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セルルック3DCGアニメについてまとめてみた

by 星島てる

セルルック3DCGとは、質感を2Dアニメに寄せた3DCGのことを指す。

近年、セルルック3DCGアニメーションが注目を集めている。

3DCGアニメーションと言えば、PIXARの『トイストーリー』が有名だ。海外の3DCGアニメーションは品質が非常に高いが、手描きアニメに慣れた日本人には、どうしても違和感がある。

一方でセルルック3DCGは、このような違和感が可能な限り排除されており、少しずつ大衆にも受け入れられるようになってきた。

これにより、2Dアニメが主流の日本のアニメ業界では、セルルック3DCGとの向かい方が、現代アニメの1つのテーマとなっている。

そこで今回は、セルルック3DCGの「現在」についてまとめてみる。

アニメ×3DCGの歴史

セルルック3DCGについて解説する前に、「アニメ×3DCG」の歴史を年表形式で振り返る。

1980年代:多くの3DCGソフトウェアが立ち上げられる
1995年:世界初の全編3DCGアニメ『トイストーリー』が公開
1997年:スタジオジブリで初めて3DCGを本格導入した『もののけ姫』が公開
2009年:『フレッシュプリキュア!』のEDで3DCGダンスが初めて採用
2013年:TVシリーズ初のセルルック3DCGアニメ『蒼き鋼のアルペジオ』が公開
2020年:スタジオジブリ初の全編3DCGアニメ『アーヤと魔女』が公開
2022年:『THE FIRST SLAM DUNK』が公開

3DCGアニメーションと手描きアニメの最大の違いは、進化の速度だ。どちらもノウハウの蓄積によって表現が進化するが、3DCGはコンピューターとアプリケーションの進化も加わる。

『トイストーリー』が公開された1995年と現在では、3DCGアニメの品質は劇的に向上している。

手描きアニメも品質が向上しているように見えるが、それは3DCG、撮影技術、エフェクトの進化による部分が大きい。実際、アニメーターが手で描く「作画」そのものは、3DCGほどの劇的な進化は見られていない。

『スラムダンク』がアニメ業界を変えた

セルルック3DCGアニメ自体は、2009年の『フレッシュプリキュア!』以降存在していた。だが、それは一部のアニメファンに注目されるだけで、大衆的ではなかった。

しかし、2022年の『THE FIRST SLAM DUNK』の登場で状況が一変した。全編3DCGで描かれた本作は興行収入155億円を突破し、大ヒットとなった。

もちろん、『スラムダンク』のブランド力も大きいが、それ以上にセルルック3DCGアニメーションとしての完成度の高さが大衆的なヒットに繋がった。

本作の成功により、多くのアニメファンが抱いていた「3DCGの違和感」が取り除かれ、アニメーション表現が見直されるようになる。

本作が凄まじかったのは、原作再現度に尽きる。まるで漫画が動いているかのような映像表現だった。もはやセルルックというよりは漫画ルックである。こうなってくると「漫画をアニメ化するんだったら3DCGもアリ」ということになる。

現状として、本作ほどの3DCGアニメを制作するには莫大なコストが必要だが、それもコンピューターの進化に伴って、解決されていくだろう。そして本作の登場により、アニメーション表現が大きく見直されるようになっていく。

セルルック3DCGで難しいのは「線の表現」

近年、やたらと「線」を強調する作品が増えた。

例えば『ONE PIECE』は2010年ごろまでは線が細かったが、次第に線が太くなり、ワノ国編では極太線とも言える線の太さだった。

『鬼滅の刃』もそうだが、特にジャンプ作品で太線を採用する作品が増えている。

線を太くするメリットは漫画的な表現がしやすいことだが、セルルック3DCGは漫画的な表現が難しいと考えられている。3DCGは「線」ではなく「形」でキャラクターをデザインするからだ。

手描きアニメやイラストは、人間の手で線を描くことで、形を作っていく。一方で3DCGは、粘土細工のように、まずは形があって、それをイジっていくことで少しずつキャラクターを作っていく。

手描きの基礎は「線」にあり、3DCGの基礎は「形」にある。

そのため、セルルック3DCGは「線の表現」が難しい。逆に言えば、この「線の表現」こそが、手描きアニメの真骨頂だ。

例えば『キルラキル』で有名なTRIGGERや、『ピンポン』で有名な湯浅政明監督は「線の表現」を追求している。そして『ピンポン』ような漫画的な表現を、3DCGで表現するのは非効率的だ。

だから2020年代では、セルルック3DCGに真っ向から刃向かう形で「線の表現」を追求した作品がおもしろくなるのではないだろうか。

セルルック3DCGと手描きの融合が激アツ

「線の表現」を追求することは、セルルック3DCGから距離を置くことにもなる。

一方で、現在のアニメ制作のムーブメントは「セルルック3DCGと手描きの融合」にある。

ここでいくつか例を挙げようと思う。

『ラブライブ!』

2009年に『フレッシュプリキュア!』で3DCGダンスが採用され、2010年代は音楽系アニメのライブシーンやダンスシーンで3DCGが採用されるようになる。

その最先端を走っていたのが『ラブライブ!』だった。

『ラブライブ!』では、日常シーンは手描きアニメで、ライブシーンは3DCGで描写されている。シリーズが進むごとに、セルルック3DCGの品質が向上し、特に『虹ヶ咲』以降は、3DCGと手描きアニメの区別がつかなくなってきた。

