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『ブルアカ』の<先生>に見る物語の余白の役割についての別解【国士舘アニ研ブログ】

以前、部内で物語作品の余白について喋ったことがあるのですが、そこでは余白を「意図的に文脈で読ませようとしている部分(いわゆる「行間で読む」部分)」や「読み手の受け取り方次第となっている部分」や「単に語られなかった部分(語る必要が無いと判断された部分)」として扱っていました。実際、「物語の余白」と言うとこのようなものであると認識する方が多いのではないでしょうか。
また、この部内対談では「広い層がアニメに触れるようになったことから、最近のアニメの消費者は作品に対してかなりの説明を求めがちな気がするし、それに伴って最近の作品も説明過多で余白が少ない傾向が強くなっているのでは?」みたいな話をしていました。例えば消費者側なら下記URLみたいな話です(実際問題どうなのかはさておき)。『葬送のフリーレン』で言えば各ジョブが得意とすることの説明が省かれているのは余白のひとつですね。中世ヨーロッパ風の世界観という文脈と、わざわざ説明する必要が無いと判断された部分と。後者は憶測ですが。

本稿ではそんな令和の時代に、もう少しだけ物語が持つ余白について考えてみたいと思います。

さて、タイトルに「物語の余白の役割」と書いたように、まずはその役割について改めて確認します。
例えば冒頭で挙げた、意図的に文脈で読ませようとしている余白であれば、その役割はあえて描かないことによる何かしらの良さを引き出すことがその役割でしょう。「語るまでもない」ってセリフの後にその説明を入れるのはナンセンスな気がしますし。他に挙げたもので言えば、読み手の受け取り方次第となっている余白は正解が提示されていないからこそ各々がその物語についてより考えるきっかけになりますし、語られなかった・語る必要が無いと判断された部分から生まれた余白であれば、それには説明過多になるのを避けるという役割があるでしょう。大抵の場合、短くまとまっているに越したことはないと思います。
余白の役割は大体この辺りではないでしょうか。

こういった余白に対しては文脈から読み取ったり、自分なりの読み方・考え方を元に余白を埋めたり(いわゆる「考察」場合によっては二次創作)、あるいは余白を余白のまま受け入れることが必要であると考えます。
そして、余白が読めないという方の多くは文脈が読み取れていなかったり理解していなかったり、余白となっている部分に対して「これはどういうこと?」という疑問にしかならなかったり、その疑問に対する解答はあって然るべきと考えてしまうのかなと思っています。余白は読めなければただの説明不足でしょう。これもネットを漁ったうえでの憶測ですが。
これが良いとか悪いとかはともかくとして、こういった消費者が一定数存在するのが現状のようです。

このように、一般的な余白は長所も短所もそれなり以上にあるわけですが、先述したような役割に加えて「読み手が自分自身を主人公(語り手)に投影させる」という役割を加えることで短所を軽減したのが『ブルーアーカイブ』です。

Yostarの新規IPによるスマートデバイス向けRPGである本作において、プレイヤーは学園都市「キヴォトス」の先生となり、生徒たちと共に問題を解決していくというストーリーが描かれる。

Wikipedia「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」より

本作は「プレイヤーは学園都市『キヴォトス』の先生となり」とあるように、読み手は自身を語り手に投影させて物語を読むことができます。類似例としては「アイドルマスターシリーズ」の<プロデューサー>が適しているでしょうか。他にも一部の美少女ゲームでは主人公の顔が写らなかったり、曖昧になっていたりしますが、それも作品に疑似恋愛的な要素を含ませるうえで自己投影するための余白が必要だからであると考えます。
こういった作品の主人公の傾向として
・テキストやイラストから身体的な特徴が出てこない
・出で立ちとかの話も出てこない
・言動から性別が透けてこない
というものがあり、代数みたいな側面を持っています。
したがって主人公に関する情報が少ないために、余白もたくさん生まれているのですが、この余白に関しては疑問に思っているユーザーを見たことが無いのですよね。余白の意図が察しやすいからでしょうか。
この理由については一旦置いておくとして、ここで特筆すべきは『ブルアカ』がこの余白を物語に組み込むことで本稿の前半で挙げたような一般的な余白と自己投影のための余白とを混ぜているという点です。具体的な話は避けますが、『ブルアカ』は語り手の情報が少ないからこそ成立する謎や神秘性を持つ物語だと思っています。この余白を考察する方はいるにせよ、ただの疑問に思っているユーザーは見かけないので驚きです。このように、理解されやすい余白とされにくい余白を混ぜることで、余白が持つ「読めなければただの説明不足である」という短所をかなり緩和できているのかなと思います。ノベルゲームという媒体だからこその芸当ではありますが。

確かに物語の余白は、慣れてない方からすれば取っつきにくいものかもしれません。だからこそ、こういった受け入れやすい余白を持つ作品があるというだけでも、私としては少し安心できます。

ということで、物語が持つ余白について考える試みでした。

(執筆者:鯖主)


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