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【セカンドオピニオンあるある】動物病院の誤診、見逃し事例

私の働く動物病院では、セカンドオピニオンで来られる方が最近増えています。

当初通っていた動物病院での診察内容に不安・不満があったり、別の治療選択肢を知りたい方が、2つ目の動物病院を受診するわけですね。

私は、セカンドオピニオン自体にはかなり肯定的でして、積極的に受診すればよいと思っています。ときにそれで命を救われる例もありますし、他の病院でも同じ診断が下ったのであれば、それはそれで安心材料にもなるでしょう。

むしろ、「なんだか治らないな、どうにも不安だな」と不安感や不信感を抱えたまま、「でも、ずっと診てくれてる先生だし・・・」という理由だけで同じ動物病院に通い続けると、痛い目をみることだってあります。

ただし、しっかりと説明を受けて、納得できると思えた先生の指示には、きちんと従ってください。
稀に、セカンドオピニオン、サードオピニオン・・・といくつもの動物病院を転々とし、どの病院の治療も中途半端に終わってしまった結果、治療がうまくいっていないケースに遭遇します。

今回は、私が今まで経験してきたセカンドオピニオンの例を紹介しようと思います。

こんな例があるのだと知っておくことで、いざというときに、セカンドオピニオンを受診する心のハードルが、少し低くなるかもしれません。

Case1

アトピー性皮膚炎だと思ったら寄生虫感染だった

皮膚病の診断の流れは、普通こうです。

  1. 皮膚科学検査を行って感染症を除外する

  2. 痒みがあまりにも強いときは、念のため疥癬の駆虫を実施する

  3. 感染が無いことが判明したら、病変の位置、痒みの発症年齢等から、アレルギー性皮膚炎を疑う

  4. 食物除去試験を行って食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の鑑別を行う

  5. 特徴的な病変がある場合には、皮膚病理検査を行って確定診断をつける

大体の先生はこのような流れで皮膚病の診察をしていると思います。
実は、1番の「感染症の除外」の工程を手抜きしてしまうことがあるんですね。

皮膚の感染症って結構多いのですが、それ以上にアトピー性皮膚炎などのアレルギー性皮膚炎のほうが発症頻度が高く、「痒み=アトピー」と半ば決めつけて診断されることがあります。

特に見逃してはいけないのが、「疥癬」や「ニキビダニ」といった寄生虫感染です。
非常に痒がるのが特徴で、中には痒すぎて食欲がなくなってしまう子もいるくらいです。

こういった「皮膚の寄生虫感染」を診断するには、病変を専用のスプーンで少しえぐり取らないといけません。なぜなら、疥癬やニキビダニは皮膚の深部に感染しているからです。血が滲むくらいまで皮膚を削り取って、顕微鏡で見て、やっと検出できます。これを皮膚掻爬試験といいます。

これが結構難しくてですね、中には皮膚の掻爬が不十分であったために寄生虫感染を見逃してしまったり、あるいは検査する場所にたまたま寄生虫がいなかったりで、偽陰性になってしまうことがあるわけです。

これが見逃しポイントとなり、疥癬なのにアトピーと診断してステロイドを出されたり、抗生物質しか出してもらえなかったりするわけです。
当然それでは痒みは治まるわけがなく、場合によってはステロイド剤の影響で免疫力が低下して、寄生虫の感染がより酷くなってしまうこともあります。

痒みが酷くて、もらった薬で全然良くならないときは、一度セカンドオピニオンを受診してみるのも一手です。
特に皮膚の検査を十分にしてもらっていないな〜と感じたときは、しっかり診てくれる動物病院にセカンドオピニオンを求めるとよいでしょう。

