短いながら書いてってみよう①。

私は長らく物語を書いている。

書き始めたのはかれこれ10年前になるだろうか。
まったく物語が進展しないので、これを「書いている」と言って良いのかわからないが、とりあえず書いている。

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「じゃあ次のメールは……あっ、そうだ。お前、マネージャーのオカジマの話、聞いた?」
「え、何の話?」
「この前さ……俺のカミさんが催眠術教室に通い出したって話したじゃん?」
「うん」
「それ聞いて、オカジマが俺にさ、『へぇ~。奥さんは、催眠術かける方と、かけられる方のどっちを学ぶんですか?』って言うんだよ」
「あははは」
「俺それ聞いてさ、オカジマに言ったんだよ。オマエさ、わざわざ金払って催眠術教室に通ってさ、催眠術かけられる方法を学んで、何の意味があるんだよって」
「うん」
「そしたらオカジマが言うんだよ。『そもそも催眠術を学ぶ意味ってあるんですか?』って」
「あははは」
「そこにカミさんもいたもんだから怒っちゃってさ、オカジマも慌ててフォローしようとしたんだけどさ、『奥さん、すいません、悪気はないんです。その教室の洗脳はとても良いと思います』って言ってさ、全くフォローになってないんだよ」
「洗脳じゃないんだよ」
「俺も面白がってたけどさ、カミさん洗脳されたら嫌だからさ、教室通うのやめろって言っといたよ」
「そもそも何で習おうと思ったんだよ。うふふ……あ、ここでCMです」



とある夏の暑い夜、ラジオ好きの男子高校生が家を抜け出し、海沿いに座って深夜ラジオを聴いていた。

自分の送ったメールが読まれないままコーナーが終わると、少年は落胆してイヤホンを外した。

ステンレス製のボトルに口を充て、アイスコーヒーを一口すする。
母親が営む喫茶店から拝借したアイスコーヒーは、よく冷えているけれど、苦く、飲んだ後に体温が上がるように感じた。

「……今週も読まれなかった」

少年は、火曜深夜に放送される漫才コンビのラジオ番組にメールを送っている。このコンビはもう良い年のオジさんなのに、まるで子供の様にはしゃぎ、とても楽しそうにくだらない話をする。

そしてよく話が脱線し、コーナーの途中で会話が弾み、いつもより読むメールが少なくなったりもする。もしかしたら自分のメールが読まれたかもしれないのに……と思わなくもないが、少年は二人のそういう会話が何よりも好きだった。

「また来週がんばろう」

そのまましばらく海を眺めていると、急に女性の話し声が聴こえてきた。

「お聴きの皆さんこんばんは、火曜日です」

少年は驚いた。

「火曜の夜、いかがお過ごしでしょうか」

少年はとても驚いた。

「今日は私、火曜日の時間です」

女性の声は鮮明に聴こえるのに、少年は耳にイヤホンをしていなかった。


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