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ノルシュテイン『話の話』を記述する(その8~視線、交わってる?)

 これはかなり不思議なことだと言っていい。
 通常の映像物語では、人物は映された光景に縛られて存在する。
 もちろんAという場所とBという場所がどれほど物理的に離れていようと、編集さえしてモンタージュすればカットとして隣接する。
 しかしふたつの場所を距離的に超越して経験できるのは観客の特権だ。

 だからいま、異なる距離なり、異なる位相にいるはずの狼の子と母子とが見つめ合うのはリアリズムとしてあり得ない。
 そのときむしろ観客が、距離的な整合性が崩されて戸惑ってしまうのだ。
 だがどうだ。
 『話の話』で懸隔しているはずのふたつの空間はオーバーラップすることでつながり、ただそのつながりの保障は狼の子の眼差しだけだ。
 とても不自然な接続、それでいてごく自然な接続。
 『話の話』のマジックが花開きつつある。

 しかし驚き過ぎるのもやめておこう。
 この瞬間、もうひとつ、何気なく実現していることもあるのだ。それも忘れず書きつけておこう。

(その9へつづく)


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