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犬猫のお薬辞典Vol.3〜皮膚のお薬編〜

獣医さんにもらったお薬、どんな作用があって、どんな副作用があるのか、詳しく知りたいなと思ったことはないですか?

インターネットで調べると、添付文書のような堅苦しい説明書きしかヒットしないし、効能書きを見てもナンノコッチャ・・・?って感じで結局よく分からない。

そんな飼い主さんのために、「獣医さんからもらった薬が分かる本」を作りました。

Vol.3は「皮膚のお薬」です。

その他のお薬辞典は以下のマガジンからご参照ください。


このnoteは、犬アトピー性皮膚炎や膿皮症、マラセチア性皮膚炎、外部寄生虫症など、皮膚のトラブルで処方されるお薬をまとめたnoteです。

ちなみに痒み止めのお薬のざっくりとした内容は、「犬アトピー性皮膚炎との戦い方大全【お薬解説とくすり以外にできること】」というnoteで解説済みなので、「うちの子は犬アトピー性皮膚炎で苦しんでいるから、痒み止めのお薬だけ読めればOK!」という方には、上記のnoteをオススメします。痒み止めのお薬の解説以外にも、保湿や食餌療法などの内容を盛り込んでいます。

このnoteはお薬に特化しているため、上記のnoteよりもより詳しく、薬の具体的な作用機序にまで踏み込んで解説しております。

皮膚の弱い子は、一生皮膚病と戦うことになる場合が多いため、皮膚病のお薬は一生を共にする武器です。

また、基本的には獣医師の指導のもと使用しますが、時には飼い主さんの判断でお薬の調整を行う場面もあります。飼い主さんがお薬の内容や注意事項を詳しく知っておくことは非常に重要なのです。

皮膚病と戦っている犬猫の飼い主さんに、このnoteを辞書代わりに持っておいていただくことで、動物病院でお薬を処方されたときに、

  • どんな目的で処方されたお薬なのか

  • どんな仕組みで効果を発揮するのか

  • 今、愛犬愛猫の体の中では何が起きていて、それを薬でどう改善しようとしているのか

  • 服用中、どんなことに気をつければよいのか

など、知りたいこと(+α)が分かるようになるでしょう。

※追加してほしいお薬のリクエストがあればTwitterのDMやnoteのコメントで教えてください。(購入者は追記分も読むことができます。)
※獣医学生さんや動物看護師さんのお勉強にも役立つかと思います。
※返金保証も付けております。内容に満足できなかった方には、全額返金致しますのでご安心ください(note運営事務局の審査が入る点はご了承ください)。


痒み止め薬

まずは、以下の図を使って、犬アトピー性皮膚炎の「痒み」や「炎症」が発生する仕組みを解説します。

皮膚の外からハウスダストなどの抗原(アレルギー反応の元)が入り込んでくると、ランゲルハンス細胞という細胞が抗原をキャッチし、Th細胞(リンパ球の一種)に「こんなの入ってきたよ〜」と教えます(抗原提示といいます)。

抗原提示を受けたTh細胞は、「相分かった!!」ということで、IL-31という物質を分泌し、神経細胞に「痒み」の感覚を起こさせます。

同時に、炎症性サイトカインという物質をじゃぶじゃぶ分泌し、皮膚の腫れや赤みを引き起こします。

この経路のどこかをブロックするのが、犬アトピー性皮膚炎の治療です。

それでは、上記の前提を知った上で、犬アトピー性皮膚炎の痒みを止めるためのお薬4つをご紹介しましょう。

それぞれの特性をまとめると以下のようになります。

それぞれの使い所や注意点について解説していきます。

オクラシチニブ(製品名:アポキル)

今や、犬アトピー性皮膚炎の治療の第1選択薬とも言える、オクラシチニブ(通称アポキル)。

比較的最近開発されたお薬ですが、痒み止めの効果は抜群だし、副作用も少ないし、投与後すぐに効果が現れるし、超頼れるお薬です。

分子標的薬といって、以下の図の「JAK」に選択的にくっついて阻害するお薬です。

Th2細胞でJAKを阻害することにより、IL-31やその他のサイトカインの合成を阻害します。

痒みのもとであるIL-31が分泌されなくなるので、痒みが抑制されるのです。

ちなみに、JAKが阻害されると、IL-31以外の炎症性サイトカインの合成も少し抑制されます(IL-31抑制のほうが強く出ます)。

痒み(や炎症)がおさまるので、犬アトピー性皮膚炎の症状が改善するというわけ。

〜特徴〜

ターゲットが痒みスイッチに比較的特化しているため、炎症全体を抑える作用はやや弱め

皮膚病変が酷くてゴワゴワに黒ずんでいたりする場合は、プレドニゾロンやシクロスポリンの力を借りる必要があります(後述)。

しかし、逆に言うと痒みにピンポイントにアタックするため、目立った副作用はありません。

長期間に渡って使用すると、白血球減少症が起きることがあります。白血球とは外敵と戦ってくれる兵隊さんのことで、この数が減少して兵力不足になってしまうのです。あまりにも少ないと感染に弱くなるため、注意が必要です。

また、膀胱炎になりやすくなるといった報告もあります。

長期間使用する場合には、定期的に健康診断を受けて副作用のチェックをしましょう。

皮膚病変があまり酷くない子、痒み症状だけが認められる子には、最適解と言えるでしょう。

難点はコスト。
非常にお高いお薬でして、中型犬だと1日400円、1ヶ月に1万円以上かかることも。

このコストさえ許容出来れば、継続的な痒みコントロールには、持ってこいのお薬です。

1歳を超えないと使用できないこと、ステロイド剤やシクロスポリンとの併用ができないことが少し残念なポイントです(ステロイドの塗り薬とは併用できます)。

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