膨張、収縮、反転
前回の8月25日の稽古でのこと。もうひとつ床稽古のことで書いておきたいことがありました。
いつも通りまず予備動作としてゆっくりと手を上げながら空間を広がっていき、広がりきったところからは収縮に転じて落ちていきます。
いつもはそのまま床に横たわって床の下の方に、重力を感じてさらに落ちていくということになるのですが、前回の稽古では少し様子が違っていました。
手をあげながら空間が広がっていくのを感じながら、足もまた無限に伸びていき、やがて広大な球空間となりました。その球の中心に自分がいて、手足が長く伸びて、その球空間の端っこに届いているという感じです。自分の感覚としてはその端っこは宇宙の果てであり、138億光年先という感覚でした。
そこまで膨張して広がれるだけ広がったら、今度はそこから収縮していきます。身体の一点を感じながら段々と身体が丸まり、そのまま身体を最も小さい状態にまで縮めていきました。
それ以上縮まれないというところまで行った後、やがて小さく丸まったままゴロンと床に横たわったのですが、その時点では上下の感覚がありませんでした。
さらに、自分は点であり、その小さな一点のさらに奥にあるもっと小さな一点に向かって、まだまだどんどん縮み続けているというような感じでした。それはさしずめ重力に押しつぶされてプランクスケールのサイズ以下になってもまだまだ縮み続けるブラックホールのような感じだなと思いながら見ていました。
その感覚をさらに観察していたら、その点を超えて向こう側に反転して突き抜けるような感覚になっていきました。反転して捲れ上がることで空間は完全に上も下もない状態になり、床に横たわっているというよりは、無重力の状態で宙に浮いているような感覚になっていたように思います。
その状態で過ごす10分間は全てが煙になってしまったようでもあり、身体が消えてしまったようでもあり、無重力状態で宙に浮いて漂っているようでもあり、感覚としてあるのは中心の一点のクリアな充実した感じで、何かそれこそが重心であり、転換点であり、そこにある種のポータルと言ってもいいような働きがあるように思いました。
鈴が鳴り、そこから起き上がっていくわけですが、上下がよくわからない状態の中で唯一できるのは伸ばすことと縮むことだったので、まずは指を動かし、手を少しずつ伸ばしてみたり、足を伸ばしてみたり、やがては気持ちの良い方に身体を伸ばしてみたり、捻ってみたりしているうちに、いつのまにかうつ伏せ状態となり、そこから少しずつ身体を起こし、頭が床に対して90°の位置になった時に、急に傾斜計がリセットされて、上下がはっきりわかるようになった気がします。
立ち上がりながら、さながら宇宙遊泳をしているようだということを感じていました。目の前の世界もまた自分の内在空間で、少しとろみのついたゼリー状の液体の中を泳いでいるような感じでした。
この日は身体の一点というのが「たしかさ」として感じられて、そこを中心としての動きがあり、安定感があり、安心感があったように思います。立ち上がった後も皮膚感覚でどうしたいかはっきりとしていたので、それに従って動いた感じで、終わった時にはとても気持ちよく満足感を感じていました。
後から振り返るに、落ちる方向というか、収縮していく方向というか、設定次第でいかようにもできるような気もしますが、何度も同じようなことを繰り返すうちに、その一点というものがもっと明確になっていくだろうという気がします。こういうことも、舞踏的には、自分なりの「型」を見出すということなのかもしれません。
しかしそれとともに、その一点をポータルとして反転空間に出るというイメージはヌーソロジーのψ1(膨張)からψ2(収縮)を超えて、ψ3(反転)の領域に入るという道筋を思うと、そこにはやはりなんらかの意味がある経験をしているようにも思えますし、もう少しこのあたりのこと、繰り返しやってみて、経験値をふやしていければと思っています。