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抱かなかった話

先月、新宿でナンパした時の他愛もない話です



〜寂しいからナンパをしよう〜


新宿の喧騒に飲み込まれたホテルの一室で彼女との別れを思い返していた
僕はTwitterで知り合った相手と会うために東京に足を運んだ
彼女とは1日遊んで一晩を過ごしてから、新宿でまた遊んで食事を共にしてホテルで休憩した後に僕たちは別れた
初めて会う相手だったし、そもそもTwitterで知り合った人と会うのは初めてだった。
まさかTwitterを初めて3ヶ月くらいで仲良くなって人と会うことになるとは思わなかった
写真からそのまま出てきたみたいな、かわいい女の子と過ごした時間は満たされてて過ぎ去った時間も一瞬に感じた
だからこそ別れる時は名残惜しかったし、少しでも一緒にいたかった

別れ際、自分の機嫌はあまり良くなかったと思う
この日は抱かなかった。
彼女には今日、門限があったしこのまま一緒にいてくれるとは思わなかったけれど、何回も引き留めてしまった
彼女はちゃんと帰りたそうにしていたし、諦めてそのまま別れることにした
会えただけでも嬉しかったのに別れる時にこんなじゃやっぱ自分は子供だなと後悔している

別れる際にはキスを交わしそのまま部屋で見送った
「部屋から出ちゃダメだからね、パチンコも行ったらダメだから」とか言われた気がするが、僕はその言葉を無視した

〜酒飲んでパチンコ行って、ナンパしに行こう〜
シャワーを浴びて着替えてから、鏡を見る。
今の自分の姿でナンパ成功できるだろうか、ナンパ師をしてたのは数年前のイケイケの自分だ、いけるのか?

まずは外に出て酒とタバコを買おう、そんなことを考えながら部屋を出る時に脱ぎ捨てたはずの自分の靴が揃えられてることに気づいた
靴をちゃんと揃えてくれてたんだ
それを見てまた自分がまた嫌いになって後悔した

外に出た。トー横広場は溢れる人々で賑わっている。僕はファミマでストゼロを買い、タバコを吸いながら広場の様子を見て心を落ち着けた
こういう場所はやっぱおちつく…路上喫煙し放題だし

近くのパチンコに行って友人からの支援金を溶かす直前に大当たりを引いた
つぎ込むごとに増えていく罪悪感がラッキーパトが鳴り響く音によって興奮と恍惚感に一瞬で変わり脳が溶けた
8,000円勝ちだ

飲み代奢ってもらった

よし、ナンパするか
時間は9時ごろで微妙な時間だ
時間的にとりあえず飲屋のある方に向かえば、誰かと一緒に酒飲むくらいはできそうだ
大衆居酒屋やチェーンがあるような活気のある場所ではなく、おひとり様の多さそうな細い路地に展開された路面店が多い場所を選んでそこをぶらついてると、とぼとぼ歩きながら店を探してそうな女性を発見
声をかけると飲める店を探してるとのこと、僕はキャッチではないので目の前にあった店にそのまま一緒に入ることにした
あっさりとナンパ成功だ
6席分くらいしかない狭い居酒屋だ
お姉さん1人が切り盛りしてる店で雰囲気が良かった
他に客もいなかったし、会話に参加してくれそうな店員という立場の第三者がいるのは話しやすくていい
瓶ビールを頼んで話を進めてると
「先月、プロポーズされて仕事の試験で東京に来たんですよ、たぶん今日が遊べるの最後で…」
婚約相手、いるのか

相手は2つ歳が上で専門卒の救急担当の現役看護師だった、和やかで充実した人生を送ってるようで優しい人だった
話すペースも普通、聞き役も話すのも普通にできる相手だ。話してて楽な相手だ
彼女は東京で初めてクラブに行く予定だったらしく、どう楽しむとか、何すればいいかとか、自分の時はどうしていたのか話した
「クラブはタダで飲みかけ吸いかけの酒とタバコが永遠に楽しめる場所だよ」って教えたら相手は笑ってた
後は適当に仕事や学校の話を聞きながら何杯か酒を飲んで変わったつまみを食べてある程度楽しんでから解散することに
「話をたくさん聞いてくれて楽しかったし、年上だからね、色々頑張ってね」
飲み代を払ってもらった。ありがたい
これからクラブに一緒に行かないかと誘われたがやんわりと断った。
「明日、会う予定の人がいるから早く部屋に戻って寝なきゃ」
本当の事だけど欺瞞である
このまま自分の泊まるホテルに連れてくこともできたんだろうけど抱かなかった、婚約相手いるし

