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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2022年8月の記事一覧

1. ひとつであること:写真の部屋

自分が好きなものを自分のために撮る写真はいいのですが、仕事には「目的」があるので、別の回路を使わなければならないことがあります。そのふたつが一致するのが理想で、自分が撮りたいと思う写真がそのままのカタチで仕事になるという意味です。そういう仕事も現実にたくさんあります。 仕事において、その理想が実現できるかどうかの具体的な見分け方がいくつかあります。まず表現したいことが「ひとつであること」。とても簡単に聞こえますが、世の中に溢れる写真を見てみるとほとんどがふたつ以上のエレメン

万能なGR:写真の部屋

どこかの街に行くとき、「仕事ではないスナップ」で使うのに適した焦点距離がある。マラケシュのように道が狭くごちゃごちゃしたところとテキサスみたいに広々とした場所ではレンズの選択が違ってくる。来月Parisに行くが、GRIIIxの40mmはよさそうだ。自分の感覚だといつもは35~55mmくらいを中心に使っている記憶があるんだけど、まあこのレンズしかないと割り切れるのでそれでよし。これもあったほうがいいかな、とレンズをたくさん持っていって選択に迷うよりはいい。 広い場所を撮りたい

今日理解したこと:写真の部屋

今日、理解したことがある。

テクノロジー信仰:写真の部屋(無料記事)

テクノロジーが世界を変えることは知っている。そんなのは誰にでもわかるんだけど、大事なのは「自分との関わりへの自覚」だ。外的な要因が変わることで自分が変化するのはクルマを運転すると性格が荒っぽくなる人と同じであまり褒められたものではない。テクノロジーの進化に一喜一憂する人はその根源を正確に把握していないことも多く、なぜ肉体を鍛えていない自分が性能のいいクルマのハンドルを握った瞬間に他者をないがしろにするのかに自覚的ではない。つまり幼稚なのだ。 ある人から、「今後はAIが音楽や

クロスプロセス:写真の部屋

カメラについているフィルムシミュレーションみたいな機能を一度も使ったことがなかった。GRIIIxで試してみたが、これはダメだな。Instagramのフィルタと同じようなもので、誰が撮っても同じになっちゃう。 クロスプロセスの雰囲気をうまく出しているし、自分でRAW現像のときにこう処理するのは至難の業かもしれない。でもこれが自分の写真の個性かと言われればそうではない。誰でも「それっぽい写真」が撮れたような気になるための機能でしかない。

毎日はすべてロケハン:写真の部屋

毎日、朝から晩まで写真を撮っている。その中で「仕事」での撮影は数%以下だ。アスリートでもミュージシャンでも同じだと思うけど、練習の量は本番の舞台でやることの何千倍にもなるはず。あるドラマーと話をしたとき、彼はつねにドラムスティックを持っていて、誰かと話しているときでもずっと太ももを叩いている。「すぐにデニムが破れるんだよね」見てみると膝に近い太ももの部分が真っ白になっていた。 『ラクガキング』という別名を持つ寺田克也画伯もそうだ。彼は食事をしている時でさえいつでもノートに絵

衝動率:写真の部屋

カメラ屋に寄って、何も衝動的に買わずに帰ってきた日には自分で自分を褒めてあげたくなる。それほど衝動率は高い。そもそも仕事で使う機材なんていうのはもう揃っている。揃い切りまくっているのだ。店に行っても買いたいモノが見つからない。だからこそ何に使うのかわからないようなものをつい買ってしまい、また衝動買いをしてしまったと反省するのだ。しかし数回ほど何も買わない日が続き、自分で自分を褒めていると何かを成し遂げた貯金があるような錯覚を生んでしまい、ご褒美として何かを買ってしまう。 な

ナメんじゃねえぞ:写真の部屋

何度か書いたことがあると思うのですが、俺は極度の人見知りでした。それも気が弱い人が陰に隠れるタイプとは違って「絶対に俺に話しかけるなよ」というカミソリ・オーラを出していました。ですからかなり無神経な人以外は容易に近づけず、会社の同僚だった平林監督に言わせると、入社してから半年は怖くて俺に挨拶すらできなかったそうです。「挨拶したら殺されると思っていた」とのことです。 実際には殺さないので安心して欲しいんですが、そのように「ナメんじゃねえぞ」という鎧の奥の柔らかい部分には、ただ

撮る枚数と速度:写真の部屋

「撮る枚数が少ないですね」と言われることがあります。写真はたくさん撮った方がうまくなるとか、枚数が多ければいい写真が含まれている可能性が上がるとかいった話を聞きますが、どちらも疑問の残る言葉です。 先日、バスケットボールの練習風景を撮影する仕事があり、数年ぶりに連写モードを使いました。今使っているカメラでは初めてのことです。普段は連写モードを使いません。ベストのタイミングとは1秒間に10枚シャッターを切ればそこにあるだろうというのは大きな間違いで、実は最初の1枚にかかってい

本を読むこと:写真の部屋

「いい写真を撮るな」と感じる人を観察していると、本をたくさん読んでいることが少なくありません。みんなが同じことをすればいいというわけではないので本が好きな人も嫌いな人もいて構わないんですが、こう考えてみたらどうでしょうか。 写真とは瞬間を取り出した物語であると思う人は多いでしょう。一枚の停止した画面の中に前後が想像できる写真、という優れたものが存在しますが、「静止していること」をネガティブに受け取る人は動画を撮るようになり、前後も余さずに写す方に向かうでしょう。ここが文学と

レスポンスの訓練:写真の部屋

今日はお昼に突然思い立って東京駅へ。タイミングが合った山形新幹線に乗りました。行き先を考えずに取りあえず東京駅に行くことがたまにあります。新幹線に乗ると窓から写真を撮りながら訓練をするんですが、これは面白いので皆さんもやってみてください。 どうってことない車窓からの風景です。しかしいい写真を撮ろうとしているのではないのです。野球で言えば素振りというか、基礎訓練。次の写真を見てください。

お笑いコンビ:写真の部屋(無料記事)

ある若いコンビが面白いよ、という話を耳にしました。その名で検索してみると本人たちのYouTubeアカウントがヒット。ズラッと並んだ動画で話していたのは、仲間と酒を飲んだとか業界への不満の話など。漫才のネタはひとつもアップされていませんでした。彼らが面白いコンビなのかどうかはわからないまま、そっとYouTubeを閉じました。 これって写真を撮る人にも同じことが言えるなあ、もっと言えば、何かを作る人全部に当てはまるんじゃないかと思いました。誰か知らない人に興味を持った場合、その

ギャランティ:写真の部屋

我々フリーランサーの一番大きく一番アンタッチャブルな問題が「ギャランティ」です。英語だとギャランティが保証や担保を意味するのはご存じでしょう。転じて出演料や報酬などの意味でも使われています。「ギャラを保障して欲しい」は、チゲ鍋やフラダンスになってしまうので言わないように。 友人である平林監督がnoteにギャラの話を面白おかしく書いていたので、尻馬に乗ってみようと思いました。人の数だけギャラ観はあります。それに関わる話には少なからず興味を持ってしまうものですが、平林監督も書い