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秋葉原の商業集積、コロナウイルスとオタク文化について【国士舘アニ研ブログ】

(この文章は学祭や文学フリマにて頒布した部誌である「Cultures」にて掲載したものとなります。)


執筆者:あねもね

「秋葉原」そこはオタクの聖地であり、サブカルチャーの中心地。かつての高度経済成長期から経済的な、そして文化的な成長を続ける地域。
みなさんは、そんな秋葉原が巨大な商業集積地域であるということをご存知でしょうか。本文では秋葉原地域の形成と商業集積について述べたのち、オタク文化についても新型コロナウイルスと絡めながらお話しさせていただきます。




秋葉原の形成とその過程

近年の秋葉原

電気街を中心とした電気パーツ、アニメ関連グッズの販売店、トレーディングカードゲーム関連店舗、メイド喫茶とサブカルチャーの中心地であり、いわゆるオタクの聖地。また、近年では「アニメ=日本の文化」という考えのもとに、訪日外国人たちの中では人気のある観光地のひとつともなっています。
しかし、秋葉原がこのように様々なジャンルが混同した地域となったのは比較的最近のことです。

戦後における秋葉原の変遷

いまからおよそ400年ほど前。江戸時代の秋葉原は、下級武士の住居が建ち並んでいました。
明治以降、上野駅からの鉄道の延伸によって現在にも通づる秋葉原駅が誕生しました。上野駅は地方都市と東京を結ぶターミナル駅であり、当時は各地方から出稼ぎに訪れる人々が多く利用していたほか、物流においても大きな結節点でした。そんな上野駅からの延伸で建設された秋葉原駅の周辺には、たちまち街が形成され大いに発展したのです。
そんな秋葉原が現在のような「サブカルチャーの中心地」となる原型を作り上げたのは第二次世界大戦後のことでした。戦後、秋葉原周辺にラジオの部品を扱う闇市や露店が多く立ち並ぶようになりました。

画像1 戦後直後の闇市(昭和21年)
-秋葉原電気街振興会より-

1951年の露店整理令によってそういった店舗はガード下に収容されることになりましたが、これらが現在の電気街の原型であるといえます。
戦後直後、もとより開業していた電気店の復活に加えて、新たな電器店の開業が相次ぎ急速に電気街の下地を形成していきました。とくにこの頃は、民放のラジオ放送局の開始や無線機の流行によって、これら電器店は高い需要がありました。ラジオについては「自分でパーツ一つ一つから組み立てて作る」という自作ラジオが流行したため、日常家電の商品に加えて、パーツとなるような電気部品を多く取り扱う店舗が流行に対する需要に応えていました。

以下、秋葉原電気街振興会サイトより引用
-秋葉原に電器店が集積した背景として、廣瀬商会が総合問屋として地方にネットワークを持っており、地方から仕入れに来る小売業/総合卸/二次卸し店でにぎわっていたこと、秋葉原は安いという宣伝が行き渡っていたことが原因といわれた。また、国鉄だけではなく「都電」も当時は大事な庶民の足であり、その都電を利用するにも秋葉原は非常に便のいい場所であった。万世橋が「柳島(向島方面)」行きの起点であり、向島行きは須田町で折り返し、日本橋行きは王子から万世橋を通り、また上野から品川行きの電車もあった。また、新宿行きも万世橋から出ていた。こうした国鉄/都電の交通アクセスのよさも秋葉原に電子商が集まり、栄えた理由であろう。-(秋葉原電気街振興会 https://akiba.or.jp/archives/history02)

というように、秋葉原のスタートは電化製品やラジオパーツなどの電器店の集積からだったのです。そしてそれを支えたのは、上野駅というターミナル駅から延びる鉄道と地方との繋がりでした。

高度経済成長期とそれ以降の変遷

では、電気街としての秋葉原がどのようにしてサブカルチャーの中心街になったのでしょうか。
それは、パソコンの登場によるものでしょう。秋葉原は高度経済成長と共にテレビや冷蔵庫といった生活家電に加え、パソコンの安売りをする電気街となりました。もとよりラジオパーツのような電気部品を広く扱っていたため、とくにパソコンという商品は秋葉原との相性が良かったのです。家電の安売りやパソコンという最先端の商品の取り扱いに続いて、ファミリーコンピュータなどの大人気ゲーム機の取り扱いも秋葉原へ人を招く一因でした。

