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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2019年11月の記事一覧

コインパーキングと握力:博士の普通の愛情

僕は音楽雑誌で仕事をしているカメラマンで、彼女はそれほど名が知られてはいないミュージシャンだった。今はもう関係がなくなってしまったからこうして話すことができるんだけど、僕は数年前の一時期、ガールズバンドのベーシストである彼女とつきあっていた。 音楽雑誌の取材で知り合い、彼女も西荻に住んでいるというので撮影が終わってから一緒にタクシーで帰ったのがきっかけだった。駅に近い「FRIDA」というバーに寄った。そこでは音楽の話ばかりしていた記憶がある。好きな音楽と、彼女がバンドで求め

初めて出会うタイプ:博士の普通の愛情

ケンタロウとボクちゃんと三人で、食事に行った。 ボクちゃんに生まれて初めての彼女ができた、という話を聞いていたので、ケンタロウと俺が会うタイミングで集まったのだ。20代の若者の恋の話を聞いてやるはずが、最後は「ケンタロウと俺が、ボクちゃんに10万円ずつお金を払う」という、ちょっとおかしな展開になった。 ボクちゃんは21歳の大学生。小中高を私立の男子校で過ごし、今まで彼女ができなかった。性格は悪くないしモテてもよさそうな見た目である。女子大生の彼女とは「ユル目の合コン」で知

イノセント:博士の普通の愛情

向田邦子さんという人の、感情を拾い上げるチカラには感服する。 世界は語るべきモノ、取るに足らないモノという億千のパーツでできているけど、「なぜその感情を手のひらに載せることができるのか」と驚く。 最初にそれを知ったのは、1978年に書かれた『父の詫び状』という随筆集だけど、あの頑固な父親の強さや優しさを描くことができた、生活の中の些細な瞬間を見逃さない能力は素晴らしい。 『イノセント』シリーズの『愛という字』を観た。 主演は原田美枝子さん。ごく普通の主婦がたまたま知り

もう一度。:博士の普通の愛情

ラジオからカーペンターズの「Yesterday once more」が流れてきた。2年前に死んだ妻がとても好きだった曲だ。妻が彼らのことを言うときは、「カレンとリチャードが」と、まるで遠くに住んでいる自分の友人のように話していた。 音楽を聴いた瞬間に思い出す出来事の多くが、いつも切なかったり、悲しかったりするのはなぜだろうと不思議に思う。もしかしたら「思い出す」という行為そのものが悲しいのかもしれない。 曲が終わると、ラジオはうるさいパーソナリティの軽薄なおしゃべりに変わ

ナラタージュ:博士の普通の愛情

映画『ナラタージュ』を観た。女生徒と教師の恋愛という、ありがちと言えばありがちなお話。有村架純という女優はとても演技が巧いなと感じた。それはさておき。 ありがちな題材からはありがちな結論に向かうものだけど、恋愛とは極論すると「タブーとの距離感」なんじゃないかと感じることがある。 古くて下品な表現に、「一盗二婢三妾(人妻、使用人、妾)」というのがあるように、快楽の質はタブーを破ることと密接に関係しているはずだ。教師と生徒という関係もこれに近いのだろう。

嫁と芝山さん:博士の普通の愛情

昨日の朝な、夜勤終わって帰ったら、部屋にタバコの匂いがすんねん。 奥さん、タバコ吸わへんよな。 うん。「夜、誰か来とったんか」言うたら、「来てたよ」と。 ほう。 「誰が来とってん」て聞いたらな、「芝山さん」言うねん。 芝山て、誰や。 知らんヤツや。知らんヤツが泊まった言うねん。 何や、その話。 わからんわ。うちの嫁は天然やろ。小学生みたいなところあるから。夕方、近所の公園のベンチで寝てる男がおったから、「風邪引くで」って声かけたらしいんや。 ほう。そんで。

3度目の結婚:博士の普通の愛情

野村監督の言葉ではないが、「モテる人の理由はわからないことがあるが、モテない人の理由は完全にわかる」。 今日はごく普通の恋愛の話をするようにつとめる。いつもは恥ずかしいので最後がホラーになってしまう。照れ隠しである。 この前、ある男性Aさんの話を聞いた。俺の友人のBから言わせると悪くない 男だと思って女性の前で「彼は恋愛対象としてどうか」という話をすると、その場にいた女性全員が「あの人はダメ」と言ったそうだ。 これは男女の評価の違いという問題も含んでしまっているけど、恋