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3ポイント(2):博士の普通の愛情

僕らはその店を出て、しばらく散歩をした。恵比寿から鎗ヶ崎の坂を下って中目黒の方まで行く。ずっと前に僕はこのあたりに住んでいたことがあったんだけど、来るのは久しぶりだった。街は変わったような変わっていないような、とにかく変な感じだった。ここに住んでいた頃、雑誌やテレビで「お洒落な街」と紹介されるたびに僕は笑った。どこが。

山手通りは何十年もかけて道幅を広げるんだか諦めたんだか知らないが、奇妙な道路幅のままだ。僕が住んでいたマンションも立ち退くかもしれないと何度も聞いていたが、いまだにそこにあった。向かいにあったカフェがコンビニになったくらいで何も変わっていない。もちろんところどころに新しい店はできている。でもそれは骨折した足に最高級のピンヒールを履いているように不釣り合いだ。たいして美味しくない和食屋はいまだにあるし、得体の知れない中華料理店もある。それを見なかったことにすればお洒落な部分もあるんだろう。しかしそれは何の解決にもなっていなかった。

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恋愛に関する、ごく普通の読み物です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。