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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2024年2月の記事一覧

テイラーを撮る:写真の部屋

目的がある写真というのは、とても楽です。目的を達成すればいいわけですから。ドジャースのムーキー・ベッツ選手を撮るとしたら、彼の表情やプレイがちゃんと写っていればファンは喜びます。そこにはほんの少しの写真家のスパイスが入っているのでしょうが、野球ファンにとってほとんど意味を持ちません。「ムーキーが写っていること」が96%以上を占めます。 さてと、本題に入ります。

白バック:写真の部屋

「白ホリ」と呼ばれるスタジオの白バックでの写真。同じように見えて毎回まったく違うので難しいのです。完全に白を飛ばしてしまう商品撮影などはさておき、トーンが残っているときはほんの少しでもバランスが崩れると目も当てられないものになります。 この写真の場合で見ると背景の白は「R:225 G:235 B:244」だとわかります。赤から青にかけてそれぞれ10ずつ増えていますが、これくらいの明るさだと3~4くらいの数値の違いでも印象が大きく変わってしまいます。基準になるのは人物のスキン

CP+2024:写真の部屋

『CP+2024』のSIGMAブースで、編集の今野さんとトークイベントをしてきました。開始は13時だったのですが、朝からだと勘違いして全日に横浜のホテルに泊まるという失態を演じました。というか、朝からだとしても十分に行ける距離なんですけどね。まあイベント感を楽しもうということで。 ロケなどの場合、機材の準備は入念に行います。レンズやカメラは言うまでもなく充電器やケーブルなど忘れやすいものは何度も確認します。現場でなかったと気づいても後の祭りだからです。しかしトークイベントに

シェフ:写真の部屋

「あのシェフは食材の温度管理とか、最新のフードプロセッサーの知識とか、高級な包丁コレクションがスゴいって、有名なんだよ」 「へえ。それで、料理の味はどうなの」 「食材の扱いに関しては日本一だって」 「食材は大事だもんな。で、味はどうなんだろう」 「素材を生かすも殺すも、フードプロセッサーの性能にかかってるんだって」 「それはわかるんだけどね。味は」 「限定バージョンの包丁とか、大量に持っているんだってさ」 「職人にとって、道具は大事だもんね。味はどうなんだろう」

冒険前夜:写真の部屋

ソーシャルメディアは単独では存在していません。「そこでの振る舞い」なんていうものはなく、その人の生き方がそのままあらわれるだけです。 近所の海岸を散歩しながら砂浜に咲いた花の写真をアップしているミュージシャンがいて、そこに「次の曲を作ろう」とキャプションが書いてあったとき、その人が音楽を生む瞬間を知ることができます。ラーメンを食べていてもいいし、ジョギングしている写真でもいい。今まではできあがった音楽が完成品の状態で我々の目の前にあらわれていたわけですが、それ以前の何かを生

三度目のウンチ

4年前に初めての本を出し、先月末に二冊目が出ました。出た、って言い方はどうなんですかね。小学生がウンチの話をしているくらい幼稚ですね。上梓とか出版とか刊行とかリリースとか色々な表現があるんですが、出版や刊行は出版社が主体であるような気がするので私が言うのは違います。上梓というのは、昔、梓の木で版を作っていたからだそうですが、今回の本は木版は使わず、デジタル作業がメインのはずですからしっくり来ません。 下品な言い方で恐縮ですが「考え」というのは排泄物のようなものですから、ウン

次に書く本と、鳥の子育て。

「最近、鳥の子育て動画ばかり見ている」という投稿をしているのですが、反応が極めて薄いのが残念です。皆さんちゃんと見たことがあるのだろうか、と涙ぐむ思いです。親鳥が与える餌である虫や小さなトカゲなどの見た目に拒否反応があるのかもしれませんが、それは私たちが日々食べている肉や魚も同じことです。 まず、巣の中の雛鳥はまだ目が見えていません。親が戻ってきた気配を感じて大きな口を開けてピーピー騒ぐのですが、親は雛鳥の口に割と乱暴に餌を突っ込みます。そんなに大きなものを飲み込めるのか、

黙殺への鈍感:写真の部屋

「毎日、何気なく撮っていますけど、あとでこれを見るとバレンタインの頃だったのかとわかります。写真は記憶と記録だけでいいと思っているので『表現をしたい』という、目的を持った自己顕示欲の気持ち悪さからいかに自由になれるかだけを考えています」 と、今日Twitterなどに投稿しました。 短い文章では簡単に説明できないので補足しておくと、自分のやりたいことを「表現する」というのは遥か先にある、という事実についてです。 表現というのは「新星の発見」だと思っています。価値のある表現

ピアニストのように:写真の部屋

「僕は運動神経がいいのでアスリートになりました」と聞いても、当たり前すぎて何とも思いませんよね。でも、写真はなぜかそこが違います。アートを観せられたときに「いや、アートはまるでわかりませんので」と言って発言を避ける人がたくさんいます。しかしその人が、ある日突然カメラを買って写真を撮り始めたりします。そして「いい写真が撮れないなあ」と言うのです。 これって「運動神経が悪い私はアスリートを目指しましたが、まったく記録が伸びません」と言っているのと同じくらい不思議に聞こえないでし

選ばれているか:写真の部屋

自分がアートディレクターでもあることから「撮って欲しい写真」には明確な基準があります。デザインだけをしていた頃と、写真も撮るようになった現在では求める写真に大きな違いが生まれました。アートディレクターはクライアントとの会議を何度も経てビジュアルの設計図を作り、そこに必要な写真はどんなものであればいいかを決め、写真家と他のスタッフに依頼します。 そのとき、こちらが思っているような写真が撮れない場合があります。理由はいくつもあるので詳しく説明しますが、ここからはメンバーのみとし

ありがとうございます:すべてのマガジン

『カメラは、撮る人を写しているんだ。』 発売されて、Amazonのランキングが出ました。 このカテゴリはこちらで指定することができず、Amazonで振り分けられるようです。現在は「教育」などにもカテゴライズされている模様。 写真の教則本だと思って買った人から「まったく役に立たなかった」というレビューもありますが、「文学」なので仕方ないだろうと言い訳もできます。ネットでタイトルを見て勝ってくれた人が誤解するのももっともなのですが、この本はそういった「TIPS」を勉強して

本日発売になりました:写真の部屋

写真に限らず、どんなことでも「自分が好きなようにやっていいのだ」と思っています。それを本の中では創造の100%の自由と書きましたが、どこかに「うまく撮ろう」とか「人から気に入られる写真を撮ろう」という邪念が働いてしまうものです。そこから自由になって欲しいと思って書きました。 あなたが撮りたい、愛するモノ、それは何でもいいのです。高級ホテルのアフタヌーンティでなくてもいいし、ナイトプールじゃなくてもいい。他人の価値観に耳を傾けず、自分が好きなものに自信を持って欲しい、と思って