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コンタックの話

ふわふわと浮いていた
いま自分はいつどこで何をしているんだ...
これは何回目?





24カプセルのコンタックを飲み干してから、酔い止めを忘れたことに気づき、大丈夫だろうか、という疑問を心の隅に納める。

しばらくしてから、じわじわと喉に違和感が忍び寄り、やがて酒に酔ったかのような酩酊感が芽生える。足先から染み渡る暖かさが全身をほぐし、心を満たす。

”どこか帰ってきた感じだ“

瞼が重くなり、物の形が揺れ動く。顔の前で手を振ると幻影が手のひらから湧き出る。その幻影は現実と夢の境界線上で踊るかのような揺らめきだった。

”見えると安心する“


視界がぼやけながらもスマホを触り音楽を流す。ダウナー系の曲が耳に触れ、今まで聞こえなかった細部まで感じさせる。目を閉じれば、瞼の裏に音のイメージが浮かび上がった。自身の内なる世界が瞼をスクリーンにして目の前に浮かび上がり、上映会が始まる。それは音の断片を映し出したプラネタリウムを独り占めしているかのような孤独感を抱かせる。

”シラフの時と音楽の趣味が変わってまるで別人みたい“

ふと子供時代が懐かしく蘇り、遊んでいた友達を思い出し、その姿を想う。
そのときの情景はうまく思い出せないが、その時に体験した感情だけはありのまま思い起こすことができた。
いま見えているものや流行りの曲でさえ懐かしく感じた。誰かを信頼して、未来のことなど考えず、ただ今に夢中だった感覚が今に戻る。

頭が重く、天井が遠く感じ、自分の手の大きささえつかめない。
この体験は昔、熱にかかった日と重なる。
壁が目の前にあるようで、天井は自分が小さくなったようにいつもの数倍高く感じたあの世界。

”不思議の国のアリス症候群って言うらしいよ“

何が何だかわからないこの世界で意識はふわふわとして白いモヤが頭を包み、体の輪郭をぼやかす。
やがて、モヤが全身を覆い自分の存在が空白になる。ふわふわと浮いている感覚に陥り、上に浮かんでいるのか下に落ちているのかわからず、同じ思考を繰り返す。
この思考は何回目かと数え始めるが、意味のないことに気づく。このカウント自体も何度かループしているのだ。

”止まった時間の中で同じ考えと行動や感情が繰り返されて永遠に感じたけれど、全然覚えてないんだ“

タバコを吸って考えた。自分が無意識に置き去りにしてきた感情を薬効がデリバリーしてきたみたいだなと、それくらい今の自分は意識と無意識が裏表になっている。
意識したことができずに無意識に何をしている。
何をしていたんだっけな。

”正気を一時的に取り戻しても、全部がいつもと違う見え方でいつもと違う自分がいる。新しい発見や懐かしさ、居心地の良さや非現実感を楽しんでいても抜けた後のシラフの自分は他人で一生分かり合えない気がする。だから自分はまたここに帰ってこないといけない
薬を食べた時の自分を忘れたくない“


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