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晴れ時々マサラ #12 トリプルXで女神に会えた話

さてさて皆さま、おはようございます。楽しいインド案内人アンジャリです。先週に引き続き過去ブログからの再掲です。2017年3月の文章でございます。手抜きじゃないよ、再記録ですよ。ウフ。

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女神が日本にやってきた

これが書かずにいられましょうか。でもいろいろ配慮したく、ひと晩こらえました。

女神が家族旅行で日本に来ているというのは知っていました。

Facebookやツイッターの公式アカウントで”ハッピーホーリー from Japan!”と投稿があったから。日本のインド映画ファンがざわついて「いまどこにいるんだろう、追っかける?」なんて会話が、私の周囲のイン度高めの人々の間でも交わされていました。

私もツイッターで呟きました。

何千万? 何億? 分からないくらいたくさんのファンを持つ大女優です。神棚に神様と並んでブロマイドが祀られているような、女優というよりも女神という言葉がふさわしい存在です。

美しさもさることながら、その「蜜がこぼれるような」踊りで観る者を酔わせてきた、まさに女神。

そんな存在ですから、インドではどこへ行っても何重にもガードされ周囲は大騒ぎになります。幸か不幸かインド映画がいまいち盛り上がらず、ほとんど知る人がいない日本はゆっくり家族旅行できるんだろうなと、長野の地獄谷あたりで猿の親子と一緒に写っている彼女の投稿を見て思いました。

好きな俳優はたくさんあれど、私にとっても彼女は別格です。同じ日本の空の下にいるというだけでわけもなく嬉しくなっちゃう。女神と知らずに彼女を乗せているだろうタクシーの運転手さんとか、ホテルのレセプションの人とか、うらやましいなあ、女神もつかの間、フツーの人の気分でくつろいでいるといいなあ。

目前に迫る女神

さて。

昨日、そろそろ上映館がなくなりつつある「トリプルX:再起動」を慌てて観に行きました。インドの人気女優ディーピカーが出ているのでね。

近所ではすでに合う時間の上映がなかったので、いつもの行動範囲からは外れた、ちょっと離れた街まで行きました。A街とB街で迷って、そうだ行ったことがない映画館に行ってみようと、どちらかというと苦手だけれどA街を選びました。

「トリプルX:再起動」、面白かったですよ。

スカッと爽やかな気分で映画館を出て、ぶらぶらと雑踏のなかを歩き、すこし人波が途切れる路地に入りましたら。

中学生くらいの外国人の少年が前から歩いてきます。

あれ、”ハッピーホーリー from Japan!”ってマードゥリーが投稿していたときに息子さんが着ていたジャケットに似てるなあ。

見覚えのある赤いジャケットに、見覚えがあるお顔の少年。

後ろから、お母さんらしき女性が弟くんらしき男の子の頭を抱え込んで、じゃれあいながらやってきます。

え? え? え?

女神、その人でした。

なに? なに? なにが起きてるの? Kuch Kuch Hota Hai? いやちがうDil To Pagal Hai、心狂おしく! Are re are yeh kya hua、この人マードゥリーだよ! なぜかこんなとこ普通に歩いてる!

アタマ大パニックですよ。足がガタガタしましたよ。

へなへなとその場に座り込んでしまいそうなのをなんとかふんばりました。

なにかいいたいけど口がパクパクするだけで、言葉が出ません。

ひと気のない路地で立ちすくんで視線だけ異様にロックオンしていたら目が合いますよね。マードゥリー、ちょっと首をかしげて眉毛をよせてこちらを見てる。すれ違いざま、やっとのことで。

“Enjoy Japan”

と声をかけましたら、少女のようなあどけなさで花が咲くように微笑んで。

“Thank you”

とお返事してくださいました。しっかり腹式の女優らしい発声、甘くてよく通る、まぎれもない、あの、女神の声。

ノーメイク、毛糸の帽子をちょこんと頭に乗せて、女神オーラは完全に消していました。

間近で見たら透き通るような肌の、どえらくきれいな人には違いありません。でも、息子くんのジャケットがなかったら女神とはまったく気づかなかったと思います。3月の東京で毛糸の帽子って、ありゃきっと寒がりのインド人だわー、くらいにしか思わなかったでしょう。

女神まで、距離にして50センチ。

しばらく茫然として一家を見送りました。お付きの者もいないし、警備もなし。ぶらぶらとお店を覗いたりして、ほんとうにリラックスして、家族の時間を楽しんでいるのだなあという様子でした。

衝撃を持て余して友人に「マードゥリーに会った」とメッセージを送りましたところ、「アンタなにいってんの大丈夫?」的な返信が来まして、そりゃまあそうだろうなと思いながら、手が震えてなかなか続きが打てません。

しかるべき立場の人が、しかるべきお仕事や約束やおつきあいで会うということはもちろんめちゃくちゃあるでしょう。たくさんの人が生身の彼女を知っていることでしょう。

だけど!!!

こんな世界の片隅で、インドとインド映画に恋い焦がれているだけの、なに者でもない私が、道を歩いていたらたまたま前から女神が歩いて来て、たまたま女神とすれ違うなんてことが、ほんとうにあり得るのでしょうか。

もしかしたら白昼夢?

サインはもらったのか、握手はしたのか、友人から矢継ぎばやにメッセージが来ます。

いやいやいや。

あんなに素の、くつろぎきった人にそんなこと頼めませんって。

至近距離で言葉を返してくれただけで充分すぎます。これ以上ないギフトをもらってしまった気分。

先週、俳優のランヴィール・シンが”だれも貴方のことを知らないスイスでゆっくりできた?”というファンの問いかけに、”最近はみんなスマホで写真撮るよね”とちょっとだけ愚痴めいたことをいっていたのが頭のどこかにあったのかもしれません。

だって、素の女神だよ?

みんなの女神様、ゴージャスな衣装でまばゆいばかりに踊る彼女じゃなくて。

スクリーンに映る姿を何度も何度もうっとり眺めてきた彼女じゃなくて。

ノーメイクで毛糸の帽子で子どもとじゃれあって少女みたいに首かしげてる。

距離も上映時間もそんなに変わらないのに、なぜA街の映画館を選んだのかわかりません。

茫然としたまま歩いていたらなんだか怖くなってしまい、電車に乗りそびれて歩き続け、途中、目に入った神社とお寺にお参りして、3時間かかって家に帰りました。

マードゥリー、どうかどうか日本を満喫してください。昨日はほんの一瞬だけでも貴女のプライベートな時間に触れることができて、ほんとうにほんとうにほんとうに、うれしかった!

いつか、しかるべき人として、しかるべき状況で、貴女に会いたい。それに見合うだけの人物に、私はなりたい。

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あれから4年。このころはツアーを企画してお客様をインドにお連れすることになるなんて、予想だにしていませんでした。マードゥリー様はまだはるか彼方だけれど、やっぱり私は映画と繋がるところで生きていくようです。

2021年も残すところあと数日。どんな年越しになるかな。うふふ。



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