田辺さんのあだ返し
私はよく、「今日は楽しいことあった?」と、あんりちゃんとはるちゃんと田辺さんに聞きます。ある日の田辺さんは「あんりと私がびしょ濡れになったうえに寿司屋に入れなかった。はるちゃんにびしょ濡れは誤魔化したよ」と教えてくれました。私は楽しそうだけどよくわからなかったので、後日、ライブ前に「あれはなんだったのか」と田辺さんに聞きました。すると、その場にいた三人でその日の出来事を教えてくれました。
その日、三人は福岡で仕事があったそうです。
あんりちゃん「私たちは地方で仕事のとき、着いたらまず何を食べるか話し合うんですけど、その日もそうなったんです」
その日は帰りの飛行機の時間にゆとりがあり、福岡で夕飯も食べられる余裕があったそうです。
あんりちゃん「私たちが福岡で大好きな焼き鳥屋さんがあるんですけど、そこに行こうかって話になって」
はるちゃん「そうそう!でも田辺さんが『GW中だし混んでるんじゃない?』って言って」
田辺さん「だって、いざ行ったら混んでいて入れませんでしたって嫌じゃない?」
はるちゃん「見てから決めたら良いじゃないですかって提案しても、田辺さんは、『いや、無理だよ。近づいて駄目だったらダメージでかいよ!』って確認するのすらNG出してきて」
あんりちゃん「田辺さんが頑なに『焼き鳥はきっと無理だよ!』って言うんで、一旦焼き鳥は無しになったんです」
田辺さん「私傷つくのが怖いの」
田辺さんは焼き鳥屋さんに対し、数年ぶりに恋しちゃった人みたいになっていました。
あんりちゃん「じゃあ、せめて昼に寿司を食べようってなって。劇場の近くに私たちが好きな回転寿司があって」
田辺さん「私とあんりで合間に行くことにしたの。はるちゃんは留守番してるって言って」
あんりちゃん「それで、劇場出たらまさかの大雨で」
田辺さん「どしゃぶりだったわ」
二人の寿司への思いは強く、結局傘無しのままダッシュで突破を試みたそうです。
あんりちゃん「一瞬でずぶ濡れになりました」
田辺さん「マジでずぶ濡れ!しかもさ、ずぶ濡れになってまで行った回転寿司が激込み!!外まで大行列!!」
あんりちゃん「これは寿司無理だってなって、諦めて、また土砂降りの中をダッシュで帰ったんです」
田辺さん「私とあんり、ただずぶ濡れになりに行っただけだったよ」
あんりちゃん「本当ですよ。楽屋に戻る前に、『こんなにずぶ濡れで寿司も食べられなかったって言ったら、絶対はるちゃんに何か言われるよね。あの女は大喜びだ』ってなって」
はるちゃん「私のことなんだと思ってるの?」
田辺さん「あんたは悪魔よっ!!」
はるちゃんはあんりちゃんと田辺さんが「最近起き上がるのが辛い」「沈むタイプのソファは危険。立ち上がれない」などの話をしているとき、「痩せたら良いんじゃないですか?」と言って以来、悪魔認定されています。
あんりちゃん「田辺さんと話し合って、『はるちゃんに我々がずぶ濡れなことは隠そう』って決めたんです」
私「隠せるの?」
あんりちゃん「我々が戻ったら、早速はるちゃんが『すごく濡れてない?』って言って来たんで、
『本当!すごく混んでた!びっくりした!!』
『激込みっ!!外まで長蛇の列っ!!』
『流石、GWだよねー!!』
って店の混雑をアピールすることで誤魔化しました」
私「それは誤魔化せてるの?」
はるちゃん「びしょ濡れで2人が戻ってきて、『濡れてない?』って言っても寿司屋が混んでいた話しで返してくるんです。でもびしょ濡れなんです」
田辺さん「それなのにはるちゃんったら、『びしょ濡れだよね?風邪ひくから拭きなよ!』っていじってきて」
私「それはただの心配じゃない?」
はるちゃん「だって、泳いだ?ってくらい濡れてるんですよ!」
私は以前名探偵コナンを見ていて、事件に巻き込まれてずぶ濡れになったコナンがずぶ濡れの状態で仲間たちに合流したとき、誰もコナンが濡れていることにつっこみをいれずに普通に会話をしていたことを思い出しました。
私(逆コナンだ…)
あんりちゃん「田辺さんがずぶ濡れの状態で『回転寿司も混んでたし、焼き鳥屋さんも混んでるよ!行っても無駄だよ!』ってまたさっきの焼き鳥の話を復活させて」
田辺さん「だって、寿司は食えず、ずぶ濡れではるちゃんにいじらて、それでさらに傷ついたら辛いじゃない」
あんりちゃん「…でも、私はずっと焼き鳥を諦めていなかったんです」
私「あんりちゃんは行きたかったの?」
あんりちゃん「はい。だから、仕事が終わったとき、『食べなくて良いから一回、焼き鳥さんの前を通らない?』って提案したんです」
私「どういうこと?」