体調悪そうな人


彼女と別れた時には終電の時間を過ぎていた。いい時間だ
場所を変えて、自分が取ったホテルのあたりをぶらついていると、対面からとぼとぼと歩く人を女の子がいた、とぼとぼとふらふらの中間みたいな体調が悪そうな歩き方だ、酔っ払いではないっぽい歩き方、四メートルくらい手前まで近づくと目が合った
かわいい

彼女は眼鏡をかけてて小柄で真っ黒の喪服のような服装に厚手の黒いコートを着ていた
自分に似た服装で趣味も合いそうだ
すれ違いざまにもう一度目が合って、通り過ぎた後に僕は建物を背にして立ち止まり横目で彼女のことを追いながらタバコに火をつけた
通り過ぎた後もやはり変な歩き方をしていた。体調が悪いのか
後ろから近づいて声をかけた
「大丈夫ですか?…少し体調悪そうだけど」
「いや・・・少し・・そうです・・・何か用ですか?」
すごくゆっくりと返された
ナンパなんて声かけて返ってきたら成功みたいなもんだ
いつもはそれで内心喜んでいるが、彼女は何かおかしくてそれが気がかりだった
「…体調悪そうだったから少し声かけました…何されてるんですか?」
「・・・・・・・・・・少し体調が・・・」
見ればわかる。とりあえず食事に誘ってみるか
「そうなんですね、自分いま1人で誰か一緒に食事でも取れないかなって声かけさせてもらったんです。1人で食事とるの寂しいじゃないですか、お姉さんが時間あいてればどうかなって」
相手はスマホの画面を眩しそうに少し確認してから
「・・・今友達と会う約束してて・・・待ってるところなんです」
話し方が怖い話でも聞いてるみたいに極端にゆっくりだ、間も長い
大丈夫、相手がどんなペースで話そうが対面で合わせるのは得意だ
人と待ち合わせる約束は半信半疑、誘いを断る時の常套句だ、でもナンパしてきた相手と会話した時点でもう飲まれるしかないんだよ
「友達と待ち合わせ中だったんですね、でもまだ来ないようだし…友達から連絡来るまでご飯行きましょうよ、あ、タバコ苦手じゃないですか?煙臭かったらごめんなさい」
「・・・タバコは大丈夫です・・・でも待ち合わせ中だし・・・え・・・うーん」
ナンパはしつこいよな、文字に起こすだけでイラつく
「お友達からは連絡来てるんですか?」
彼女のスマホを見ながら聞いた
「・・・・・まだ来てなくて」
「それじゃあ少しだけ行きましょうよ、連絡来ないならここで時間潰しててもしょうがないですよ、寒いし」
「・・・・・・・・・それじゃあ食事だけ・・・」
「よかった、1人で食事したくなかったんですよ、誰かといるだけで食事とるの安心するし助かります」
「・・・そうですね」
「それじゃあ適当にぶらついていい感じの店あったら寄りましょうか、食べたいものとか苦手なものとかあればなんでも言ってくださいね」
ホテル街から出て飲食店のありそうな場所まで歩き始める、新宿の地理は全く知らないが、土地勘はかなり強い方だ
「・・・・ラーメンじゃなければなんでもいいです」
「ラーメン苦手なんですか?」
「・・・・・・・・」
「普段何食べるんですか」
「・・・新宿だと韓国料理が多いです」
「そうなんだ、韓国料理あまり食べないな、体調悪そうだからあまり刺激の強いものは良くなさそうだけど、風邪引いてるんですか」
「・・えーと・・・風邪っぽくて・・・目も悪くなって今日ほんとは、病院行く予定だったんですけど休診日だったんです・・・だからまだわかんなくて」

彼女はとにかくゆっくり話すし、会話の間が長い、会話の節ごとに唾を飲み込むような間があって、このときすでに自分は悟っていた
でも僕は誰かと食事でもいいから過ごしたかったし、それで寂しくなければ自分はそれでよかったんだ