画像2 ドラゴンクエストパッケージイラスト
(スクウェア・エニックス公式より)

また、コンシューマーゲームに留まらず、パソコン専用のゲームの扱いもされており、ラジオやパソコンを自作するマニアのみならず、ゲームマニアをも集客することに成功しました。
コンシューマーゲームに比べてパソコンゲームでは美少女ものや男性向けの内容のゲームが多く展開されていました。しかしそういったゲームはファミリー層が訪れるような近場のスーパーには置かれることは少なく、秋葉原のような専門店が立ち並ぶところでしか手に入らないこともしばしばあったでしょう。こういったことも影響して、美少女系を好むいわゆる「オタク」の層の集客もなされました。

画像3 AKB48劇場
(AKB48公式より)

高度経済成長期が終わりを迎えてもなお秋葉原の発展は続きます。2005年にAKB48というアイドルグループが秋葉原を拠点に活動を開始し、一躍ブームに。AKB48劇場での公演等もあり、アイドルファンたちまでもが秋葉原へ訪れるようになります。

ラジオやパソコン、パーツのマニア、美少女系ゲームを好むゲーマー、そしてアイドルファン。このような世間から「オタク」と呼ばれる人々がそれぞれの需要のもとに集結し消費と発展を繰り返したことによって、秋葉原は成長を続けたのです。そしてそんな彼らをターゲットにした飲食店として、メイド喫茶やコンセプトカフェが誕生しました。比較的出会いも少ないうえ、かわいい子が好きだという傾向が強い彼らオタクにとって、メイド喫茶やコンセプトカフェは天国のような場所であったでしょう。そして、まるでそれを裏付けるかのようにメイド喫茶は急速に店舗数の増加や規模の拡大がなされました。
ここまでの発展と集客の積み重ねによって現在の秋葉原の形成に至ったのです。


秋葉原の商業集積

商業集積とは

商業集積とは、複数の小売やサービスの店舗や工場等がある一定の地域内に集中していることを指します。
集中するメリット、デメリットは以下の通りです。

《メリット》
・地域内での取引が増えることによる経済効果
・取引の際のコスト削減(輸送等)
・ワンストップショッピング(*1)効果で利用者が多く集まる

*1)ワンストップショッピング:様々な種類の商品を一つの施設(この場合では地域)で取り扱っている形態


《デメリット》
・環境負荷が集中する
・需要の集中で地価が上昇する
・隣接する業者との競合が強くなる
・集積の拡大には限度がある

同じ集積の中でのコストの削減は非常に大きな役割を果たしています。愛知県豊田市を事例に見てみるとよくわかるかと思います。豊田市内に存在する工場数は789で、そのうち自動車関連工場の数は328と全体の約4割に相当します。それに伴い、市内の工場に勤める総人口の約85%が自動車関連工場で働いています。そして、豊田市の製造品出荷額の約96%は自動車関連の出荷額にあたります。このように見てみると、豊田市は自動車産業に特化した地域であり、それに関する工場の集積がされていると言えます。
ところが、豊田市ではあまりにも範囲も広く、TOYOTA(トヨタ)という大企業が頂点にいるからこそという部分があります。そこで、「豊田市ほど範囲は大きくない」「ひとつの大企業による統括がされていない」という2点を重視してほかの事例をあげてみましょう。
そこで登場するのが古本屋の神保町、楽器店の御茶ノ水、道具街の合羽橋、そしてオタクの聖地秋葉原です。
同じようなことの説明になるので、この手の話で最も例にあがりやすい神保町の例をここでは示してから秋葉原へ話を進めようかと思います。

