく……他は中古が出回っているだけのようです(VHSもあるよ)。

 ちなみに19年春現在、上映リクエストを元に、上映イベントを開催するためのサービス『ドリパス』では聖石傳説を映画館で上映しよう! という投票も行われているので、興味のある方はどうぞご投票ください。

[映画]聖石傳説を映画館で上映しよう! | ドリパス

 映画のレビューもいずれやっていきますが、さておき今回の記事は双星伝。キャストは映画版と同じですが、なかなか豪華声優が揃っております。

声の出演
 素還真(そかんしん):子安武人
 青陽子(せいよう):関智一
 千層雪(せんそうせつ):ゆかな
 亂世狂刀(らんせきょうとう):関俊彦
 劍君十二恨(けんくんじゅうにこん):神谷浩史
 葉小釵(ようしょうさ):世田壱恵
 傲笑紅塵(ごうしょうこうじん):三木眞一郎
 秦假仙(しんかせん):岡野浩介
 辰小蓮(しんしゃおれん):水樹奈々
 駿馬(しゅんま):仲西環
 花非花(かひか):豊口めぐみ
 魔魁(まかい):宮林康
 剛鬼(ごうき):西前忠久
 闘鬼(とうき):吉田裕秋
 黄洪波(おうこうは):栗山浩一
 天凶老(てんきょうろう):丸山詠二

※青陽子の名前が「せいよう」になってますが、彼は劇中でセイヨウとしか呼ばれません。

■あらすじと内容

【上巻】目次
第1話「武林争乱」
第2話「青陽子見参!」
第3話「正道激突!」
第4話「妖花繚乱」
外伝1「格闘の章/潜入」
第5話「疑惑沸騰」
外伝2「揺らぎの章/告白」
第6話「義兄弟結盟」
エンディングテーマ「清流伝説」(歌:ゆかな)
【下巻】目次
第7話「武林再燃」
第8話「五里霧中」
第9話「千里神彈」
外伝3「悟りの章/復活」
第10話「魔窟、天地門」
外伝4「迫真の章/罠」
第11話「悲運、千層雪」
最終話「双星、並び立つ」

 これらの内容は2001年11月から02年1月にかけてラジオドラマとして放映され、その後CDに収録されました(文化放送「超機動放送アニゲマスター」内と、ラジオ大阪「関様、姫のやっぱりキャラでイキましょう」内)。このうち四本の「外伝」は未放送で、CDにのみ収録されています。

 制作にはバンダイビジュアルと代々木アニメーション学院が関わっており、原作が霹靂であること以外は日本人スタッフオンリー。

 映画版が霹靂本家とは異なる世界線(本家ではご存命のキャラクターが、この話の中で亡くなっている)なのもあり、日本オリジナルのストーリーと考えて良いと思います。

 そのためか、全体的なノリは「一昔前の夕方五時に放映されていたキッズアニメ」のようなおもむき。「ぴんぽーん♪」「ヨードチンキ」といった発言がちょいちょい混ざります。

