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犬猫のお薬辞典Vol.1〜おなかの薬編〜

獣医さんにもらったお薬、どんな作用があって、どんな副作用があるのか、詳しく知りたいと思ったことはないですか?

インターネットで調べると、添付文書のような堅苦しい説明書きしかヒットしないし、効能書きを見てもナンノコッチャ・・・?って感じで結局よく分からない。

そんな飼い主さんのために、「獣医さんからもらった薬が分かる本」を作りました。

Vol.1は「おなかの薬」です。

その他のお薬辞典は以下のマガジンからご参照ください。


このnoteを作った理由は、飼い主さんのアドヒアランスを高めてもらうためです。

先日、以下のようなツイートをしました。

アドヒアランスとは、簡単に言うと「飼い主の治療に対する理解と積極性」です。

獣医師にすべてお任せするのではなく、飼い主さん自身がペットの病気に対して深く理解し、治療に積極的に関わることを、「アドヒアランスが高い」と表現します。

愛犬や愛猫の治療は、基本的にアドヒアランスが高い飼い主さんほどうまくいきます。

だからこそ、私のnoteでは、飼い主さんが病気や治療を理解するための材料を提供することを目標にしているのです。

アドヒアランスを高める上で非常に重要な課題の1つが、もらった薬を理解すること

正直、一般的な一次病院では、獣医師がインフォームドコンセントの過程で薬の解説を行う時間までは確保できないことが多く、できたとしても浅く概要を説明する程度で終わってしまうことがほとんどです。

このnoteを辞書代わりに持っておいていただくことで、いざ動物病院でお薬を処方されたときに、

  • どんな目的で処方されたお薬なのか

  • どんな仕組みで効果を発揮するのか

  • 今、愛犬愛猫の体の中では何が起きていて、それを薬でどう改善しようとしているのか

  • 服用中、どんなことに気をつければよいのか

など、知りたいこと(+α)が分かるようになります。

このnoteの特徴

薬の効能と、その薬が効果を発揮する仕組みを、飼い主さんにも分かるように噛み砕いて解説しています。

できる限り詳しく、かつ一般の方でも理解が追いつく程度に内容を厳選し、複雑な部分には図解も加えてあります。

副作用や注意事項の書き方も少し工夫しました。

どの薬にも副作用があるわけですが、「これは特に注意しなければいけないな」という副作用と、「こんな副作用、実際は見たことないなあ」という稀な副作用があります。

このnoteでは、添付文書の丸写しはしておりません。
臨床現場で働く獣医師がよく遭遇する副作用をピックアップし、実際に何に気をつければいいのか、よく分かるようにしています。
※稀な副作用が起こる可能性は0ではないので、「このnoteで触れていない副作用は起きない」という意味ではありません。その点は勘違いしないようにしてください。

Vol.1は「おなかの薬」です。

下痢や嘔吐など、お腹の調子を崩したときによく処方されるお薬たちを紹介します。

愛犬愛猫が嘔吐や下痢を起こしたときに処方される薬の大部分は網羅されています。

お薬の仕組みを理解すると、その病気の病態もよく見えるようになります。お腹を壊しがちな犬猫の飼い主さんの勉強にもご活用ください。

※順次お薬の種類は追加していく予定です。リクエストがあればTwitterのDMやnoteのコメントで教えてください。(購入者は追記分も読むことができます。)
※このnoteは「犬猫のお薬辞典シリーズ」の第1弾です。第2弾以降で心臓・呼吸器のお薬、腎臓・膀胱のお薬、鎮痛・消炎のお薬、皮膚のお薬、肝臓のお薬を順次リリース予定です。
※購読していただいた方からの質問や相談を受け付けます。コメント欄をご活用ください。
※獣医学生さんや動物看護師さんのお勉強にも役立つかと思います。
※返金保証も付けております。内容に満足できなかった方には、全額返金致しますのでご安心ください(note運営事務局の審査が入る点はご了承ください)。

マロピタント(製品名:セレニア)

犬猫と獣医師と飼い主さんの大きな味方、セレニアです。

  • 困ったときのセレニア

  • どんな嘔吐も止めてくれるセレニア

  • セレニアで止まらない嘔吐は相当やばい!!

…そんな薬です。
どうしてそんなに強い制吐作用を発揮するのか、詳しい仕組みを勉強してみましょう。

仕組み

「吐き気」は、脳の延髄にある嘔吐中枢という場所で生み出されます。

嘔吐中枢の近くには「化学受容器引き金帯(CTZ)」という部位が存在し、ここでいろんな刺激を受け取って嘔吐中枢のスイッチを入れます。
マロピタントは、化学受容器引金帯(CTZ)と嘔吐中枢、両方にストップをかける作用を持ちます。
嘔吐中枢は、嘔吐行動の最終司令塔です。ここをブロックできるのはマロピタントだけ。
これが、マロピタントが最強の制吐剤である所以です。

乗り物酔いにもよく効きます。
乗り物酔いに対して用いる際は、乗り物に乗る30分前に投薬してください。30分もすると効果が現れます。

メインの作用ではありませんが、咳止めの作用もあるため、気管虚脱などで咳が止まらない子にも使用することがあります。

副作用・注意事項

目立った副作用はありません。
基準の5倍の容量で使用しても問題ないというデータすらあります。
一応添付文書には、1日1回最大5日までという制限がついていますが、5日以上使用して問題になることは滅多にありません(もちろん添付文書の指示に従うのが一番ですが、実際の臨床現場で使わないといけない場面ではガツガツ使います)。

臨床医として注意していることは、あまりにも制吐作用が強いために、重大な疾患が隠されてしまう可能性があること。
例えば、「異物による腸閉塞」はすぐに手術が必要な重大な疾患ですが、詰まったものによっては、画像検査ですぐに見つけられないことがあります。
セレニアを使うと大体の嘔吐は治まってしまうため、仮に腸閉塞があったとしても、嘔吐症状が一時的に治まる可能性があります。
「吐き気が落ち着いたから大丈夫か・・・」と安心して放っておくと、腸閉塞の病態はどんどん進行。最悪の場合、腸が破れて腹膜炎を起こします。
セレニアを使うときは、どんな嘔吐も割と落ち着いてしまうことを意識して使用しないといけません。

ちょっと気になる点は、値段が高いこと。
動物病院によりますが、小型犬でも1日200円〜300円ほどかかるため、実際には、嘔吐症状が激しいときに数日間のみ使用するか、頓服薬として処方することが多いお薬です。

また、注射薬もあるのが嬉しいポイントなのですが、皮下に注射するとかなり染みるらしく、どんなに我慢強い子でも大体痛がります。

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