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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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#彼女

エンドロール:博士の普通の愛情

この歳になると便利な仕組みが使えるようになることを若者に教えておきたい。それが時効だ。トップギャランが「胸に棘刺すことばかり」と歌った青春時代は、あとからほのぼの思い、笑いながら味わうことができる。今日の話は、いま映画館の座席に座っているひとりの中年男性の40年前の出来事だ。 彼はイラストレーターを目指す専門学校生。当時はイラストレーターが時代の花形だった。『イラストレーション』という雑誌には公募のコーナーがあり、そこに自分の絵が掲載されることを誰もが夢見ていた。彼もそのひ

シンクロニシティ:博士の普通の愛情

YouTubeを見ていると懐かしい曲がアップされていたりする。いい気分になるんだけどそれも長くは続かない。僕が若い頃に MTV やベストヒットUSA が始まった。それを毎週録画しておいて飽きもせずに毎日朝まで観ていると早起きの父親が起きてきて「まだ起きていたのか」と怒られるということがよくあった。 今でも当時の音楽ばかり聴くのは、粘土をこねて作られた自分という人形には、その頃の音楽が砂粒のような不純物としていつの間にか練り込まれているからだと思う。古い曲が流れてきたとき、カ

東京と中国の寒さ:博士の普通の愛情

タクシーのIDプレートが最近、番号だけのものに変わりつつある。女性ドライバーも増えているからプライバシーに配慮したのだろう。昨日乗ったタクシーはまだ顔写真付きのものだったが、そこに中国人と思われる名前が書かれていた。東京では外国人ドライバーが少しずつ増えているので、話をするのが楽しい。 「中国からいらしたんですか」 「はい、そうです」 「タクシーを始めてどれくらいですか」 「3年くらいです」 これくらい話して、相手の日本語のレベルを探る。それほどうまくない人にはあまり難し