「病院やってなかったのか、食事に行くまでに薬局寄りますか?」
「・・・大丈夫です・・明日病院行くので」
「そっか、ならいいんですけど、無理しないでくださいね、何かあれば言って下さい」
間をおいてから彼女は少し落ち着いた気がした

少し隣を歩いて話をしていてわかった
彼女の育ち自体は悪くない、喋り方の丁寧さや姿勢も後から身につけたものではない、幼少期から矯正されたものだ
でも発達か知能に障害があって家庭環境はよくないだろう、仕事か人間関係でかなり擦り切れてる

「そういえば服めっちゃいいですね、それで声かけたくなったんです。僕もほら、真っ黒じゃないですか、一緒です」
自分の服を見せて目の前でくるくると回ると彼女はそれを見て頬触りながら微笑んだ
「服はどこで買うんですか?」
「・・・服は・・・新宿で買うことが多いです」
「そっか、新宿の服屋さん全然知らないや、あと普通にめっちゃ可愛くてつい声かけちゃいました」
「・・・・そうですか?」
「うん、すごく」
「・・・そうですか」
こういうこと言われることが少ないのか、照れているように見えた
「仕事は何されてるんですか?」
「・・・接客です…あまり言いたくないんですけど」
あぁ…なるほど、今はこれ以上聞かないことにした
「僕は大学生で…」

しばらく歩きながら、他愛もない話を続けていた
極端にゆっくりとした相手のペースに合わせながら探りを入れて話すのに初めは慣れなかったが、会話を続けて彼女からほんの小さな笑みを引き出せるくらいには慣れてきた。
まるで10年間笑ったことない人間が表情筋があることを思い出したかのように、彼女は微笑むたびにほっぺをいじっていた

韓国料理が立ち並ぶ大通りに出ると、彼女がある韓国料理店に興味を示したので、僕たちはそこに入ることにした
明るい店内に入って僕が先に席に座ると、彼女はゆっくりと儀式中の巫女みたいに礼儀正しく神聖さを醸し出しながらコートを脱いで音を立てず席に着いた
明るい場所で見るとやはり顔立ちがいい、少し垢抜けてないk-popアイドルみたいな顔で僕よりも年下に見える。
めっちゃかわいいぞ

美味しい韓国料理

席についてから彼女は先にお手洗いに行きたいと言った
「うん、行ってらっしゃい」とゆっくり、できるだけ暖かさを込めて言った
僕はトイレに行く相手にわざわざ、こんな風に言わない、でもなんかそうすれば彼女にとって良いような気がした

ーーー遅い
10分くらいしても戻ってこない、コートと荷物は置きっぱなしでナンパ相手に不用心だ
化粧ポーチを持って行ったとこを見なかったのでこれは長すぎる
やっぱりか、疑念が確信に変わってもまあいいか気長に待とうと思い店の外でタバコを吸って戻ると彼女がトイレから帰ってきていた
「お待たせしてごめんなさい・・・どこ・・・行ってたんですか?・・」
「心配させてごめんなさい、タバコ吸ってました。体調大丈夫ですか?」
「少し悪いです」
「暖かくて栄養あるものとりましょうか、少し落ち着くかも」
自分はなににするか決まっていたので彼女にメニューを渡した
新品の図鑑を買ってもらった子供のようにじっくりとやけに几帳面にメニューをめくって見ている彼女をしばらく観察していた
メニューを端から端まで読んでやっと何にするか決まったようなので、店員さんを呼んで彼女はオレンジジュースと参鶏湯、自分はジントニックと純豆腐を頼んだ

「韓国料理店はよく来るんですか?」
「・・・・誰かと来るのは・・初めてです」
「そうなんだ、僕はこういうちゃんとした韓国料理店来るの初めてなんですよね」
「・・・・名古屋から来てるんでしたっけ、名古屋の人はどういうもの食べるんですか」
東京の人と変わらんだろ、名古屋県民が別の国の人間だと言われてるみたいで惑ったけど普通に答えることにした
「うーん、名古屋には味噌カツとか色々あるけど東京の人と食べるもの変わんないと思いますよ…。でも韓国料理店とかそういう店は名古屋にあまりないかも、チェーンばっかり、だからこうしてかわいい人とこういうとこに食べに来られてよかったです」
あ、照れた

