機動戦士ガンダムSoul 第8話「兵士の洗礼」
市街地に着いた僕達は、敵の捜索を始めた。
周囲のビルが崩され、無数の死体が転がり、血が滴っている...
恐らく敵ブラッド・フレームの仕業だろう。
「メグミは俺の後ろを守れ。マサキは少し後ろに下がっていろ!」
とリュウがモニター通信を使って指示を出す。オペレーター(ユイちゃん)からの情報では、敵ブラッドフレームは1機。こちらは3機もいる。
―――これなら余裕だな。
僕は少しだけ油断していた。
突然、ビルの陰から黒いブラッドフレームが現れたかと思うと、僕の烈火に攻撃を仕掛けてきた!
僕の反応が遅れたせいで、烈火は攻撃をもろに受けバランスを崩し倒れてしまった。相手の武器は燃えさかる炎で出来た斧のようだ。
頭上から、その斧が降り下ろされようとした瞬間「マサキ!」とメグミが叫んだ。と同時に水月のソウルが形を変え、鞭のような武器を作り出した。
水月の鞭が蛇のようにうねり、敵ブラッド・フレームの手足に絡みつき動きを封じた。
「これで終わりだ!」
リュウがそう言うと、疾風のソウルが研ぎ澄まされた刃へと変わった。
空中に浮かぶ二つの刃。次の瞬間、それは凄まじいスピードで飛んでいき、敵ブラッドフレームの左腕と右脚を一瞬で切り裂いた。全く無駄のない戦い慣れている二人の動き。
僕は何も出来なかった...
バランスを崩し、倒れこむ敵ブラッドフレーム。
―――無事、任務完了だ。これで帰れる。
そう思っていた僕の目に、リュウからのモニター通信が飛び込んできた。
「マサキ、お前はもう立派な兵士だな?こいつのトドメはお前が刺せ。」
動けなくなった敵ブラッドフレーム。それを見つめるリュウとメグミ。
「どうした?さっさとトドメを刺せ。」
とリュウが冷たい口調で言った。
「・・・・・・」
メグミは押し黙っている。
―――殺すしかないんだ。
そのために、ずっと辛い訓練を続けてきた。
僕は覚悟を決め、烈火を立ち上がらせると腰に装備されているナイフを引き抜き、少しずつ敵ブラッドフレームに近付いていった。距離が近付くにつれ、弱々しい声が脳内に響いてきた。
「うぅ、痛い...」
―――これがリュウの言っていた適性者の共鳴なのか!?
敵ブラッド・フレームから聞こえてくる声。
「いやだ...死にたくない...」
確かにそう聞こえた。幼い感じの、恐らく
まだ声変わりもしていない子供の声。
―――このブラッド・フレームには子供が乗っている。
そう思うと、僕の心に迷いが生じた。
いくら敵でも子供は殺せない。
手が震え、背中を嫌な汗が伝う。
「何をグズグズしてやがる。」
リュウが苛立ちながら、そう言った。
僕は戸惑いながらも、烈火のナイフを敵ブラッドフレームの頭上に振り上げた。
―――これで、コクピットごとパイロットを貫けば終わる。
そう僕が思った瞬間、さっきよりも、はっきりした声が脳内で響いた。
「さよなら...母さん。」
この言葉を聞いて、僕の思考は完全に止まってしまった。
―――この子にだって、帰りを待つ人 がいるんだ。
指先が小刻みに震え、力が入らない。
「ダメだ...出来ないよ。」
僕は振り上げた烈火のナイフを下ろしてしまった。
「くくく...お前はバカだなぁぁ!」
高笑いをしながら、敵パイロットが燃えさかる炎の斧で襲いかかってきた!
僕が目をつぶった次の瞬間
―――右腕が宙を舞っていた。
「やはり...こうなったか。」とリュウが呟いた。
切り裂かれたのは、敵ブラッドフレームの右腕だった。僕の烈火が攻撃される刹那に疾風の刃で切り裂いたんだ。
「殺さないで。僕は。僕は...」弱々しい声が脳内に響く。
「命乞いか...俺にそんな事をしても無駄だ。誰であろうと、敵は殺す!」
リュウはそう言うと同時に敵ブラッド・フレームの腕をつかみ、空高く舞い上げるとソウルの刃でコナゴナに切り裂いた。
「うぁぁぁぁぁぁ!」
断末魔が頭の中に響き渡る。
「二人とも後始末は自衛隊に任せて、俺達は基地に戻るぞ。」
敵とは言え、子供を殺した後でも、平然としているリュウ。僕には、それが信じられなかった。
―――何だか、味がしないな。泥でも食べてるようだ。
ソウルエッジの食堂で、僕達は遅い夕食を取っていた。「初めての出撃だったから疲れただろう?」と珍しくリュウが優しい言葉を掛けてきた。
「あぁ...」
僕が浮かない顔していると、リュウがテーブルを叩いた。ドン!と無機質な音が食堂に響く。
「いいか。これだけは覚えておけ。これは戦争だ。そして、俺達は兵士なんだ!」
とリュウは叫んだ。僕が下を向いたまま、何も応えずにいると、リュウは更に激昂した。
「戦場で相手の事なんか考えるな。それが出来なきゃ、次に死ぬのはお前だぞ!」
「・・・・・」
僕は黙って立ち上がると、すぐに部屋に戻った。
自分の部屋に戻った僕は、ベットで寝転びながら今日起こった事を思い出していた。
「子供の声が聞こえたんだ。子供の...」
攻撃を受けた時の激しい衝撃。
生と死が隣り合う独特の雰囲気。
そして、敵の断末魔。
それらが交錯する戦場を思い出し、僕は独り、むせび泣いた...
(第9話 『紅蓮の炎』 に続く)
子供の頃からアニメが好きで、そのまま大きくなった40代です。(*´∀`)♪懐かしいアニメから最新のアニメまで、何でも見てます。