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黄昏文学論

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2022年2月の記事一覧

石原慎太郎の初期小説について(3)

石原慎太郎の初期小説について(3)

(承前)たまたまボクが持っている筑摩書房「新鋭文学叢書」第8巻(1960年刊)が「石原慎太郎」で、その作品解説が三島由紀夫なのだった(写真は前回添付)。そして、どうやら巻末に掲載された「初期詩」を選んだのも三島由紀夫のようだ。

 遺ったものはなにもない
 砂はとっくに冷えきった
 全体、なにが蘇ろうーー
 ひしゃげた「原理」も「真理」もない
 いじけて惨めな乳くり合い
 三月で流れた胎児(がき)

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石原慎太郎の初期小説について(2)

石原慎太郎の初期小説について(2)

(承前)戦後あらゆる支配原理がその権威と意味を空中に霧散させた時、思想の空隙を突いて石原慎太郎は登場した。『太陽の季節』がほとんど処女作で伊藤整を鷲掴みにして「芥川賞」が与えられたことは、言わば「事件」であった。そして、この「事件」は戦後の日本社会にセンセーショナルなスキャンダルをもたらした。慎太郎と大宅壮一との対談の中で大宅が口を滑らせた(結果として名付けた)「太陽族」が、湘南で繰り広げるナンパ

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石原慎太郎の初期小説について(1)

石原慎太郎の初期小説について(1)

「太陽族映画」がヌーヴェルバーグの種子を撒いたと言ってもそれは慎太郎の功績ではない。「太陽族映画」のそれぞれは執筆してあるので参照していただきたいが(別項「シネマde三昧」)、第二次世界大戦後の解放感、空気は世の東西もない全世界的な訪れだった。慎太郎自身は解放感に満ちたアプレゲールを背景として「ジャズ小説」を書こうと目論んでいたようだ。もっとも当時の「ジャズ」とはスィングから、ロックンロールまでを

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