そんなことを話してると飲み物が来て乾杯した
彼女の乾杯も儀式的な所作だった

飲み物を口につけたあと、さらに少し落ち着いたように見えた
そんな彼女を見ながら僕が笑みをこぼすと、彼女も少し笑った
彼女の目は少し充血している。
話のペースを合わせるために僕もゆっくり話すことを維持していた、間が空いても穏やかな表情を入れて会話にたまに世辞を入れながら会話を続けた

「・・・とても・・話しやすいです・・なんでそんなに優しいんですか」
「僕も話しやすいですよ、ゆっくり話されてるけどそれが僕にとってすごく落ち着くし、安心します」
「・・・初めてそんなこと言われました・・・話すのゆっくりでよく変わってるって言われます」
「そうですか、話しやすくていいと思いますけどね、そういえば名前聞いてなかったな、なんて呼べばいいですか」
「・・ミキでいいですよ」
源氏名か?いやどうでもいいか
「みき、みきさんって呼びますね、僕のことは頂てんって呼んでください、源氏名みたいだし女の子みたいな名前で恥ずかしいと思ってるんですけど笑」
「・・・たしかにそうですね」

今になってまだしてなかった自己紹介みたいなものを済ませた。
彼女は僕よりまた二つ年上の女性で高校卒業してから神奈川から新宿に来たとのこと、正直自分より4つは年下に見えたからびっくりした。
異性の年齢なんて当てれたことないけど

それから料理が届いた。僕がいただきますを言ってから彼女も少し遅れていただきますと言った。たぶん彼女は最近人と食事をとってない、いやもっと長い間こうしてお店で誰かと食事をとることがなかったように見えた

純豆腐はすごく辛い、辛党じゃなきゃ食べれない辛さだ、美味しい
彼女は参鶏湯の鶏肉をこれもまた何かの儀式みたいに器用に食べていた
「そういえば、韓国料理のほかに新宿では何食べるんですか」
「・・・ラーメンです」
ラーメン好きなのかよ
「ラーメンいいですよね…」
「・・・好きでよく1人で食べに行きます」
人と食べるラーメンにいい思い出無いのかな

彼女はやっぱり少し変わってる、おっとりしててマイペースなのにガラスみたいな神経質さを持っている
かなり流されやすそうで、声をかけた時にそのままホテルにでも連れ込むことはできただろう
生まれ持った性格と流されやすさで今まで散々利用されて来て新宿に流れ着いてきたんだろうとある程度察しがついた

踏み込んでみるか
「僕は家庭環境があまりよくなくて、父親からはネグレクト受けてて、実家に住んでたんですけど、祖父からは虐めと虐待を受けてて、祖母はパチンコ中毒者で家にいることが少なかったです。子供の時は当たり前だったんですけど、誰かと一緒に食事をとることを覚えてからこういうありがたさに気づけたんですよ」
「・・・そうだったんですね、実は私も母・・との関係が悪くて家を出て新宿に来たんです」
「・・・大学にも行きたかったんだけど、派遣して働いてたら体調崩して、出会い系のサクラを始めたら騙されて借金を負うことになって、そんなに大した金額じゃないんですよ、10万くらい・・・それで新宿で紹介された仕事をはじめて・・・・」
「そうだったんですか、大変でしたね、ごめんなさい、僕が重い話なんてしたから」
「・・・いえ。こういうこと話すの初めてなんですけどなんか話しやすくて落ち着きました。ありがとうございます」
「よかった。・・・僕もみきさんみたいなかわいい人と食事とれて嬉しいし今だけは寂しくないです。会えてよかった ほんとに」
「ほんとに・・・面白い人ですね」
自分でもなんでこんなに穏やかに話せてるのかわからないけど彼女の会話のペースに合わせるのはそんなに苦じゃなくなっていた
彼女との会話では沈黙も全く怖くない、不思議な安心感がある
「体調どうですか?しんどかったら残していいんですからね」
「大丈夫です。ご飯食べたら少し楽になりました」
「よかった」