 本作では青陽子を主人公に、青臭く野蛮だった彼が自分が進むべき道を見出し、映画のような好青年へ成長する様が見られます。

 以下、冊子より抜粋。

上巻あらすじ
 時は今から400年前、中国は明朝の時代――――、
 中国武術界【武林】は、未だかつてない災厄に襲われていた。
 魔界より現れし悪の覇王、戦神【魔魁】が、武林の覇権を握ろうと諸悪の限りを尽くしていたのである。
 武林の危機的状況を重く見た、天下の賢人【清香白蓮・素還真】は、魔魁討伐のため、各教の奥義を極めた三伝人、【道教伝人・乱世狂刀】、【儒教伝人・劍君十二恨】、そして【仏教伝人・葉小釵】の招集を決意。
 そのひとり葉小釵の捜索を、天下第一弁の異名を持つ弁舌の達人【秦假仙】に依頼した素還真だったが、その話中、武闘集団・合修會を率い魔魁と戦う道教玄天六陽がひとり【青陽子】の名を聞かされる。
 素還真は突如来訪した印の国のプリンセス【辰小蓮】を伴って、青陽子の協力を得るため合修會の元へ向かう。だが、そこで目にしたのは、儒園の主【千層雪】を救うため、なんの躊躇いもなく敵を斬りつけるひとりの男の姿であった――――
下巻あらすじ
 中国は明朝の時代――――、
 中国武術界【武林】を襲った災厄【魔魁】の脅威に、天下の賢人【清香白蓮・素還真】は、三伝人を招集し対決することを決意した。
 その渦中、素還真は武闘集団・合修會を率い魔魁と戦う【青陽子】に、
 魔魁討伐の協力を依頼する。
 それを一笑に付す青陽子だったが、
 突然の合修會の乱心に、
 自らの心と体に深い傷を負ってしまう。
 それが儒園の主【千層雪】の企みだったことを
 察知した【道教伝人・乱世狂刀】と
 印のプリンセス【辰小蓮】は、
 千層雪に剣を突きつけて自白を促す。
 だが、それはやがて直向きに千層雪を信じ続ける
 青陽子との決闘へと発展してしまう。
 自らのために血を流し続ける青陽子の姿に、
 千層雪の気持ちは次第に傾いていく。
 そして思いを新たにした千層雪は
 魔魁と決別し、素還真、青陽子らと
 義兄弟の契りを結ぶのだった――――

■雑感

 キャラごとに紹介しながら、内容にも触れていきます。

素還真
 最終回で「お前たちのことを私はコマとしか見ていなかった」「私が愚かだったから死なせてしまった」と独白する下りが切ない。序盤で協力を求めた青陽子から「あんたと協力して戦ってきたやつは、何人死んだ」と指摘されていたが、これまで出してきた犠牲は彼の中に重くのしかかっていることが分かる。上記の発言の後、一人で戦いに行こうとする様はやや頭に血が上りすぎている気がするけれど。
 他、作中では辰小蓮に振り回されてため息をつく場面が多い。

青陽子
 ヤンキー。ど・ヤンキー。合修會は霹靂本家にも登場するが、会話の様子を聞いていると、教団と言うより暴走族のチームかなにかのようである。柄が悪く、作中では「野蛮」「単細胞」「短絡野郎」「短絡バカ」とさんざんな言われようだ。
 千層雪をかばって乱世狂刀にさんざん切られ、その後も劍君十二恨にみねうちでボコボコにされ、さすがに凹んだ後、つい千層雪にもきつく当たってしまう。
 しかし、その芯には「力のあるものが、弱き人々を守る」という信念を据えた紛れもない英雄である。突然襲ってきた傲笑紅塵にさとされ、かつての仲間のことを回想したシーンはなかなか名場面だと思う。
「俺たち、いつまで戦えばいいんですか?」と問う合修會の仲間に、愛するものはいるかと訊ね、「(愛する者が)いればいい、それでいい。そいつらがいつでも笑えるようにすればいい。いつでもだ」と答える彼は、眩しい男である。
 ちなみにヤンキーさには似合わず武器は琴。弾くことで音を力に変える魔琴らしく、これを更にパワーアップさせる譜面「千里神彈(せんりしんだん)」が下巻での鍵になる。映画版でもきっちり披露されていた。

千層雪
 本作のメインヒロイン。本家では霹靂狂刀から霹靂王朝に登場する。
 魔魁のスパイとして青陽子の籠絡をもくろみ、合修會が彼から離れるよう仕向けたのだが、予定と違って合修會が殺戮を始めた際に動揺。更に自分を一途に信じる青陽子の姿に心を動かされて寝返ったので、根本的に悪女に向いていない。
 映画本編では登場しないので、作中で彼女がどうなったかは察してほしい。江湖で寝返った者は長生きできないのだ……(※疏樓龍宿は特殊例だよ)。

辰小蓮
 自称・印(いん)の国のプリンセス。本作のオリジナルヒロイン。魔魁と戦うため素還真に会いに来た少女(一応酒は飲める年齢)。……なのだが、特に軍隊を連れてきているわけでもなく、本人が卓越した武術を持っているわけでもなく、何をしに来たのかよく分からなかった。それでもまあ、素還真に頼まれて尾行なんかもする。
 印象深いのはそのクラッシャーぶり。何かと色んなものにあたってぶっ壊すが、「素還真が大切にしている花瓶」を大量に壊している。あと秦假仙を池へ蹴り落としたりした。強引で図々しくてやかましいのだが、愛嬌があって許されるというかなんというか。素還真も乱世狂刀も、彼女の前ではやたらおとなしい。最後は孤児を連れて母国へ帰った。

