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サヨナラ、アリガトウ、オオタニサン

商店街の喫茶店。60代のマスターが、カウンターでコーヒーを飲んでいるエジさんと話しています。

「エジさん、俺は外国人のお客さんが来たときに、英語が話せればいいなと思うことがあるんだよ」
「ああ、最近はこのあたりも外人が多いですもんね」
「あんたもだろ」
「そうだった。でもお店で必要な英語くらいはちょっと勉強すればできると思いますけど」
「そう簡単に言わないでよ、エジさん」
「日本人は、実はけっこうな量の英単語を知っているんですよ。外来語がたくさん入ってきてるから」
「確かに」
「だから、知っている単語を効率よく使えば話せるようになりますよ」
「どうやって」
「日本人が英語を話せないのは、英語を知り過ぎているからなんです」
「どういうことだか、さっぱりわからない」

エジさんは自分のバッグの中をゴソゴソしています。

「じゃあ、マスター。これ、何ですか」
「ノートパソコンだろう」
「では、これは」
「スマホだね」
「全部、英単語じゃないですか」
「それはわかるけどさ、会話ができることとは違うだろう」
「同じですよ。じゃあ普通のアメリカ人が、『計算機』とか『携帯電話』なんていう日本語を知っていると思いますか」
「なるほど。知らないだろうね」
「知ってるのは、マンガ、サヨナラ、スキヤキ、アリガトウ、オオタニサンくらいですよ。だから普通に持っている英単語の知識を最大限活用できればなんとかなるものです」
「でも文法とかは大事だろう」
「それはもちろん時間をかけて勉強するべきです。でも目の前にお客さんがいたら、その人が何をしたいか、してあげられるかが最優先でしょう」
「だいたいのことが伝われば、間違っててもいいってことか」
「そうです。細かいことはどうでもいいんですよ。小さな文法のミスが気になって何も話せない人は、ある程度英語の知識があるからいけないんです。子供なんかは元々適当に喋るから、どんどん言葉をおぼえます」
「ちょっと勇気が出てきたよ」

英語を禁止するゲームなどがありますが、あれでつい英語を話してしまうのは、いかに日本に外来語が浸透しているかということですよね。

「でもノートパソコンとかスマホって、英語圏の人に言っても伝わらないんです。ここがややこしいんですけど、日本人は柔軟に外来語を取り入れるのに、意味を知らずに使ってしまうんですよね。これが英単語をたくさん知っているからこそ起きる弊害でもあります」
「へえ」
「これは、膝の上で使うという意味で、英語ではラップトップコンピュータと言います。スマホというのはカタカナの略語ですから、スマートフォンと言わないとわかりません」
「独自の使い方をしてるからダメなんだな」
「そうです。マスターは外国のお客さんが来たら、なんて声をかけていますか」
「その最初の一言が出てこないんだよ」
「でしょう。それは自分が言いたい日本語をそのまま翻訳しようとするからです。まずは自分が伝えたいことを日本語から日本語に翻訳するんです。これは練習すればすぐにできるようになります」
「日本語から日本語」
「そう。たとえば『日本の経済はここ数年、停滞気味である』と言いたいとします。そこで、ピタッと止まっちゃうんですよね」
「だって、そんなの英語で言えるわけないもん」
「言えますよ。こう言うんです」

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エジさんという人が、役に立たない英語を教えてくれます。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。