本の街 神田神保町

神保町という名前は聞いたことあるが、いまいちどこにあるか分からなかったり、ぼんやりと神田駅の近くじゃないのかという認識の人は少なくないでしょう。
神保町は東京都千代田区内にある地名です。本文の主役の一つである秋葉原のほか、東京ドームでお馴染みの水道橋、楽器店の集積で名前をあげた御茶ノ水も同じ千代田区内にある地域です。これらビッグネームに押されに押され影が薄くなってしまったのが神保町です。神保町駅も存在しており、都営地下鉄三田線・新宿線、東京メトロ半蔵門線が乗り入れる接続駅となっています。
古本街、古書街と呼ばれる神保町ですが、文献や論文では書肆街しょしがいと記されることもあります。
書肆とは書物の出版や販売を行う店を指す言葉であり、出版社と書店が別れていなかった時代に多く存在したものです。もっとも、現在の神保町には小学館や集英社といった出版社のほか、新刊書店も多いので古本街や書肆街という表現が全てはないということも押さえておかなければいけません。
少しフライングしてしまいましたが、神保町が現在のような古本屋の集積地となった大きな要因は出版社の存在です。集積地のメリットとして挙げたコスト削減、書店にとって、または出版社にとってはお互いが近い距離に立地していた方が輸送コストや契約の面で都合が良かったのです。しかし、出版社や本屋が扱うのは書籍や雑誌という消費財です。豊田市や工業地帯のような内々で使う工業部品や製品ではありません。そのため集積の内部ではなく、外部へ消費の対象を向ける必要があるものです。いくら出版社と本屋の距離が近くとも、消費者から遠ければ売れるものも売れません。
ではなぜ神保町は生き残り続けたのでしょうか。
その理由は明治以前・以降の日本の姿に大きく関わっています。明治以前・以降共に、日本は欧米諸国と技術の面で大きく遅れをとっており、どうにか欧米列強の仲間入りをしようと必死でありました。そんな日本が外国の知識を身につけるためのツールが洋書だったのです。江戸時代でも、さらに言えばもっと古い時代でも日本は外国の書物から知識を得てきました。そんな重要パーツである洋書が扱われていたのが神保町の古書店であったのです。このような背景を発端に、神保町に行けば様々なことを学べるという考えが広く浸透したことで、神保町は広く消費者を集めることに成功したのです。

オタクの聖地 秋葉原

では、いよいよ秋葉原について触れていきましょう。立地としては上述した神保町と同じく東京都千代田区です。乗り入れ路線としては、JR山手線・京浜東北線・総武線、東京メトロ日比谷線、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスとなっており、各路線、各方面からのアクセスが良い駅となっています。そんな秋葉原ですが皆さんの中にもイベントや買い物等々で訪れたことがある人も大勢いらっしゃることでしょう。
本文の前半で秋葉原の形成について記述した内容の通り、現在では電気街にとどまらずアニメやゲーム、メイドカフェ、トレーディングカードゲームなどのサブカルチャーの中心となっています。一般的にも秋葉原という地名から”メイド”や”メイドカフェ”をイメージすることも多いかと思います。
そこで、秋葉原には実際どれくらいの集積があるのかを見ていただきたいと思います。
*その際、主に電気街口(南口)を中心とし、Google Mapでの検索にヒットした店舗を扱っていくことにします。そのため、今回扱うジャンルに該当する店舗がすべて含まれているわけではないということを先に断っておきたいと思います。

