プッタネスカ 〜我が家の定番シリーズ〜

我が家の食卓に上がったもので、「上」嬢が気に入り、今後も定期的に登場することが期待されるもの(要するに彼女のお気に入りになったレシピ)は、「ていばん」というタイトルの共有のメモ帳にリストアップされます。
本日はそこから、「プッタネスカ」のお話。


プッタネスカ。「娼婦風スパゲティ」というものですね。名前の由来は諸説あるそうですが、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部の有名エピソード「イタリア料理を食べに行こう」に登場する料理というのが私の第一印象です。(上嬢は漫画を読まないので、きっと知らないことでしょうが。)

私の家にパスタの風を吹かせるのは、大抵父か兄です。唐突にパスタソース作りにハマった兄と、そこからインスパイヤされて大量生産の後に瓶詰めして親類縁者に配り始めた父の話はまたいつか機会を見てさせていただきますが、とにかく私こと「下」にプッタネスカのレシピを輸入して来たのは父でした。

シェアハウス住まいをしていた頃のある日、父から荷物が届きました。
中身は大量の缶詰と瓶詰め。どうやらどこかでまとめ買いをしたらしく、持て余したものをたまにこうして強要…もとい、共有して来ます。
お礼と若干の苦情を言ってやろうと電話をしたところ、父ではなく母が出ました。

ー届きましたよ、荷物。あいかわらず大量に。
ーあら、良かった。その中に、ブラックオリーブの缶があるでしょう。
ーありますね、でっかいのが二つ。
ーそれ、プッタネスカになさい。お父さんがこないだ作ってくれたのだけど、とっても美味しかったから。
ーはぁ。
ーアンチョビの缶も入ってるから。じゃあね。

「やれ。準備はしてある。」と。
今回は母も一枚噛んでいたようですね。
なんだかえらく殺伐とした指令が届いた気分です。

まぁ、お膳立ていただいたからには試さないといけませんから?チョチョイと調べて、試作してみた訳でした。

ブラックオリーブの水煮の缶詰。缶自体は桃缶みたいなサイズの大きなものでした。中のオリーブの実は親指の先ほどの大きさ。これをまず荒く刻んで行きます。
次に、アンチョビ。これも缶詰を開けて、包丁で叩き潰すようなイメージで刻んでいきます。
トマト。ちょうどその時ドライトマトが手元にあったので、少しお湯でふやかしてから、オリーブと同じく荒く刻んでやりました。
ニンニク。こちらは薄くスライスして。

缶詰のオリーブとアンチョビで相当量の塩分があるので、味付けはこの方々にお任せにしました。追加の調味料は、赤唐辛子とケッパーだけ。

フライパンにオリーブオイルをたっぷり。ニンニクを入れて香りを出し。刻んだ具材を全て入れ、ドライトマトの戻し汁も忘れずに。上嬢は辛いものが苦手なので、種を除いた唐辛子をホールのまま(刻むと避けるのが大変ですから)入れて、全体が馴染むまで軽く煮ます。塩気が強すぎると感じたら、パスタの茹で汁で調整を。

茹で上がったスパゲッティーニをフライパンに入れ、よく煽って馴染ませたら、完成。
私はあまり気にしませんが、上嬢は彩りの為にパセリを振っていました。

食材のほぼ全てが缶詰などの保存の効くもので構成されており、「食材の新鮮さ」とはある意味で対局に位置する料理です。ドライトマトを使ったこともあって、正直色味も非常に地味です。出来上がりは煮しめたような色になってしまいました。しかし美味い。全体に漂うマイルドさ、熟成感、一体感がなんとも言えません。刻んで炒めただけなのに、完全に一つのソースとして成立している。それはまるで、老練なプレイヤーが集まり、即興でジャズのセッションを完成させてしまったようなものかもしれません。…さすがにそこまでではないかもしれません。
先述の通り辛いものがあまり得意ではない上嬢ですが、これはとても気に入った様子で、「ていばんいりです。」の宣言をされました。いえ、辛いことは辛いそうなのですが、つい後をひく、と。赤ワインが止まらない、と。

買い置きで作れるしさっとできるし美味しいので、「ホームパーティでもう一品出したいけど、どうしよう…」という時に重宝します。
あるいは、買い出しがしたくない時の休日のランチに。昼飲みに持ち込めれば、背徳感とあいまって最高に美味しくなります。
お家でパスタランチ。人気者の娼婦も、たまの休日をこんな風に過ごしたかもしれませんね。

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