誕生日

十七歳の誕生日に、生まれて初めてバースデイケーキを食べた。
そこに在ったのは死体の山で、てっぺんのいちごにフォークを刺したとき、足元の口腔につま先が触れた。

仕事先で聞いた太極拳の話を思い出す。インターネットと潜在意識とデカルトとパスカルとWEBについて夢想する。vaporwaveのように靄掛かった映像が次々とザッピングされては目まぐるしく光景を塗り替える。年齢の数だけわたしの肉体がそこに転がっていて、皮のない、真新しく白い流線形の骨々と、血肉が散乱している。飛沫をぬぐい、黒い山の真上で膝を抱えて、今にも消えゆこうとする魂に杭を打ち、わたしはそこに在るものの錨鎖を確固たるものとした。祈りでも呪いでも切実であることには変わりない、それもかなしいほどに。磔にされているものが違うだけで。歳の数だけ死体は積み上がり、山は大きくなっていく。変わらず魂だけがそこで燦然と、不定形な輪郭を揺らしている。行けたら行くとか、たぶんやるとか。

錯乱している自覚がばちばちにあり、身体の震えが止まらず、心臓の拍動が鼓膜の奥で重く響いているのを覚えている。「あ、あ」と調子はずれの拍子を打ちながら声が、頭の中で反響した。死にたかったわけではないんだと思う。偏狂的な領域までにある現象の奴隷だ。ルンペルシュティルヒェン現象の奴隷だ。実体二元論に足を絡れ、同族たちへの愛と憎悪に胃酸が逆流する。十八体になった死体の山の上でわたしはケーキを味わえるだろうか。十九体になった死体の山の上でわたしはケーキを味わえるだろうか。

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