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ドナルドダックの足とリアル

最近ふと、妹が小学1年生の時に描いた鶏の絵のことを思い出した。

それは鶏小屋の金網越しに、二羽の鶏と三羽のひよ子をクレヨンでダイナミックに描いたものだった。その迫力や力強いタッチ、原色の鮮やかな色合いが今でも強く印象に残っている。ただ一点だけ不自然な点があった。

それは「足が異様にデカイ」という点だ。

鶏もひよ子もその体格には不釣り合いなくらい、足が異常にデカく描かれていたのである。しかも足部分の色合いも黒々として、その異様さを際立たせていた。

結構あとになってから妹にそのことを聞いてみたのだが、そこには大人と子どもの価値観の相違による激しい争いがあったのだ。

妹は当初、鶏とひよ子の足を水かきの付いたアヒルのような平べったい形に描いたそうだ。例えるなら、ディズニーキャラのドナルドダックのような黄色でペタペタと歩くような可愛らしい足である。

それを見た先生が実際の鶏やひよ子の足とは違うという理由から、絵の上からゴツゴツとした力強い三本指の生えたリアルな鶏の足を描き足したのだという。

妹はその足がどうしても嫌だった。だから、先生が描いた部分を塗りつぶしてドナルドダックの足に再度描き変えたそうだ。そこから2人の怒涛の戦いが始まり、最終的に異様にデカい上に塗り潰しあったせいで黒々とした足へと変貌を遂げたのだった。

そのやりとりを想像すると思わず「いや、お互い口で言えよ!」と突っ込んでしまうと同時に、妹の「描きたいように描かせてくれ!」という純粋な心境を思って少し切なくなる。

結果的に先生が描いたリアルな鶏の足が採用され、その絵は入選して妹は全校生徒の前で表彰された。

先生の旦那さんは画家で、そのため先生自身も美術に対して熱心だった。私も友達の顔を描いた時に「人の鼻の下には2本の線が入っている」と言われて、少女漫画のようにキラキラに描いた友達の顔の鼻下に、2本のしわを描き足されたことがあった。

大人になった今なら正しく教えたいという先生の気持ちもわかる。

ただ、人に認められるとか表彰されるという損得の問題でなく「描きたいように自由に描かせて欲しい」という当時小学一年生の妹の気持ちが今でも私の心を強く捉えるのだ。

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