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印欧語族の具格の歴史とラテン語に残る具格要素について

 (格の合流原理と奪格の歴史も参照)。

印欧語族の格の歴史

 ラテン語の名詞には通常「主格・呼格・対格・属格・与格・奪格」という6つの格がある。
 その祖先に当たる印欧祖語には概略「主格・呼格・対格・属格・与格・奪格・地格・具格」の8格があったといわれており、ラテン語の体系はそこから「奪格(~から)、地格(~において)、具格(~によって)」が合流して作られたものというのが定説である(一部では奪格とは別に地格も残存)。

 今では祖語の数や格の体系にも段階的な形成(新規形成や合流)の歴史や方言差があった可能性も提唱されているが、大まかな歴史としては祖語末期に8格体系があったという定説に準拠しておいて問題はないだろう。

 印欧祖語からラテン語への格の合流の歴史は

(1) ラテン語の奪格に地格や具格を兼ねた広い役割(~から, ~にて, ~によって, etc.)が備わっていること
(2) ラテン語の一部の名詞において「名称的には奪格でも語形としては祖語の地格由来」といった例があること
(3) 一部の語に奪格とは別に独立の地格が残っていること(e.g. 主格Rōma「ローマ」→奪格Rōma「ローマから」, 地格Rōmae「ローマにて」)

 といった点によって、他の印欧語との系統的な比較分析も踏まえて裏づけられている。

 合流のきっかけはいくつかあるが、奪格と具格などの個々の格の用法に部分的な重複があったこと、一部の格形の発音が接近・合流したことなどが挙げられる(アニマの格変化概論の放送及び資料集を参照)。

 ラテン語では一定数の実例や比較的多くの痕跡がある地格に対し、具格の痕跡は相対的に少ない。
 しかしその足跡をたどることで見えてくるものも多いはずである。

 今回はそんな印欧語族の具格の歴史の話をしていきたい。
 ラテン語における具格要素の名残りについても簡単に触れておこう。


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