しばらく趣味やSNS好きな音楽、東京来て何してたかの話をして食事を済ませると、話を聞いてくれたからと言って彼女が食事代を出してくれることになった。ありがたい
でも理由はきっと他にもあるんだろう、もうここまでくれば予想は付く
「これからどうします?お友達とは連絡つきましたか?」
「・・・・まだ連絡来なくて、あの・・・嫌だったらいいんですけど、ホテル泊まらせてもらってもいいですか?」
「全然いいですよ、そしたら僕も寝る時寂しくないし助かります」
「・・・いいんですか、でもお願いがあって・・なにもしないで寝るだけでもいいですか」
「大丈夫ですよ、正直、みきさんかわいいし抱きたいですけど、一緒に寝れるだけで安心するしそれだけで大丈夫です。でもベッドひとつしかないし隣で寝て欲しいです。」
「・・・・わかりました、ありがとう」

やはり提案してきた、彼女からの願いは何もしないで寝るだけ、
僕はとっくに抱くのは諦めて一緒に寝れればそれでいいと決めていたから了承した

それから手を繋いでホテルまで歩いて行った
多分向こうは抱かれるかもってまだ思ってるだろうな

お持ち帰り



途中でコンビニで飲み物と酒を買ってから部屋に案内した。和室があるホテルは初めてだったらしく、少し感動していた
荷物を下ろして座るように促すと彼女は姿勢良く綺麗に座った
「みきさんってすごく所作が綺麗ですよね、顔もかわいくて服もすごく好みだし一緒に食事できてほんとによかった」
彼女はすっかり普通に笑顔を作れるようになっていた
「・・・なんでそんなに優しいんですか、そういうこと言われるのも初めてで、ほんとに人と食事するのも笑うのも久しぶりで口の筋肉がなんかおかしくなってるような・・・」
と言いながら頬いじっていた
面白い、なんだか和むな
これあれだ、なろう系で主人公が悲惨な目に遭ってた奴隷少女引き取って育てるやつ、そのシチュみたい

普段ここまでまっすぐ好意を伝えることはないけど彼女にはしたほうがいいと思った
彼女は新宿に来てから友達は全くいないらしく、一人暮らしをしている。ほんとに仕事以外に誰とも交流がないんだろう、待ち合わせ相手はたぶん客だ
言葉は選んでないけど思ったことを言ってるだけで、言葉は本心だ

「色々と大変だろうし今だけは体調も悪いし休んでくださいね、お風呂入れておくので先に入ってください」
風呂に入ることを促したが彼女は頑なに先に入ることをしなかった、一緒に入ることも拒んだ
彼女が拒んだ理由はわかってたし、最初からわかってて聞いたけどやっぱりそうか
もし、声をかけた時に真摯に対応をせずにそのままホテルに連れてっていたら、黙って先に風呂も入ってたし一緒に風呂も入ってただろうな、いやどうだろうとか考えながら、先に風呂に入った

ぼーっと湯船に浸かって自分はなにをしているんだろうと考えていたが答えは見つからない
とりあえずかわいい人とご飯食べて一緒に寝れるんだしいいなとか考えてた

風呂をあがってバスローブに着替えてから部屋に戻り先に荷物を見ても動いてなかった。
まあここまできて何もされてないんだろうけど念のために確認した

彼女に視線を配ると、風呂に入った時と同じ綺麗な姿勢で座り待っていた
待ってるあいだ何してたんだろう、
なぜか彼女はスマホをほとんど触らない、昔はSNS没頭して依存していた時期があったそうだけど今は使うのもLINE程度らしい
部屋にいるとき、彼女は几帳面に荷物を確認してるか、ぼーっとしている
なにを考えているんだろうか

まあそれにしても顔がいい
ホテルについてから知ったけど化粧はしてなかった。化粧せずにこの顔か…とびっくりした

彼女の風呂は長かった、先に寝てていいと言われたが待っていた
1時間以上はかかってたと思う、風呂に入る前もトイレも頻繁に行っていてまたそれも長い
部屋ではトイレや洗面所に行くたびに化粧ポーチを持って行っていた
過去にホテルで金盗られた経験があったのか、でも店では忘れてたから詰めが甘い