図1 秋葉原駅電気街口(南口)周辺における商業集積
地理院地図とGoogleMapより作成

地図に示してみるとわかりやすいですが、メイドカフェやカードショップ、電気店とすべて同じサービス業ですが、内部ではそれぞれの扱う商品は異なり、御茶ノ水や神保町と比べて複雑な集積をしていることがわかります。要は、豊田市や神保町らとの大きな違いは集積の起きているエリア内で複数の方向への需要を生み出しているというところです。
もう少し中身を見てみましょう。電気店の集積は駅前のごく近いエリアでの集中した集積が強く駅から離れるほど立地が見られにくくなります。
もちろん立地論的には中心から離れるほど立地が少なくなるのですが、電気店は他二つよりもそれが強く出ています。反対にカードショップや美少女系飲食店は広いエリアで立地しているということです。さらに、この二つは同じエリア。同じ通り沿い、ブロックだけにとどまらず、同じ建物内という極めて狭い範囲での集中をも見せています。同じ建物の階層違いでメイドカフェやカードショップが立地しているということです。皆さんも、一つの雑居ビル内にメイドカフェやコンカフェ、ガールズバーの看板が二つ三つ掲げられている様子を見たことがあるかもしれません。秋葉原に限らず美少女系飲食店やカードショップのようにテナントとしてビルに入っている店舗ではこのような光景が見られます。ゆえに各店舗には顧客と経営の安定と成長が課題となってきます。
地図上でもいくつか見られますが、極めて狭い範囲で集積をしている場合はマークに数字を記載してあります。メイド・美少女系飲食店のマークに4の数字がついているものがありますが、ここは客観的に見てもかなりの競争地帯です。お互いにお客の取り合いが生まれているわけです。また、この手のお店はファミリーレストランなどの一般的な飲食店とは異なり、お店自体やスタッフの女の子へのファンが生まれるため、客単価が高くなりやすい上にリピーターとなることもあります。ファンやリピーターがつくかどうかは、その店舗のコンセプトやサービスの質によって左右されるわけですがお店独自のコンセプトで新規客を取り込み、その中からリピーターを数名ずつ獲得するという性質上、看板やキャッチコピー次第では新規客の興味を惹けるので観光地色の強い秋葉原では強みにもなります。
特にメイドカフェの大手である「めいどりーみん」や「あっとふぉーむカフェ」はファン層の客単価の高さもさることながら、ネームの認知度から新規のお客を取り込むことにも成功しています。これによりこの二店のビッグネームは入れ替わりと競争の強いこの業界で安定を確立したのです。

コロナウイルスとオタク文化

接客サービス業の弱点 ーサービス業の集積地秋葉原ー

商業集積では様々なメリットに反して競合が強くなりすぎるあまり、新規参入や経営の維持が難しくなるというデメリットが存在すると上述しました。そして、秋葉原ではテナントの入れ替わりが起こっていることも事実です。しかし、ごく近年にはもっと大きな力によって経営維持の課題に直面したことも記憶に新しいでしょう。皆様もご存じ、新型コロナウイルスによるものです。新型コロナウイルスの出現によって私たちの生活は大きく変化し、人との接触に限らず、物への接触までもが危惧される時代が到来しました。2020年に発令された緊急事態宣言ではマスク着用などの感染対策に加え、外出の自粛、施設の利用制限が設けられることになりました。これに応じて、オンラインを活用したテレワークや在宅勤務が推奨、拡大したものの、第三次産業が経済の多くを占める日本では、新型コロナウイルスによる経済へのダメージは計り知れないものとなりました。第三次産業はとくに、フェイス・トゥ・フェイスという接客によるサービスが非常に多く、人と接触することが制限されることは実質的な営業制限ともいえます。対面での接客を前提とするような接客業やサービス業にとって、かなりの痛手であるとともに、その欠点が露呈する結果となったのです。
オンラインの発達と普及こそあれど、教育機関や医療施設などではそれにも限界はありました。先生から生徒への指導にはやはり、対面でこそ伝わる熱量であったり、感情があるほか、技術的にも対面での指導のほうが教えやすい部分も多いでしょう。医療関係でも、オンライン受診は便利でありながらも、それで病気が治るわけでもありません。加えて、新型コロナウイルスの感染者への対応に追われるあまり、満足に医療機関を受診できないという問題までもが発生していました。
物販店やスーパーマーケットでも、少なからず新型コロナウイルスの影響はありました。営業時間の縮小のほか、無人レジ化などが行われました。特にに、大型商業施設ではこれらが顕著に表れていましたね。
前の章で地図とともに示した通り、秋葉原にはメイドカフェやカードショップ、アニメ関連グッズの販売店、イベント施設といった人が集中するお店や建物、サービスが多数立地しています。それゆえに、新型コロナウイルスもとい緊急事態宣言によって大きなダメージを受けたことでしょう。
メイドカフェやコンセプトカフェのような接客業はお客さんがいてこそですし、チェキ販売やステージパフォーマンスもお客さんがいるからこそ場の空気が盛り上がるものです。そのため、オンライン化の恩恵も受けにくい分野です。カードショップに関しては、オンライン販売などを活用することも可能ですが、今回のような急な出来事への対応は難しかったかと思いますし、デュエルスペース(*2)の利用に制限がかかってしまったことも大きな痛手になったことでしょう。最近は、カードショップが主催となって店内で行う大会も増えていますので、デュエルスペースはカードゲーマーたちの交流やプレイの場ともなっていました。そのため、デュエルスペースの利用制限はお店にとってもカードゲーマー(客)にとっても痛手であったいえます。秋葉原全体として見てみると、イベントの規制が大きな影響でしょう。秋葉原では各店舗や施設で様々なイベントが開催されていますから、それらが開催できなることは開催している各店舗や主催団体にとって痛手であったでしょう。
そして、メイドカフェやカードショップ、グッズショップにお客さんが来なくなることにイベントの規制が重なることで、秋葉原に訪れる人自体が減るということになりますので、地域への影響も考えられます。
秋葉原から離れてもっとサービス性が強い分野で例を挙げるならば、東京ディズニーリゾートの臨時休園なんかは大きな話題になりました。サービスの究極ともいえるディズニーリゾートは、まさに人対人という前提の基に成り立っているものです。東京ディズニーリゾートの公式店舗であるボン・ヴォヤージュでは、入場制限のために時間帯ごとの事前予約性がとられたほか、パーク内ではファストパス(*3)の有料化や年間パスポートの販売中止と年間パスポートでの入園制限という措置がとられました。ファストパスの有料化の必要性などについては賛否両論あるものの、「金がかかるならやめておこう」という考えと「追加料金を払ってでも早く乗りたい」というニーズを汲み取りつつも、人気アトラクションとその待機列への人の集中を分散できるという意味では、私は必要なものだったのではないかと一ディズニーパークファンとしては思っています。そしてこれは、社会的に規制や制限が増えた中でも、ゲストの選択肢を増やすための作戦だったのかもしれません。

