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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2023年8月の記事一覧

となりの吐露:写真の部屋

私は善人でありたいと思っていますが、もちろん聖人君子ではありません。以前、ある写真家に「あなたの写真は全然よくない」と言われたのですが、グッとこらえたことがありました。私の写真がその人が正しいと思う価値観に合わないだけだと思いますし、こちらとは撮っているジャンルもまったく違っていたから我慢ができました。 先日その人のクレジットが入った写真をたまたま目にする機会がありました。どういう経路で頼まれたのか理解できませんが、畑違いのファッション写真です。その写真は、美しいかどうかの

映画のカット数:写真の部屋

2時間くらいの映画には、どれくらいのカットがあるのでしょう。映画の種類や監督の好みによって違うので数は一概にはいえないんですが、ワンカットの平均的な秒数で全体を割ってみると、おそらく700から1000前後なのではないでしょうか。 それに引き替え、写真はたったワンカットだけいいのがあればオッケーです。なかなか1000カットが入っている写真集はなさそうですし、時間経過とともにストーリーを表現しているものもないでしょう。 つまり、自分が「これはいいのが撮れた」という写真(数秒の

解決方法:写真の部屋(無料記事)

日本テレビ、24時間テレビの新聞広告撮影。陸上競技場でのロケハンの際に、義足をつけて座れる場所を考えていたのですが、あまりいい角度が見つかりません。しばらく考えてからある方法を思いつきました。 人物は光のいい場所にいながら、窓ガラスにトラックの雰囲気を写り込ませればいいのでは、と。 写真を撮るためにレンズを向ける方向はひとつしかありませんが、画面の中に写るものは選択できます。そのひとつが鏡や水面など反射が起きて他のモノが入り込む状況です。ビルのミラーになっている外壁や雨に

工具箱と工具の数:写真の部屋

今日は、とても簡単な撮影技術のお話をします。 「ししゃも」がありました。食べるためのものですが、何かあるとつい撮りたくなるのでカラーペーパーに置いて撮ってみました。ストロボを天井に当てて標準より少しだけ長目の65mmレンズを使いました。 こんな感じで撮れました。天井にバウンスさせたストロボの光は真上からではなく、60度くらいのやや上の方から当たっています。完全にフラットにしてもいいのですが「ししゃも」の下側に影をつけたかったのでそうしています。これでもいいのですが、さらに

機材マウント:写真の部屋

昨夜は11月に写真の本を出す幡野広志さんとXのSpacesをやりました。「23時から一時間くらい、軽く」とメッセージを送ったのに、終わったのは3時30分でした。そんな時間にもかかわらず多くの人が聴いてくれました。好きなことを話していると時間を忘れてしまうものですが、それが自分たちの「仕事」だというのですから、幸福と言えましょう。 幡野さんと私はセンエツながら写真についての本質的な部分が近いと感じていて、アウトプットと経路は違うのですが最終的に辿り着きたい場所は同じだと思って

おじいさんの昔話:写真の部屋

写真を撮るとは、選択です。選択の価値はその人が持っているサンプルサイズに依存しますから、多くを見た人の方がよりグルメである可能性があるわけです。写真を学ぶとき、当然ながら「写真の技術」を勉強しますが、それは最後のアウトプットのほんの一部分で、すべてではありません。 おじいさんの昔話が面白いのは、私たちが体験していない時代や場所のことを教えてくれるからです。知らないことを知ることの楽しさを写真に置き換えてみれば体験の乏しい人の話が面白いはずがありません。まあおじいさんがバリバ

SNSがなくてよかった:写真の部屋

自分が若い頃にソーシャルメディアがなくてよかった、と心から思っています。なぜなら「恥ずかしい」からです。偉そうな老害発言だと聞き流してもらってもいいんですが、まあ冷静に聞いてください。 プロセス・エコノミーという言葉を聞いたことがあると思いますが、これは完成品を売るのではなく、その制作過程から商品にしてしまおうという考え方です。ブランディングやマーケティングでも、モノを売るのではなく物語を売れ、などと言われます。商品ができあがるまでの経過に参加することで、消費者はより深いブ

写真の破壊力:写真の部屋

今日は、理解と想像力のお話です。 写真に対する共感は、知っているものが強く、知らないものには弱くなります。「世にも珍しく価値があるもの」が、実はそれほど共感を得られないということは理解しておくべきです。

捨てる297度:写真の部屋

『写真の本』を12月に出版すべく、頑張っています。何が大変かというと、新しいことを書く苦労ではなく、今までここにも書き散らかしたようなことを「漏れなく」盛り込みたいからです。まだ一冊しか本を出したことはありませんが、出版されたあとに「あれも書いておけばよかった」というジクジたる思いがありました。初体験の未熟さゆえですが、今回は同じ思いをしたくないので粘っているわけです。 編集の今野さんがピックアップしてくれた「写真の部屋」の記事が送られてきましたが、10万字以上あり、それが

ナガオカケンメイ:写真の部屋(無料記事)

ナガオカケンメイは、私が名前を呼び捨てにされる数少ない友人です。会った最初の瞬間から「アニ」と呼ばれたので、ゲせないと思ってあとで調べたら私の方が年上でした。ですから普段、私は年下が相手でも呼び捨てにはしないのですが大人げなく「ケンメイ」と呼んでいます。 ケンメイは切羽詰まった仕事のときに私に連絡してくるので、「明後日、撮影できるかな」みたいなタイムスケジュールが多いです。おそらく何人かに断られたのだと推理していますが、最終的に私のことを思い出してくれるのはとてもうれしいと

ダメ出しは自分へ:写真の部屋(無料記事)

認めたくないけど、確実にある、という問題について。 誰でも自分の信念とか理想を他人からとやかく言われたくないものです。それは尊重した上で(ここ、とても重要なので毎回書きます)。 noteでもそうですが、誰かが「私のやりたいこと」という理想を書いているときの心持ちに興味があります。認めたくないけど確実に存在する問題、というのがそこに横たわっているからです。 誰でも親に愛されて生まれてきて、自分は自分らしく自由にやるべきことをして生きていきたい、と思うのが当然です。でも、そ

人生にピンを打つ:写真の部屋

「写真家ってどんな仕事ですか」と聞かれたとき、「世の中の皆が『一生に一度でいいから会いたい』と思っているような人に会い、景色が綺麗な場所に出かけ、撮影をしたり、その土地の美味しいものを食べたりして、帰ってくると巨額のギャラが振り込まれている仕事です」と答えます。 冗談半分としても、おおむねそんな感じです。写真を撮る仕事をしていて、何が楽しいのかを考えてみると、やはり一番大きいのは人と出会えることです。ひとりの人が一生に会える人数はそれほど多くないと思いますが、我々の仕事は付