Case2

ただの急性胃腸炎だと思ったら異物閉塞だった

みなさんの犬猫が嘔吐したら、すぐに動物病院に連れていきますか?
なかには、「よくあることだし」と、2〜3日くらい様子を見ることもあるでしょう。

獣医師が嘔吐の症状を診るときには、様子をみていい嘔吐なのか、緊急性を要するやばい嘔吐なのかを見極めようとします。

見極めポイントはいくつかあるわけですが、食欲や元気、嘔吐の回数等がポイントとなります。

詳しくは以下のnoteで解説したことがあります。

もっとも怖いのは、「異物の腸閉塞」や「急性膵炎」などの命に関わるものを見逃すことです。

見逃してひどい治療をされた子を一度診たことがあるのでご紹介します。

その猫さんは数日前からえづきがあり、だんだん水も飲めなくなってしまったとのこと。もちろんごはんも食べません。

他院を受診し、血液検査やエコー検査を受けましたが、多血症(血が濃くなった状態)と診断され、エコー検査では異物の閉塞所見はないと言われたそうです。

皮下点滴とお腹を動かすお薬(メトクロプラミド)を注射してもらい、一旦帰宅しましたが、全く良くならないどころか水が飲めない状態になってしまいました。

よく見てみると、どうも舌のところに何か糸のようなものが、引っかかっているのです。

そう、「紐状異物」だったのです。

猫ちゃんは紐状のものが大好き。遊んでいる間に口に含んでしまい、くちゃくちゃしている間に誤食してしまうことがあるのです。

紐状異物は非常に厄介でして、腸が下へ下へと送り出そうとするものの、紐状であるがために引っかかって上手く送り出せず、次第に腸がアコーディオンのようにクシュクシュの束になってしまうのです。

イメージとしては、ズボンの紐をキュッと締めたときのような状態ですね。

長い長い腸がキュッと圧縮されてしまうと、その部分の血流が悪くなって壊死が始まります。

壊死した部分は穴があき、腸内細菌が外へ漏れ出して腹膜炎を起こします。次第に細菌は血流に乗って敗血症を起こし、命を奪うのです。

この子の場合は舌に紐が引っかかってしまっていたせいで、腸の広範囲に渡って一束にまとまってしまっており、水も飲み込めず重度の脱水を起こしていました。

事態を悪化させたのは、前日に他院で注射された「腸を動かすお薬」。

腸閉塞のときには決して使ってはいけない薬です。

閉塞して動けなくなった腸を無理やり動かすので、紐によってギコギコと腸の粘膜が擦れ、あちこちに穴が開いてしまっていました。すでに敗血症に陥りかけており、血圧を上げるお薬を使わないと血圧が維持できない状況だったのです。

命がけの緊急手術を行ったのち、1週間ほど集中治療を行い、無事一命を取り留めましたが、本当に一か八かの危険な状況での手術でした。

腸閉塞は時間との勝負。早く見つけて適切なタイミングで手術を行うことが、命を救う鍵です。

ひどい嘔吐が何日も続き、同じ治療で良くならないとき、あるいはちゃんと画像検査や血液検査をしてもらえないときは、セカンドオピニオンを受診するタイミングかもしれません。

Case3

ねんざだと思ったら免疫介在性多発性関節炎だった

急に左前足を痛がるようになって他院を受診したら、捻挫かもしれないとのことで、消炎鎮痛剤を処方された子がいました。

その消炎鎮痛剤はいわゆるロキソニン系のお薬で、飲んでいる間は調子がよいけれど、飲み終えるとまた再発してしまうとのこと。

聞くと、レントゲン検査も体温測定もされていませんでした。

足の痛みが続くなら、まずは骨や関節の異常がないか、レントゲン検査をしなければいけません。

撮影してみると、特に骨格の異常はありませんでした。

しかし、身体検査で体温測定を行うと、40度の発熱があったのです。また、どの関節を痛がっているのか触ってみると、どうもびっこを引いている左前足の手首の関節の他に、右の肩関節も痛そうなのです。