彼女がお風呂から上がった後、「・・・まだ起きてたんですね、先に寝てていいって言ったじゃないですか・・・」
「それ寂しくないですか」
彼女はその言葉に戸惑いを隠せなかったようだが、次第に表情が和らいでそれから一緒に布団に入った
少しだけ明かりを残して部屋を暗くした
新宿の喧騒に飲まれた部屋の中、そして隣から微かに体温が感じられる布団の中で横になって聞くべきことを聞いてみた
「みきさんの体調不良って性病ですよね、目の充血、喉の痛み、頻尿とか、夜職やってる友達多いんですよ、少しだけわかります」
・・・
「最初から勘付いてたしそれでもみきさんとは食事を一緒にとりたかった。今日は一緒に寝れるし満足です」
「けど、みきさんかわいいし綺麗だから性病になってでも正直抱きたいですけどね」
「・・・はい、ありがとうございます。・・・実は病院行くのもそれで、目もおかしくなってって」
「クラミジアですよね、薬で回復するので安心してください、明日はちゃんと病院行ってくださいね」
「・・・ありがとう」
「僕みたいなナンパしてきた相手に気を使ってお風呂先に譲ってくれたのもちゃんとわかってるし、みきさんは優しい人ですよ」
表情が和らいだ
「そういえば僕、年下だし敬語じゃなくていいですからね」
「・・うん、頂てんさんも」

それから彼女は心を開いたかのようにいろんな話を聞かせてくれた
黒人にほとんど無理やりホテルに連れ込まれて犯された後に金を盗まれた話
客のジジイにミルクティにサイレース入れられて寝てる間に犯された話
借金作って夜職になった話


ー「黒人にご飯誘われてついて行ったら、コンビニ弁当だったの、それを地べたで一緒に食べたんだけどそれが嫌で・・・その後部屋の中で食べようとホテルに連れ込まれて犯されて、寝て起きたら財布からお金盗まれてて、ホテル出る料金も払えなかった」
「もう僕みたいな人間に声かけられてもついてっちゃダメですよ…」

ー「買ったミルクティが気づいたら緑色になってて・・・その人にはなんともないって言われたけど気づいたら寝てて犯されてた・・・それが昨日の話なんだけど」
「それサイレースって薬かもですね、悪用されないように飲み物に混ぜたら青色になるんですけどミルクティに入れたら混ざって緑になるのかな…それにしてもそいつ酷いな、その影響で少しふらふらしてたんですね…」

ー「元々は昼職をしてたんだけど、借金できてからスカウトに仕事を紹介されて・・・いまこうして夜職をしてるけど友達もいないし戻りたい」
「戻りたいですね、僕はあまり力になれないけど、友達として定期的に会いに行きますよ、連絡先もちゃんと交換したし服見に行ったりみきさんの好きな映画でもどうですか、また一緒にご飯も食べたいです…」

朝になるまでずっとベッドの上で手を繋ぎながら話をしていた
そのあいだ彼女は体調悪そうにしていた、目も途中で痛くなったと何回か洗面所に行っていたが寝ずに付き合った
やがて彼女が飲んだ薬が効いて症状が落ち着いたようで、一緒に布団で抱き合いながら眠りに落ちるころにはすっかり日が昇っていた


揃えられた靴

ー寝坊だ

起きた時には今日の待ち合わせの相手から連絡が来ていて、しっかり寝坊したことに気づいた
みきさんも病院に行かなければいけないのでそのままにせずちゃんと起こした
僕は慌てて支度したが、彼女の方が準備が早かった
金は先に払ってるのでそのまま出るだけだ、自分の支度が終わる頃には集合時間を過ぎてた

待ち合わせ相手になんていえばいいんだ…ナンパした相手と抱き合って寝てたら寝坊しましたなんていえないな、と思いながら一緒に部屋を出る
その時、自分の靴がちゃんと揃えられていることに気づいた
あー…なんでほんとに、どいつもこいつも
また少しだけ悲しくなった
でもさっきとは少し違う捉え方ができるようになった気がする

ホテルを出て、僕が会う相手との待ち合わせ場所まで手を繋いで行った、その間彼女の写真を撮らせてもらった
なぜかもう会えない気がして、写真だけお願いした

待ち合わせ場所についてから
「それじゃあまた会いましょうね、病院ちゃんと行ってくださいね」
「・・・またね、ほんとにありがとう」
最後にハグだけして別れた



数分後、無事にエンカ相手と会えた
めっちゃめっちゃかわいかった!!!!!!!!!!!!!!


抱かなかった話

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