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【彼と彼女のものがたり】side Y

「魂」で繋がる彼と彼女のものがたり

現実の光と闇を行き来しながらも

お互いの存在を意識しながら

共に生きていく。
《道》〜side Y 〜

「私、

颯ちゃんの音

好きだよ?」


からりと早絵は笑った。


「、、、そう言われると
嬉しいよ。


、、、ありがとう。」




30年前の扉は
もう二度と開けることはないと
思っていたのに。。。






地元で一浪していた俺は

教職だった親の反対を押しきって

音楽専門学校に入る為

上京した。


弾くのはそれなりだったけど

理論がまったくなかった自分には

基礎を身につける必要があったのだ。




歴史ある学校で
有名ミュージシャンも多く輩出している。


海外へ音楽留学するステップとして
来ている奴らも多かった。


早絵は
俺とは真反対に
音楽一家の家系で
幼少期から英才教育で身につけた
ピアノ技術を持っていた。


専攻は違ったが、
セッションで顔見知りになり
仲間内でよくつるむようになった。

派手な外見が多い中で、

いわゆる「お嬢様風」の早絵は

育ちの割に
サバサバしているのがいいな、、と

密かに思っていた。





「私はね、
音楽馬鹿には
なりたくないの」

「周りがそんなんばっかりだし、、
堅苦しくてつまんないから」



そう言う早絵は

油絵も描くし、

ありとあらゆる本もよく読んでいて

変わった視点の持ち主だと感じていた。


(こいつ、変態かもな、、)



「変わってるって思われるのは
慣れてるから。

だって、
みんなもそう思ってるでしょ??」


(バレてるし。。)


「早絵に騙される奴は多いだろーねぇ。。」


「渉だって
女騙すのは得意じゃん??

あんたは確信犯だけどねー

私は天然だもん。

騙すつもりはないから
無罪だよー?」

「渉!次はじまるから行くぞ〜」

「颯、俺トイレ寄るわ。
先行って」



俺は
そんな早絵を見ているのが好きだった。





卒業まで残り少なくなった頃
校内は殺伐としていた。


進路が決まった奴
先が見えない奴
在学中に仕事をはじめる奴

だいたい3つに割れる


俺は
まだ数は少なかったが
仕事の依頼が入るようになっていた。

早絵と渉は
アメリカに留学することが決まっていた。



(ボンボンは
進路も困らなくていいよなぁ。。)


自分とは結局違う人種なんだ、と
颯太は思った。



「颯ちゃん、
今度二人で話せないかな、、?」

「渉は?
来ないの?」

「颯ちゃんに!!
話があるの!!」

「、、、??
うん、、わかった。」

「明日のバイト終わりでもいいか?」


「じゃ、よろしく。」




いつも三人でつるむのが当たり前だった。

(けど、、
もうちょいでそれも終わるんだな、、)




早絵との約束の日



こんな日に限って
バイトしてる飲食店は激混みだった。


「山崎くーん!!
申し訳ないけどさぁ、
もう一時間位
手伝ってくんない??」


「、、、
手当てつけてもらえます??」

「勿論だよー」

「時給20円増しとくからさ!」

(安っ)

(、、ちょっとくらいなら
早絵も大丈夫だろーな、、、)



早絵は時間ジャストに
約束した場所にいた。


颯太には
自分からちゃんと話しておきたかった。



渉と付き合うことになった、と。


その上で、

自分のほんとの気持ちを

伝えるつもりでいた。










待っても待っても

颯太は姿をみせなかった。


(来週にはアメリカに
行っちゃうんだよ…??)




「バイバイ、颯ちゃん。。。」





約束の店の前



横断歩道を渡ろう

とした時、


無免許運転の

バイクが薫に突っ込んできた。






即死だった。







アメリカに立つ予定の翌日


薫の葬儀が行われた。



(なんでだ、、、??)