*2)デュエルスペース:カードショップ内に併設されている、カードゲームをプレイできるスペース。
*3)ファストパス:通常の待機時間よりも格段に短時間でアトラクションに搭乗できる専用のパスポート。入園チケットとは別で各対象アトラクションごとに発券されている。コロナ前は無料で発券されていた。

イベントや買い物のオンライン化

天下のディズニーリゾートでさえも新型コロナウイルスの影響をかなり大きく受けていたわけですが、パークが休園中にもかかわらず舞浜駅やディズニーリゾートライン(*4)を乗りにいくファンも大勢いました。本命のパークが休園中であるにも関わらずなぜ?という具合に、一部メディアで取り上げられるほど話題にもなりました。ディズニーファンがリゾートラインを乗りに行く理由は簡単で、少しでもディズニーを感じたいというその一心ゆえです。また、これと並行してYouTubeでショーやパレード、アトラクションの動画を視聴する”おうちディズニー”なるものも盛んとなりました。おうちディズニーのようにオンライン上でコンテンツを楽しもうとする動きはディズニーにとどまらず、ほかのジャンルでも盛んになりました。これが、イベントのオンライン開催や配信型の無観客ライブです。
ディズニーのように赴くことで本来のサービスが享受されるものと異なり、後者のイベントのオンライン開催の中にはオンラインだからこその利点があったともいえます。特に即売会イベントのオンライン化はこれに該当します。同人誌やアニメグッズを多く取り扱うような即売会であれば、それらのファンは購入のために現地へ赴く必要があります。もちろんオンライン販売が併設されているパターンもありますが現地に行くからこその楽しみがありました。ところが現地に行けなくなる=行く必要がなくなる とどうでしょう。会場までの交通費が浮きます。この手のイベントでは関東開催にもかかわらず関西や九州、東北方面からはるばる訪れる人も多いです。そんな彼らにとっては、会場への往復の交通費を払う必要がなくなるわけですから、今日乳品の送料がかかるとはいえ、その分買い物ができるわけです。ディズニーファンの間でも、オンラインショッピングが盛んになりました。実際、私もディズニーのオンラインショップで3万ほど散財しました。
とこのようにオンライン化は現地の雰囲気や熱気を味わえないというマイナスこそあれど、我々のような好きなものへの金銭投入を惜しまないオタクたちとは相性がいい部分もあるのです。

