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日本語布袋劇! 映画『聖石傳説』レビュー

 台湾のハイパーマリオネーションムービー・日本上陸!
 ……したのが今から17年前(00年製作、02年公開)。今回は日本語で鑑賞できる布袋劇(戲)映画『聖石傳説』のご紹介です。
 リンク先は日本語サイトなので安心してね!
 以前、この映画の前日譚であるドラマCD『霹靂双星伝 上・下』のレビューを書きましたが、結構間が開いてしまいまいました。
 まあ予定は未定な人間のやることなんてそんなもんです。

 写真が下手なのは許してくれ。

■概要

 中が空洞になっており、人が手を入れて動かす伝統的なハンドパペット=布袋人形を使ったお芝居〝布袋劇(ほていげき)〟。この台湾の伝統芸能を、テレビ放送の世界に持ち込んで「電視布袋戲」を始めたのが霹靂社さんでした。
 その霹靂社さんによる、海外進出作品が映画『聖石傳説』というワケです。

 昨今は虚淵玄氏による日台共同制作の『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』が放映されましたが、基本的に布袋劇のほとんどは日本に直接入ってきておりません。

 つまり、
・日本語音声……なし!
・日本語字幕……なし!
・日本公式販売……なし!

 の三重苦。

 視聴については日本向けに販売してくれるWebサイトを頼る、博客來さん(※台湾におけるAmazonのようなショッピングサイト)で購入する、You Tubeの霹靂公式チャンネルで動画を漁る、などの手がありますが、それでもそこには言語の壁があります。

 そこへ来て、日本語音声も日本語字幕も完備した、日本で上映された初の布袋劇映画『聖石傳説』は画期的な存在なのです!
 見よ、この豪華キャスト!※敬称略

傲笑紅塵(ごうしょうこうじん)CV:三木眞一郎
素還真(そかんしん)CV:子安武人
青陽子(せいようし)CV:関智一
如冰(るーびん)CV:さとう珠緒
非善類(ひぜんるい)CV:原口あきまさ
剣上卿(けんじょうきょう)CV:石橋蓮司

 字幕版だと台湾語音声になりますが、吹き替えだとこのキャストが色々しゃべってくれるというワケよ。中文字幕を必死で解読しながら布袋劇を観た後に『聖石傳説』を鑑賞すると、日本語使ってるというだけで泣けてきます。
 ですので、「布袋劇って気になるけどどこから観ればいいの?」という方にはオススメ! 初心者向けという点では『東離劍遊紀』がおそらく最適なのですが、東離はもう観たよという方には、ここからが霹靂本家履修にはピッタリです。
 東離以前の布袋戲ファンには、実際にこの映画から入った方も多いとか。

 ……え? じゃあどこから観ればいいのかって? ネットでは現在、配信しているサイトはありませんねェ!(お察しください)
 DVD(またはVHS)の中古品は出回っているので、そちらを買うのが手っ取り早い手段となります。三千円ぐらいあれば買えるので……はい。
 ちなみに台湾版DVDは最近復刻されました。やったね霹靂さん!(※リンク先は霹靂公式サイトにつき中文です)

 他、19年夏現在、上映リクエストを元に、上映イベントを開催するためのサービス『ドリパス』では聖石傳説を映画館で上映しよう! という投票も行われているので、興味のある方はどうぞご投票ください。

[映画]聖石傳説を映画館で上映しよう! | ドリパス

■あらすじ

 舞台は四百年前の中国。
 巨大な敵・魔魁を打ち倒した素還真たち中原正道の面々に休む時はない。宇宙から飛来した新たなる脅威・非善類。そして謎の人物・骨皮先生。あらゆる願いを叶えると言う奇跡の宝『天問石』を巡る戦いが始まった!

■登場人物紹介

傲笑紅塵
 本作の主人公であり、霹靂で最も憂鬱なイケメン。DVDジャケットで一番でかく写ってる人。とにかく潔癖な正義漢で、それゆえに騙されやすい上、武林でも最高峰の剣士という戦闘力まで備えている。
 この人が悪いやつに騙されると危険過ぎるのだが、本人はとにかく高潔な男であり、間違いなくヒーローである。
 でも素還真の腕はもうちょっと手加減してあげて。

〝清香白蓮〟素還真
 テレビ本編(霹靂シリーズ)の主人公。DVDジャケットの白い人。
 智謀に長けているが、そのあたりが嘘は許せない傲笑紅塵と折り合いが悪いもよう。まあ素還真は、別に傲笑紅塵のことは嫌っていないのだが……。
 頭脳キャラであることを証明するように、作中ではやたらと迂遠な謎掛けを正確に解き明かすシーンもある。名探偵素還真。

青陽子
 素還真の義兄弟(こっちが弟)。赤い。ドラマCDではとにかくヤンキーキャラだったが、映画本編では少し丸くなった。とにかく「アニキ!」と連呼する元気な男なのは相変わらずだが、最後はとんでもないことになってしまう。音で攻撃する魔琴技の使い手。