秦假仙
 本作のコメディリリーフ。外伝と一話を除く冒頭ではナレーターを担当している。作中では「素還真の腹心の部下」とか「腰巾着」という扱い。ところで嫁さんはもう少し大事にしてあげて。
 このドラマCD下巻についているキャラ紹介イラストはなかなか味があるのだが、中でも秦假仙の絵は可愛い仕上がりで好き。

乱世狂刀
 この作品は冒頭、彼と魔魁の戦闘シーンから始まる。正道のため戦うのが私の使命! と押し切れそうな様子だったが、「貴様だって色恋沙汰のため一日三千もの人を無差別殺戮したではないか」と過去の罪を指摘され、動揺したところを傲笑紅塵に助けられた。その後、素還真の命で千層雪を尾行する辰小蓮の前に登場。なんやかんやと彼女に振り回されたのだが、「文句ある!?」と女の子に凄まれて「ナイデス」とおとなしく返す彼って本家的にどうなんですかね……?
 その後、敵の間者である千雪層をかばう青陽子に斬りかかるのだが、なんか愛しあう二人の当て馬っぽくなってしまった。全体的に見ると不憫。

傲笑紅塵
 映画『聖石傳説』の主人公。あちらでは素還真嫌いを発揮していたが、今作中では彼と顔を合わせていないので、うまいこと少ない出番で美味しい所をかっさらっていった。普通に格好いいキャラクターになっている(他の面々は辰小蓮に絡んでギャグ度が上がったのだが、彼はそれすらない)。

劍君十二恨
 演技の感じから登場2秒ぐらいで、ははーん、美形ライバルキャラクターみたいなやつ~と分かる質感が高い。単細胞極まる青陽子をボコボコにしたが、傲笑紅塵にさとされて心機一転した彼には好意的であった。

葉小釵
 ドラマCDだが出番はある、舌を切り取ったのでしゃべれない剣豪。発言はすべて「うー」「ンー」「ウンー」といった調子。孫の花非花に「おじいさま」と呼ばれているのもあって、知らない人は完全にご老体を想像するのではなかろうか。
 敵のモブは彼が近くにいることに気が付かず襲いかかってきたので、あっさりズンバラリされた。運がない。

花非花
 葉小釵のお孫さん。秦假仙は赤鼻ルックスだがモテモテなので、三人も奥さんがおり、彼女はその一人。CV豊口さんの演技がいい感じに明るくコケティッシュ。
 物語終盤に葉小釵を連れてきてくれたのだが、葉小釵・花非花・秦假仙の日常をちょっと見てみたさがある。

駿馬
 素還真に仕える少年。最初私は女の子だと思っていた。
 辰小蓮に「すまきにしてヨードチンキに漬け込んでコトコト煮込む」と脅されるなど、なかなか不憫。ところで素還真って、何人こういう下働きの人雇ってるんです?

魔魁
 全体を貫く巨大なラスボスとして描かれ、多数の手下を従える。
 映画『聖石傳説』では早々に倒された挙げ句、宇宙人にさらわれたのだが、あの後どうなったことやら……。

天凶老
 話的にはラスボスは魔魁なのだが、そっちは映画冒頭で倒されるので、ドラマCDで倒されるために出てきたようなラスボス。かわいそう。

■終わりに

 いかがでしたでしょうか、霹靂双星伝。
 霹靂布袋劇に興味のある方で、少しでも日本語霹靂をお探しの方は、一度こちらの入手を検討されるのも悪くないかな……と思います。まあ霹靂の特徴である人形劇ですらないのですが。
 私はまだまだ霹靂本家を知って日が浅いので、ドラマCDのキャラクター描写が原作とどれだけかけ離れているか、判じ難い面もあります。ので、詳しい人ほどコレジャナイとなってしまう可能性もあるかもしれません。
 ただ、この時代に霹靂は日本上陸を一度は目指しており、こうして日本の私たちに霹靂角色が届けられようとしたことがあったのです。その意味では、記念の作品でもあるかもしれませんね。個人的には、この内容でショートアニメとして観てみたいなどと願望を書いておきます。

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