そこで、鎮静をかけて、痛がっている関節の関節液検査を実施しました。

関節液には、好中球という炎症細胞の一種がたくさん検出され、「免疫介在性多発性関節炎」であることがわかりました。

この疾患は、自分の免疫系統が暴走して、誤って自分の関節を攻撃してしまい、関節炎を起こすものです。

一般的な消炎鎮痛剤では治らず、ステロイド剤や免疫抑制剤による治療が必要となります。

結局、この子はステロイド剤だけで良好に治療ができ、足の痛みはすっかり良くなりました。

この事例での見逃しポイントは、①体温測定を怠ったこと、②触診により痛みを生じる関節が複数あることを見逃したことです。

発熱、複数の関節での痛み

この2つが、免疫介在性多発性関節炎の特徴だからです。

どんな疾患においても、一般的な身体検査は欠かせません。
身体検査をじっくり実施してもらった記憶が無い場合、そして、症状の改善が見られない場合、セカンドオピニオンを受診するべきなのかもしれません。

Case4

元気が無いのは甲状腺機能低下症ではなく、心臓病のせいだった

以前からツイッターではよく語っているのですが、犬の甲状腺機能低下症は誤診の多い疾患です。

甲状腺という臓器は、首に存在するホルモン分泌装置です。

甲状腺ホルモンという、「元気の源」のようなホルモンを分泌しています。

高齢の犬では、このホルモンの分泌が低下することがあり、これを甲状腺機能低下症といいます。

「甲状腺ホルモンの数値が低いこと」が診断のポイントなのですが、甲状腺ホルモンは色んな原因で低下するため、この数値だけを見て診断してしまうと、過剰診断になりやすいと言われています。

つまり、本当は甲状腺機能低下症ではないのに、甲状腺ホルモンの補充療法を始めてしまう例が多いということですね。

私が診た大型犬のワンちゃんで、「元気がないんです」という主訴でセカンドオピニオンに来た子がいました。

他院で甲状腺機能低下症と診断され、甲状腺ホルモンの補充療法を始めたが、良くならないとのこと。

全体的な身体検査を行うと、どうも心臓の雑音が聞こえるのです。

犬で心臓の雑音が聞こえるときは、大体の場合、何らかの心臓疾患を抱えています。

心臓の超音波検査を実施してみると、心臓の心筋がかなり薄くなっており、「拡張型心筋症」であることがわかりました。

心臓の収縮力を強くするお薬を飲んでもらい、少しずつ元気を取り戻していきました。

甲状腺ホルモンの数値は、他に全身の疾患を抱えていたりすると、それだけで数値が下がることがあります。

診断するときには、血液検査、レントゲン検査、エコー検査などの検査を実施した上で全身の状態を把握し、他に疾患がないことを確認する必要があるのです。

この子の場合、心臓疾患のせいで、少し甲状腺ホルモンの数値が低く出ていた可能性があります。

「甲状腺機能低下症だと思っていたら〇〇」ということは、結構ある事例なんですね。

まとめ

以上、私がこれまでに遭遇した、セカンドオピニオンの事例を紹介しました。

「結構怖いな・・・」と思われたかもしれません。

中には、セカンドオピニオンを受診しなければ、命を落としていた可能性がある事例もありましたからね。

飼い主さんの直感というのは、結構当たることがあります。

「この病院、通い続けて大丈夫かな?」という嫌な予感がしたときは、一度セカンドオピニオンという選択肢を検討してみるのも一案ですよ!
もちろん、むやみやたら動物病院を渡り歩くのはおすすめしません。
「ここなら信頼できそう!」と納得のいく検査、説明を受けることができたら、先生の指示にしっかり従って、二人三脚で治療に励んでください。

「そうはいっても、動物病院は近くにいっぱいあって、選べないよ」という飼い主さんのために、良い動物病院の選び方という記事を書いています。
こちらも読んでみてください。

以上、参考になれば嬉しいです。

Twitter(あんじゅ先生@犬猫の獣医さん)でも情報発信をしています。飼い主さんが知っておくべき知識を定期的に呟いていますので、ぜひとも参考にしてください。


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