正しい画を求めて⑫ ガチプロ環境っているそす?

ガチプロ。良い響きだと思う。
ところで校正のガチプロとは何を持ってガチプロと言えるのだろう。
お高いソフトを使って価格自慢をすることだろうか?
それともお高い機材で価格自慢をすることだろうか?
はたまた、十分な知識と概念の理解を持った技術者のことだろうか?

答えは十分な知識と概念への理解を持った技術者が適切な機材とソフトウェアを用いて校正を取ること、ではなかろうか。
そこに値段自慢など入る余地は一切ないが、かと言ってやすい機材で何でも出来るというわけでもない。

一例を上げれば、ラボグレード、つまり十分なスペクトル分解能と精度、かつメーカー校正を受けたinstruments systemやradiant、photo-researchや、colorimetry research、jetiの機材、それもSpectrodiometerとColorimeterを両方用い、Spectrodiometerと適切な等色関数、必要に応じ目視補正も併用したColorimeter補正を行い、LightillusionのColourspaceで1D/3D LUTを作成し、適用することだと言える。
HDRの場合はメタデータの固定化、もしくはハード側で任意のLUTをインストールできることも必要だ。

これは実に理想的な校正システムで、例えばFSIのXMシリーズといった至上のリファレンスモニタを使用するならば、このような校正も行うのが好ましい。
ASUSのProArtもLightillusionのシステムに対応しており、Colourspaceからアクセスすることで任意のLUTのインストールが可能だ。
ASUSの提供する校正ソフトはSpectrodiometerどころかColorimeter補正も十分ではなく、かつ白色点補正もできないが、Lightillusionのソフトで校正を取ればこの限りではない。
※ProArt Calibration ver4.0でASUSの校正ソフトも白色点補正に対応した。
もっともQuontum Dot用のEDRは不明だが。さすがにSpectroradiometerを使ったColorimeter補正はまだ対応していないであろうからその点は残念だが、白色点が補正できるだけでも効果は大きい。
こちらは白色点補正を行った校正を実施後、評価したい。

が、いかんせんコストが相当に掛かる。
ラボグレードと言ってもColorimetry ReserchやJETIの機材ならば、SpectrodiometerとColorimeterを揃えても400万もあればお釣りがなんとかくる程度だが、これに対応するColourspaceのライセンスは30万円以上する。
適切なPattern GeneratorとしてHDFuryとPGeneretorを用いる、MadTPGやDaVinci Resolveを使用すればたしかに理想的な校正は可能だが、これは登山で言えばK2冬季単独無酸素のようなものだと言って良い。

とは言えここからランクを落とすと一気に機材や精度の点でグレードが下がるのは事実である。
ソフトウェアは機能的に十分と言うには疑わしく価格ばかり高いCalmanか、無償かつ高機能では在るが既に開発が途絶えて久しいDisplayCal (Argyll CMS+madTPG)になり、機材もX-riteのi1Pro2/3とi1D3になるからである。
Argyll CMSの検証にもある通り、これらの機材、特にi1Pro2/3のスペクトル分解能は非常に限定的であり、JETIやColorimetry Reserchと比べると大きく劣る上、メーカー校正についてもi1Pro3は対応するものの、その精度については正直なところ疑わしい。
Konica製などメーカー用の比色計というものも販売されているが、あれらは量産機用の飾りでしかない紙をプリントするだけのものでしかなく、4K HDR anime channelとしてはラボグレードか?と疑問を呈さざるをえない。
ファクトリー校正済モニタの校正がまともであったことがろくに無いからである。まともであれば今頃市場に出ているモニタの色が校正の観点から言えばおかしい(特にHDRで深刻)ことなど皆無のはずだ。

しかしながら、ラボグレードの機材とColourspaceの併用はプロフェッショナルを自負するならたしかに目指す目標、頂点では在れど、それでなければガチプロと言えない、ということはない。
実際のクリエイティブ業務において、その精度はそもそも必要とされていない、というのが一つ目の理由だ。
これはクリエイティブ使用はいい加減であっていい、ということではなく、そもそも人の目はスペクトル分解機器ではなく、特性上完全に正確な色の再現、一致が不可能であることが大きい。
とは言えあまりにかけ離れているとクリエイティブに支障が生じるのは事実であり、この閾値にあるのがX-riteの機材とCalmanやDisplayCal の併用であると考える。
この水準に至っていなければ校正が取れているとは言えないが、逆を言えばこの水準を満たしていれば十分だとも言える。
そこから先はラボクラスの解析をするのでなければ完全に自己満足、趣味の世界でしかなく、イラストや映像作品の制作は幸か不幸かラボレベルの業務や解析ではないのだ。
必要なことは相応の頻度で維持し続けることであり、これは手を抜くことは許されないと言っていいだろう。

もう一つは現在の制作者のあまりにもの色の一致、色再現への無関心と無責任、言ってしまえばレベルの低さがある。
まわりが戦闘力5であるのに戦闘力53万である必要はあるのだろうか?戦闘力4000のサイヤ人でも十分圧倒的なのではなかろうか。

つまるところガチプロとして求められる水準がどこにあるか、という話である。
現状ではX-riteとDisplayCal ですら平均と比較すると異常といっていいほど高精度を達成してしまっていると言える上、そもそもその環境を求める層というのは制作においてリファレンスの表示の必要性、意味合いを理解している、ということが重要である。
例えば3D LUT校正を行わず、ICCを当てただけで校正しているつもり、など校正とは到底言えない。彩度マップの適切さを保証しないからだ。
もちろんラボレベルの機材、Colourspace、3D LUT対応のリファレンスを導入するのは素晴らしいことであるが、常に大事なことはバランスだ。
必要性という意味でそれが必ずしもマストではない場合、そこにコストを投じる前に、それを使うに値するだけの準備、すなわち知識や概念の習得、必要な補正の実行が出来ているかどうかだろう。
高価な機材は出来たつもりになるために導入するものではない。必要な精度または作業の手間を省く必要、に応じて導入するものであり、そこは間違えないようにしたいものである。

この連載をここまで読んでいるならばそのようなことはとうに承知のはずだが、そうではなく知識のつまみ食いや、理解が十分でないメーカーの解説を鵜呑みにしたような場合、間違った校正を行ってしまいなんの意味もなしていない、という例は少なくない。
残念なことに世に出ている、結構に高額な校正済、クリエイター向け、といったモデルやそのユーザーで顕著にそういった事例が多くあるのを見ており、そういったことを語るのであれば正確かつ適切に語ってもらいたいと思うばかりである。
そこに正確さと適切さがかけている場合、それは語るではなく騙るでしかないのである。

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