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何気ない過去の言葉が誰かと自分を救うこともある

いつもの通り事務処理をしていると
「アイティジーの〇〇さんという方からです」と回されてきた電話にでた。

「どうも〇〇と申します。
以前訪問した際に、頑張れよとお声かけ頂き、それが嬉しくて、そのとき仕事をやめようかと悩んでるときだったんですが、頑張ることができて、主任になることができたんです…」

めんどくさそうだなと思い彼の話に被せるように
「あー、そうですか。ご用件は何でしょう」と聞いた

「事務所が移転して、今は離れているのですが、本日、こちら方面に来ているので、ご挨拶だけでもしたいんです」

「そうですか、玄関先でホントに挨拶だけなら」

「あっ、覚えていらっしゃりませんか?ホントにあの言葉を頂いて会社を辞めずに頑張れたんです。よろしくお願いします」

私の記憶を手繰っても何もでてこなかった。
同僚たちから新手の詐欺商法じゃない?と言われた。

それから程なく、事務所のドアを叩く音がした。
ワイシャツが透けてしまうほどに汗でびっしょりの
小太りな男が立っていた。

「ホントに嬉しくて、お会いしたくて。
私はゴールドの投資をお手伝いしておりますので…
現在、金の相場はカクカクシカジカ」
あっ、やっぱりセールスかヤバし
「さっき挨拶だけといったよね」
と遮断してサヨナラしようとすると
「嫌、それは一応何してるかをいっただけです。
会社を辞めなくてよかったんです。
今は主任にもなれて、よかったです。あの時の"頑張れ"の言葉がホント嬉しかったので、ご挨拶したかっただけですから、お会いできただけでも嬉しくて」

額からは頬を伝う汗が滝のように流れる。
その汗を小さなハンカチで拭いながら、名刺を差し出してくれ、何度もありがとうを繰り返していた。

あまりにも真面目過ぎて、世の中からは弾き飛ばされてしまうタイプにもみえた
「あまり、無理だけはせずにしてくださいね」
と声をかけドアを閉めた。

ふと、冷蔵庫にあるアイスキャンデーがあったことを思い出した。
ドアを再び開けるもそこに姿はもうなかった。
エレベーターが降りていく表示が彼の後ろ姿のように 思えた。

何だろ、今さっきの自分は?
セールスかヤバしと思った瞬間に
人をカテゴライズして見てるだけで
その人間性を観てなかった。

数年前に彼に頑張れと声かけした頃の自分は、
人を観ることはできてたのかもしれない。

発言する側の記憶にすら残っていない一言で、
ひとを勇気付けることも、傷つけることもある。

見えるけど観えないことがあることを改めて意識していこうと思います。

せめて、アイスキャンデーを手渡してから話を聞けるようにしたいものだ。

「頑張れたんです」という彼の瞳に映る
ビジネススマイルのおっさんとはサヨナラしたい。

誰かの笑顔が、その人に向けられてなくても、
その笑顔を目にした誰かを救うこともあるのだから。

#君のことばに救われた

世の中、人との関わりが薄れがち、あなたに繋がれて感謝です。