『ラブライブ!』がおもしろいのは、3DCGがセルルックになっていったのと同時に、手描きアニメが3DCGに寄せてきたところにある。

僕が思うに、3DCGは手描きアニメに比べて全体的に明るくなる(つまり白っぽくなる)。一方で手描きアニメは、セル時代のベタ塗りが残っているのか、色が全体的に濃い。

当初の『ラブライブ!』も、キャラクターは一般的なアニメと同等に色が濃かったのだが、シリーズが進むにつれて、次第に明るくなっていった。μ'sとLiella!のティザービジュアルを比べれば、その違いは一目瞭然だ。

つまり『ラブライブ!』は、3DCGがセルルックになり、手描きアニメも3DCGに寄せることで、セルルック3DCGと手描きアニメの高レベルでの融合を実現したのだ。

『ガールズバンドクライ』

一般的に、3DCGそのものは背景に用いられることが多い。その典型的な作品が『鬼滅の刃』だ。本作では、背景に3DCGを採用することで、非常に複雑なカメラワークを実現することに成功している。

だが『ガールズバンドクライ(以下、ガルクラ)』は、その逆だ。メインキャラクターをセルルック3DCGで表現する一方で、背景やエキストラは手描きアニメで描かれている。

『ガールズバンドクライ』は2024年に公開された音楽系アニメで、アニメ制作会社は東映アニメーション

まず前提として『ガルクラ』のセルルック3DCGは、非常にレベルが高かった。漫画的な表現も盛り込まれていて、手描きアニメと遜色もなかった。もちろん、ライブシーンも素晴らしい。

一方で、背景やエキストラが手描きなので、これが手描きアニメの雰囲気を醸し出すことに成功している。

このワークフローの素晴らしいところは、将来のアニメ業界を左右するであろう生成AIの応用が効くということだ。

現状として、データ量が凄まじい3DCGをAIが生成するのは現実的ではない。一方で、背景絵に関してはその限りではない。

『ガルクラ』のように「メインキャラクターはセルルック3DCGで、背景やエキストラは手描き」というワークフローであれば、テクノロジーの恩恵を最大限受けることができるのではないだろうか。


Blenderでもセルルック3DCGは作れる!

『THE FIRST SLAM DUNK』の公開以降、全編3DCGアニメ作品が増えている。

これまで業界標準の3DCGソフトウェアは「Maya」だったが、近年はオープンソースで無料の「Blender」を用いた3DCGアニメ作品が増えている。

その代表作が『数分間のエールを』だ。

本作は、全編Blenderで制作されており、品質だけ見れば、一般的なTVアニメを凌駕しているように思う。

Blenderの最大の魅力は「初期投資が極めて小さい」ということに尽きる。何といっても無料なのだ。一方で業界標準のMayaは、月36,000円である。これは個人には厳しい価格だ。

また、同時期に公開されたアニメだと『クラメルカガリ』もおもしろい作品だった。

本作は3DCGはBlender、撮影はAfter Effects、2DアニメーションはAnimate(元:Flash)、編集はPremiere Proを採用し、フルリモートの構築に成功している。

この2つの作品を見て分かる通り、個人で入手できるソフトウェアで、手描きアニメと同等以上のセルルック3DCGアニメ作品を作れるようになった。

そのうえ、Blenderを始めとしたアプリケーションは、機能やテンプレートの拡充で、もっと色々なことができるようになる。

今後もインディーズ寄りの作品では、Blenderなどのアプリケーションを活用したおもしろい映像表現が出てくるだろう。

セルルック3DCGアニメの未来

『数分間のエールを』や『クラメルカガリ』のように、セルルック3DCGアニメは、手描きアニメを超える品質を持っている。

しかし、アニメビジネスの基本が「グッズ」などの二次収入であることを考えると、必ずしもセルルック3DCGが最適とは言えない。

なぜならアニメ作品の大半が、漫画やライトノベルのメディアミックスだからだ。漫画やライトノベルのイラストは、どちらも「線」がベースである。キャラクタービジネスを発展させていかなければならないことを考えると、現状としては手描きアニメの方が有利だろう。

一方で「映像表現を楽しむ」という点に関しては、ここ数年はインディーズ寄りのセルルック3DCGアニメ作品がおもしろくなるのは間違いない。

長い目で見れば、コンピューターとアプリケーションの進化に伴い、セルルック3DCGの品質はさらに向上し、技術の民主化が進むだろう。1億総クリエイターならぬ1億総アニメ監督時代の到来だ。

その昔、初音ミクが多くのプロデューサーに共有された。初音ミクそのものを開発するのは高難易度だが、初音ミクのボイスで音楽を作るのは、そう難しくなかった。
それと同じく、初音ミクのような3Dキャラクターモデルが多くの「個人アニメ作家」に共有される可能性は高い。セルルック3DCGの最大の壁は「キャラクターのモデリング」だが、アニメーションならまだ何とかなる。それこそ「動きのテンプレート」のようなものが普及する可能性は高い。

セルルック3DCGアニメであれば、より少人数でアニメを制作することが可能になる。いずれは個人でセルルック3DCGアニメを作れる時代が到来するだろう。2002年に新海誠監督が『ほしのこえ』を制作したときのように。


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