 ※聖石傳説はパラレルワールドなので、映画内であんなことやこんなことになっても、本家に影響が出ないあたりはご安心だ。

如冰
 本作のヒロイン。剣上卿の娘であり、傲笑紅塵に思いを寄せる。
「悲しい時、涙を氷に変えてくれた」という思い出を主人公との間に持つヒロインはだいぶ珍しいと思う(※凍らせたのは傲笑紅塵だが、どういうセンスであろう)。とても良い子。

非善類
 宇宙人だからか横文字台詞を連発する愉快なやつら。お笑いタレントである原口あきまささんが吹き替えを担当したためか、「スターのお宅拝見」「夜間飛行~」など、当時の流行りをしのばせる台詞を連発する。それ絶対原語で言っていないだろ。
 このへんは日本の配給元の悪い癖だと思うのだが、逆に原語だとなんと言っていたのか気になるので、台湾版DVDを手に入れたら、本来はなんと言っていたのか確認してみたいと思います(※日本語字幕も同じギャグを言っているので、日本版のDVDではやはり元の台詞群は確認出来ない)。
 この演出のせいで憎めない奴らのように思えてくるが、コミカルな言動のままえげつない悪事も働くので、ある意味宇宙人らしく得体の知れない感は出た気がする。

骨皮先生/剣上卿
 もともとは名士だったのだが、非善類に家を焼かれて家族を殺された挙げ句、自分も顔が焼けただれてしまった人物。非善類から身を護るため、自分も死んだことにして隠棲していた。如冰は唯一生き残った家族である。
 霹靂コミカライズ『大霹靂』には、ありし日の剣上卿と如冰、そして自宅であった鳴剣山荘が少しだけ出てくる。この映画で「賑やかな生活が好きだった」と言及されていた通り、大広間で大人数が食事しており、派手な暮らしぶりだったようだ。
 そのきらびやかな世界に身を置いていた彼が、心身に傷を負って、廃墟のような家に寂しく暮らしている姿は哀れを誘う。が、しかし……。

■用語解説

武林(ぶりん)
 武術界の意。江湖(ごうこ)とも言うが、要は裏社会とか渡世人たちの世界。霹靂はおおよそ武侠ファンタジーの物語なので、この武林が(概念的な)舞台である。なお対立概念は朝廷。

中原正道(ちゅうげんせいどう)
 素還真たちが属する勢力。こういう名前の組織があるのではなく、「正道を歩む」志を同じくする人たちを指す概念、とでも言うべきか。
 簡単に言うと正義の味方、弱きを助け悪を挫く義侠のこと。
 対義語として反派、邪派という語がある。なお、中原はおおよそ中国のことを指す(三国志などでも出てくる用語)。

魔魁(まかい)
 三百年ほど前に倒され、最近復活した魔界の権力者。弱点は三傳人の三教極招アタックだが、倒されてもしばらくすると復活する(そういう魔物は多い)。
 完全に滅ぼす方法を見つけるまで、六道輪廻という場所に幽閉された……が、そこを非善類にさらわれ、頭から記憶を吸い出されてしまう。以後は生死不明。

三傳人(さんでんじん)
 三教=仏教・儒教・道教の奥義を三人。葉小釵(ようしょうさ)・剣君十二恨(けんくんじゅうにこん)・亂世狂刀(らんせいきょうとう)のこと。
 有名な角色(キャラクター)だが、本作では冒頭にちょこっとしか出番がない。

天問石(てんもんせき)
 ありとあらゆる願いを叶えるという宝。
 勾玉のような、あるいは胎児のような形をしており、複数のパーツに別れている。致死性の罠がたっぷり仕掛けられた迷宮の奥に隠されていた。しかし、何の代償もなく願いだけ叶えてくれるような都合の良いアイテムなんてあるわきゃー無い。

■見どころ

 本作を語る上で外せないのは、やはり「屋外撮影」である。
 布袋劇の撮影は、通常スタジオで行われる(金光布袋劇のダイジェストDVDを観ていたら、屋外撮影っぽいものが一つあったのだが、まあ基本はスタジオです)。
 映画『聖石傳説』は、なんと屋外に人形のサイズに合わせたセットを作り、セットの中に操偶師さんが潜んで撮影を行いました。
 本物の太陽を浴び、実物の竹林を行き、海を眺め、湖の上の建物でお茶を飲む木偶の姿は、ひどく人間的です。

 布袋劇の凄さは、『ひょっこりひょうたん島』などの人形劇をイメージしていた頭をぶっ飛ばす、非常に精密な作りと動きをする人形たちのお芝居なのですが、スタジオを飛び出したことで、更にその動きに血が通って感じられる所は、観ていて胸が熱くなる感動を覚えました。個人の感想ですけどね。DVDを入手された方は、ぜひ映像特典のメイキングまでご覧になってください。

 人形とは思えないダイナミックで激しいアクション、大物ミュージシャンを呼んだ格好いい主題歌、熱くも物悲しい武侠ストーリー……。

「布袋劇って何?」という方も、
「興味はあるけど、布袋劇ってよく分からない」という方も、
「なんか変わったものが観たい」という方も、
 ぜひ一度、この世界に触れてみてください!

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