見出し画像

【前半】イギリスと日本の獣医学・動物福祉のちがいって?獣医さんに聞いてみました!

今回は、日本の獣医大学を卒業後、現在はイギリスの獣医大学で動物福祉の研究や教育を行っている獣医師の大谷さんをゲストに迎えて、イギリスの獣医学や動物福祉のお話しをお届けします。

前半では、大谷さんご自身やイギリスの獣医学を中心にお話を伺いました。

大谷さんのプロフィールはこちら

それでは大谷さん、よろしくお願いします!

●まずは、獣医師になろうと思ったきっかけを教えてください!

児童書のドリトル先生を読んで憧れを持ったことがきっかけで、獣医の大学に進みました。でも入ってみたら、イメージと違う!と思いました(笑)。獣医学って動物を治す、動物のための学部だと思っていたのですが、人のための学部だと先生方は強調されていて。獣医は動物を治すだけでなく、人の公衆衛生や感染症から守る仕事もあります。そこで、ちょっと違うと感じたのかなと。

就職先は全く関係のない職種も考えましたが、獣医と名乗るなら、動物を治せるようになりたいと思いました。子供の頃に憧れたドリトル先生のように動物と話すことは出来ないけれど、動物行動学を使って動物の気持ちを理解したいと思い、行動診療もおこなっている動物病院に就職しました。

子供の頃の大谷さん。ドリトル先生に憧れて獣医の道へ。

●動物病院で働くなかで、どんなことを感じましたか?

飼い主さんは動物が好きなはずなのに、動物のことをよく知らないのかも?という疑問を持つようになりました。飼い主さんの持っている愛情は強いのに…と。この経験から、動物のことをもっと伝える必要性を感じました。

動物病院勤務時代の大谷さん。
飼い主さんとのコミュニケーションや情報発信の必要性を感じたとのこと。

●CoSTEP(北海道大学の科学コミュニケーター養成講座)に応募しようと思ったのは、それがきっかけですか?

そうですね。私は文章を書くのが好きで、動物の病気についての記事を書いたりしていたので、ライティングコースコースを受講しました。

私は人前に立って話すのが好きそうに見えるみたいなのですが、一人でもくもくと作業するのが好きなんですよね。
実はかなり臆病で慎重なところがありまして、特に自分の言葉が聞き手にどのように伝わるかを気にしたりします。今回もそうですが、発表や講演のあとなど、必ず自己嫌悪に陥ります。その点、ライティングは自分が納得いくまで言葉を選び、推敲できるので、安心して発信できるということで選んだような気がします。
あとは、書くのが好きというのは、母が編集者だったというのもあるのかもしれません。

●なるほど。そういった経緯があったのですね。
動物福祉の考え方は、いつ頃出会ったのでしょうか?

母校の北海道大学に戻って研究していた大学院2年生の時に、現在所属しているエジンバラ大学の動物福祉チームが出張授業に来ていて、そこで動物福祉に出会いました。当時の獣医学部のカリキュラムには、動物福祉は入っていなかったように記憶しています。言葉としては知ってはいたけれど、学問として知ったのはこの頃です。
そのあと、イギリスの大学へ留学する話が出たので行ってみようと思いました。

●海外留学を決めた理由を教えてください。

海外に出てみたい気持ちはずっとあって、シンプルに行きたいなと思いました。
最初にエジンバラ大学に行ったのは、出張授業のご縁をきっかけとしたインターンシップで、1か月間サイエンスコミュニケーションと動物福祉を学ぶ予定でした。イギリスはサイエンスコミュニケーション発祥の地で、たくさん学びたかったのですが、コロナ禍が始まってしまって…。2週間で帰国することになってしまいました。

それでも、もっときちんと学びたかったので北海道大学のポスドクに就きながら、日本学術振興会の支援を受け、エジンバラ大学でまず半年間研究を行いました。
その後も、北大の先生方に理解していただき、ポスドクとしてイギリスで研究を続けています。

●イギリスの獣医大学って、どんな感じのところなんですか?

エジンバラ大学はこんな感じのところにありますよ。

●お写真ありがとうございます!
獣医の勉強って、具体的にどんなことを学ぶのですか?日本との違いはありますか?

私は解剖学がもともとの専門なので、解剖体(解剖に使用する遺体)の入手方法が大きく違うなと感じましたね。
エジンバラ大学には献体制度があって、解剖実習で使う犬などの解剖体は、一般の飼い主さんからの提供です。日本だとほとんどない仕組みですね。

また、獣医学生が行う実習にも違いがあります。
エジンバラ大学では授業の中で、動物に対し、侵襲的、つまり体に大きな負担がかかるような処置をすることはありません。その代わり、動物病院や農場など、学外の実習先に赴き、実際の患者である動物を対象として侵襲的な処置を含む実習経験を積みます。これはイギリスの獣医学教育共通の制度で、学生さんはこの実習を38週間分行わなければなりません。

かと言って、大学でまったく生きた動物が使われていないわけではなく、動物福祉に配慮して動物に負担が掛からない範囲内で、必要な授業が行われています。

馬の頸部から採血をする練習に使う模型。
採血の練習に用いる模型

こういったイギリスの大学事情を見て、社会構造が違うんだなと感じました。

日本だと、大学の中での実習で獣医師になるための技術を養うので、大学で学生を育てるのに必要なことをすべて行う構造です。

でもイギリスでは、学生は大学内では理論や基本技術を学びます。採血の練習なんかは、模型を使って徹底的に練習します。その上で、大学の外に出て、実践経験を積みます。このシステムだと、自分のペットが学生さんによって採血や検査されるということになるので、飼い主さんを含めた一般の人の理解が必要です。でも、そういう受け入れの雰囲気が出来ているんですよね。
それが日本と違うなぁと感じました。

●なるほど!社会に揉まれて育てることを重視するイギリスと、大学の中でじっくり育てる日本。どちらも良い面、難しい面がありますね。

前半はここまで!

後半では、イギリスの動物福祉について教えてもらいます!
日本とどんな違いがあるのか?
動物福祉はこれからどのように広がっていくか?
そして、大谷さんの動物福祉への想いも伺いました!

ぜひ、後半もご覧ください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?