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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2023年10月の記事一覧

直線の選択:写真の部屋

写真の技術というのは感度やシャッタースピードやライティングをコントロールすることだと思われがちですが、それは全体のほんの小さな部分です。反対に言うと、その小さな部分を気にしすぎて大事なところを見逃してしまうこともあります。 特に人物写真を撮るときは、相手の顔に注目しすぎてしまいます。表情が、なんていう言葉をよく聞きますが、モデルの表情は一部分です。たとえば誰かと話しているときは、相手の表情をじっと見ていますね。その表情を観察していて「写真が撮りたい」と思ってカメラを向ける。

台北へ:写真の部屋

来週は久しぶりに台北に行きます。以前撮った写真を見返していたんですが、そこに「写真は、そのまま映画になる物語があるかどうかが基準」とメモがついていました。 女性の何も見ていない佇まい、スマホの世界にいる男性。ベストな場面でした。さて、それをより強めてみたのが次の写真です。

テイラー・スウィフトではなく:写真の部屋

新しいプロジェクトを始めました。いま書いている『写真の本』の中で、偉そうに「写真とは何ぞや」と語る登場人物に対して、「だったらエビデンスを見せろ」という台詞があるのですが、これはまさに自分に向けた発言でした。これが自分の写真の理想である、という表明をしていないと無意識に思っているからでしょう。実は全然「無意識」などではなく、毎日思っているギンギンの意識の産物なのですが。 日々、仕事に追われていると何かをしているような気がして、純粋に自分が何をしたいのかを見失います。有名な誰

写真の本:写真の部屋

昨日は編集の今野さんと『写真の本』の打ち合わせをしました。当初、12月上旬の刊行とお伝えしてたのですが、1月下旬になりました。 書きたいことを一通りまとめてはいて、あとは全体のグルーヴというか、流れをスムースにする作業が残っています。今のところ、書かねばと思っていることが先走りすぎてかなり暑苦しい感じになっております。この前、古賀史健さんと、「自分がわかっていることを書くときは、話が走りすぎてしまう」という話をしましたが、まさにそうなってしまっていて、写真の初心者に説明する

釣り針のポートレート:写真の部屋

あるテーマというか手法があって、それを本格的にまとめて撮り始めようと思っています。人と会えない状況が数年続いてトンザしていましたが、仕切り直して再開します。ジャンルを大きく分けるとポートレートと言えるのでしょうが、やや複雑な撮り方をするつもりです。仕事は決められた目的があるのでいいのですが、作品は「釣り針」のようなもので、魚をバラさずに釣り上げるには「返し」がついていないとダメなのです。一度刺さったら決して逃げられない、魚本人にとっては残虐極まりない、あの部分です。 ポート

笑顔を発明した人:写真の部屋(無料記事)

「笑顔、笑顔って、お前は『笑顔を発明した人か』」という、かもめんたるのコントの台詞があります。大好きな言葉ですが、日常生活でも写真を撮るときでも「笑顔」を宇宙の真理みたいに求める人っていますよね。 この流れでもう私のスタンスは十分にご理解いただけたと思うんですが、笑顔が一番大事と言う人を心の中と外で、笑顔バカと決めつけています。もちろん自分が好きな人が笑顔でいるときはうれしいものです。それはわかっていますが、24時間笑顔だったら気持ち悪いし、あるときふと見せる笑顔の価値がな

太陽はひとつ:写真の部屋

ギャラリーで一枚が数十万ユーロで売られている作品ならまだしも、私たちは仕事で写真を撮っていますからそれに応じた着地点というものがあります。またあえて極端なことを言ってしまえば、雑誌の1ページに載る5万円程度のギャラの仕事と、大きなプロジェクトで撮影する百万円から一千万円の仕事を比較しても、何も「やること」は変わりません。自分が普段使っているカメラとレンズで、いつもと同じようにシャッターを切るだけです。 大きなプロジェクトでは関わる人も多く人件費などの経費は莫大にかかりますが

野生のコインランドリー:写真の部屋

写真を撮り始めたばかりの人から聞いて、ちょっともったいないなあと思うことがあります。それが「撮りたいテーマはこれです」という言葉。 もちろん自分はこんな写真が撮りたい、と決めるのはいいことなのですが、撮りたいものがモチーフの選別になってしまうともったいないという意味です。アートの言葉ではタイポロジーと言いますが、ベッヒャーのように同じようなモノを標本のように集めることで集合の中で類似点や相違点が見られるので、面白い手法です。 私はどこに行っても、コインランドリーを撮ってし

さあ、11月まであと一ヶ月:写真の部屋

10月1日。秋ですね。秋は「食欲の芸術」と言われますから、美味しいものを食べて、たくさん写真を撮りましょう。 私はときどき、取り立てて買うべきものもないのに新宿や銀座のカメラ屋さんに行きます。「何か、いい魚は入ってる?」と料理人が市場をのぞくような感覚です。今のところ特に必要なものは何もありません。カメラもレンズもこちらが売れるほどありますからね。しかしついつい行ってしまいます。 今はネットに色々なことが書かれていますから情報収集だけなら別に行かなくてもいいのですが、行く