*4)ディズニーリゾートライン:株式会社舞浜リゾートライン(オリエンタルランドの連結子会社)が運営するモノレール路線。公共交通機関の一つでパーク内の鉄道路線と違い運賃が発生するうえ時刻表が公開されている。そのため、東京ディズニーランド・シーの休園中にも運行していた。JR舞浜駅と隣接しており、ディズニーリゾートの各施設との連絡を担っている。

コラム:動画投稿者の急増

本編とは外れますが、新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言の発令によって変わったことでもう一つ大きな現象があります。それは動画投稿者の増加です。新型コロナウイルスが流行する少し以前から、動画投稿サイトでは「Vlog」というジャンルの動画が流行していました。Vlogとは、VideoBlog(ビデオブログ)の略称で普段の生活の様子や日常を動画にするものです。文字や写真だけで構成されているブログ記事と異なり、動きのある映像に音楽やテロップなどを加えることで、より効果的に内容を伝えることができます。このVlogという動画ジャンルの強みは、人と状況を選ばないというところです。言い換えれば誰でもどこでもできる内容ということになります。子供でも大人でも、どんな職業の人でも日常を映像として記録すれば動画になりますし、それはその人だけの日常の記録なので二番煎じであってもオリジナリティから面白さが発生します。
このVlogという動画が新型コロナウイルス感染拡大に伴う、活動自粛とうまくかみ合いました。自粛期間中に自宅で様々なコンテンツやそれぞれの趣味を楽しむ「おうち時間」という言葉が生まれ、このおうち時間を活用して趣味を深めたり、資格の勉強をするほか、時間の都合でできていなかった新しいことへ挑戦する人が増えました。ここでVlogを始める人が現れ始め「〇〇があった日の過ごし方」や「モーニングルーティーン」や「ナイトルーティーン」の動画が急増することになりました。これによって一般人が気軽に動画投稿をし始め、動画投稿という行為がこれまで以上に一般的で気軽なものになりました。

まとめ

本文のまとめとして、まずは秋葉原が強い商業の集積をしていることが改めてわかったかと思います。そしてそのほとんどがサービス業にあたるもので、扱う商品こそ違いますが新型コロナウイルスのような人との接触や活動が制限される条件に対してはあまりに弱いということも付け加えておきましょう。
人との関わりが得意なオタク、苦手なオタクと両方存在しますが、どちらにせよ彼らはどこかで人との繋がりや関わりを持っており、それが失われたことによる影響もありました。メイドカフェやデュエルスペースではマイナスに働きましたが、オンラインイベントではネットの力もありプラスに働いて盛り上がりを見せたこともありました。
そういう意味では、オタク文化は強かったのかもしれません。元々が"ニホンオタク"という学名のネットの生き物だからという側面もありますが、そんなオタクたちが秋葉原に行かなくなれば秋葉原が危機に陥ることも事実です。我々オタクに限らず文化というものは(とくに文化を受け取る消費者側は)現実かオンラインかという空間的な制限をそれほど大きく受けないのかもしれません。それは、オンラインイベントの盛り上がりが証明してくれます。今日この本を購入して頂いた方も会場という現実空間に足を運んでいますが、時にはAmazonなどのオンライン空間で買い物をするかと思います。ここでの空間的に制限を受けないとはこういうことです。
と、言う具合で本文のまとめとさせていただきます。
ではここまでお読み頂きありがとうございました。


《引用リスト》
LIVE JAPAN  https://livejapan.com/ja/in-tokyo/in-pref-tokyo/in-akihabara/article-a0000261/
秋葉原電気街振興会 https://akiba.or.jp/archives/history02
スクウェア・エニックス公式  http://www.dragonquest.jp/roto/
AKB48公式   https://www.akb48.co.jp/theater
ビジネスの教科書  https://dyzo.consulting/1421/
豊田市HP  https://www.city.toyota.aichi.jp/shisei/profile/1029019/1004591.html
鹿島茂著『神田神保町書肆街考:世界遺産的"本の街"の誕生から現在まで』筑摩書房,2017,556p.
牛垣雄矢,東京都千代田区秋葉原地区における商業集積地の形成と変容,地理学評論,83-4,2012,383-369.


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