あんりちゃん「最初から空いていたら食べようって気持ちで様子を見に行くとします。田辺さんも言っていた通り、それで混んでいて入れなかったら落ち込むじゃないですか。だから、食べようと思わずにただ前を通って、たまたま空いていたら入ろうって考えです!」
はるちゃん「難しい!」
あんりちゃん「それなら混んでいても、『別に食べようって思ってないし。ただ前を通っただけだし。やっぱりね!混んでるよね!』って傷つかないじゃないですか!」
あんりちゃんも田辺さんも傷つくのが怖い気持ちは同じようでした。
私「結局行ったの?」
田辺さん「行ったわよ!あんりがどうしても『前を通るだけだから!』って強くお願いしてくるから」
あんりちゃん「結果…焼き鳥屋さんに入れたんです!私の諦めない気持ちがみんなを焼き鳥に導いたんです!!」
私「すごい!やっぱり諦めちゃいけないね」
あんりちゃん「諦めたらそこで試合終了ですから!」
スラムダンクの安西先生の名言はあんりの食い意地にも適用されたようでした。
あんりちゃん「本当にみんなには感謝してほしいです。田辺さんの諦めっぷりじゃ絶対に入れなかったですよ」
田辺さん「そうね。寿司を食べれなかったこともずぶ濡れになったことも全て救われたわ。はるちゃんなんてずぶ濡れにならなくて焼き鳥行けたんだよ!あんりに感謝しな!」
私はずぶ濡れに関しては『勝手に二人が濡れたのでは?』と思いました。
あんりちゃん「そう!私は恩人なんですよ!それなのに…田辺さんはその恩をあだで返したんです!」
田辺さんは恩をあだで返したようでした。
あんりちゃん「焼き鳥屋さんで美味しく食べていた時に事件は起こりました」
あんりちゃんは【鶴の恩返し】ならぬ、【田辺さんのあだ返し】という嫌な昔話を話始めました。
あんりちゃん「私が頼んだイカの足の串がとても美味しかったんです。だから私が思わず、『うますぎ!このイカのタトゥーほっちゃおうかな』って言ったんです。その直後に店員さんが入って来て、『〇〇でございます』って別の串を置いていって」
私「うんうん」
あんりちゃん「そうしたら田辺さんが、
田辺さん『あんり良かったね。すべってたから』
って言ったんです。私はきっと自分の聞き間違いだろうと思って、
『今なんて言った?』
って聞いたんです」
再現したあんりちゃんの『今なんて言った?』は聞き返しのテンションではなく、これから喧嘩を始める人の怒声でした。
あんりちゃん「そうしたら、田辺さんは、
田辺さん『あんり、イカの足のタトゥーでおすべりになられてたから。店員さんに助けてもらったね。場の空気を新しい串で変えてもらって』
って言ってきたんです!!」
私はそれを聞いて田辺さんを見ました。
田辺さん「だって、イカの足をタトゥーって大すべりだよ」
田辺さんは冷静に答えてきました。
あんりちゃん「私それを聞いて言ったんです!
『仮に私がすべっていたとしても酷いじゃないですか!私はずっと田辺さんが隣ですべり続けているのを助けてあげたのに、私のことは助けてくれないんですか!』
って!そしたら、
田辺さん『無理よ。助けられないよ。だって、イカの足をタトゥーって大すべりだよ』
って!」
田辺さん「だってイカの足をタトゥーって大すべりだよ!」
私「田辺さん、いつも助けてもらっているんだから、仲間がすべったときは助けてあげなよ」
田辺さん「嫌よ!」
田辺さんは「良いよ」と答えるのが当たり前のお願いを即答で断りました。
田辺さん「私はね!誰よりもすべりに敏感なの!誰よりもすべりを察知するのが得意なの!自分がすべっているときも『ああ、今私すべっているな』ってすぐにわかるの!」
はるちゃん「すごい!」
あんりちゃん「いや、すごくないよ。田辺さんただすべってるだけだから」
はるちゃん「私は自分がすべっていることに気づきません!」
私「それはすごい」
田辺さん「だからこの能力を活かして、なるべくすべりに巻き込まれないようにすべりから逃げるようにしてるの!それが仲間のすべりであってもね!」
あんりちゃん「ひどい!」
田辺さん「何とでも良いなさい!私はすべり共演NGよ!」
私「田辺さん、チームワーク大事だから。ね!」
私はそのとき田辺さんをたしなめながらも他人事のように言っていました。
しかし、悲劇は繰り返します。
話を聞いた直後のインスタライブで私自身が大すべりをし、助けようとしたあんりちゃんも巻き込まれて大すべりをし、
私(誰か助けて!)
周りを見ると、田辺さんが小走りで逃げている後姿が見えました。
私(田辺さん走ってすべりから逃げている!)
その日、私はいつもサイズが大きいと思っている田辺さんの背中が初めて小さく見えました。
おわり
*
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