(なんであの日、


バイト延長なんかしたんだよ、、、)




「颯太さん。。」



早絵の双子の妹、

早百合が声をかけてきた。


「これ。
早絵ちゃんから預かってた手紙です。」

「あの日、
もし颯太さんに会えなかったら
渡してねって言われてました。」



「、、、、
ありがとう。。。」


おそるおそる
早絵からの手紙の封を開いた。




『山崎颯太さま


会う約束の日の朝
これを書いてます。


颯ちゃんのことだから、
バイト長引いたりして
会えないかもなぁ、なんて思ってね。。



私ね、


ほんとは
颯ちゃんが
ずっと好きだったよ。


だけど。



颯ちゃんの音を聴いてたら
言えなかった。



颯ちゃんは

ホンモノになる人だと思うから。


変態の私が言うんだから、
そうなるんだよ!



あなたの音楽の

邪魔にはなりたくなかった。



だから。。。



渉と一緒にアメリカで

頑張ろうと思えた。


初めての土地だし、

ボディガードとして

渉を雇ってやろうと思ってね 笑



颯ちゃん

あなたの音

大切にしてね。




私の大好きな音

どうかどうか。

大切にしてください。



颯ちゃんが楽しそうに弾くのが

本当に大好きだった。




ありがとう
颯ちゃん


またどこかで


早絵 』




(最低だ……)




(何もかも)



(どうしようもなく、
どうしようもない
最低な奴だ俺は……)


「死んじまったら

意味なんか。。。。


ねぇだろ。。。」





「それと、、、これを。」


早百合はクリアファイルに入った譜面を
手渡した。


「アメリカに行く前に

完成させるって

毎日
にらめっこしてたんですよ。」


曲づくりの勉強もしていた早絵の
アレンジだった。


「どんな時も、、、??」


「そうです。
颯太さんにあげるんだって言って。

リズムセクションはかなり時間かかって
何回も何回も
ああでもない、こうでもないって直して。

私も巻き込まれて大変でした。。」


丁寧に原曲の詞まで添えられていた。

(どんなときも

どんなときも

僕が僕らしくあるために、、、)


俺は

その場で泣き崩れた。



(好きなものは好きと

言える気持ち

抱きしめてたい。。。)




早絵の本当の気持ちに
全く気づくことが出来なかった。


あれだけ一緒にいたのに。



あの日

もし、時間通りに

行ってたら、、、




遅れるって

連絡さえしていたら、、、、


早絵は、、、、、





「早絵を殺したのは俺だ。。。」


「颯太さん、、

それは違いますよ??」


「早絵ちゃん、

颯太さんと知り合って

全然変わったから。


、、、、


だから!!!

颯太さんがいてくれて

良かったって

私も思うんです。」


早絵と瓜二つの早百合は
懸命に颯太をなだめようとしていた。


(でも!!!)

(俺との約束さえなければ!!
早絵は、、、
今頃アメリカに行ってたんだ!!!)



「颯太さん、、、

間違っても

音楽辞めるなんて

言わないで下さいね???」


「早絵ちゃん、いっつも言ってたんです。

颯ちゃんは必ず大物になるって。



だから。。。

早絵ちゃんを思うなら、

どんな形であれ

颯太さんの音
鳴らし続けてください。。。

、、、、、、、

私からも。。。

お願い。。。します。。。」




早百合も泣いていた。





どう家まで辿り着いたか記憶がない。


かろうじて、
手紙と
譜面の入ったファイルだけは
握りしめていた。


手書きの譜面は
かすかに
早絵の香りがするような気がした。


(俺はもう
人を好きになんかなっちゃダメな人間なんだ)


「早絵、、、」




原曲の歌詞にはこうある。



( そしていつか誰かを愛し
その人を守れる強さを
自分のチカラに変えていけるように )


「守るもへったくれも
ないだろーが!!!!」

「なんで、、こんなの残したんだよ、、、、」



「早絵、、もっともっと強くなれば
ひとを愛してもいいって思うか、、?」



颯太は
永遠に
答えの返ってこない
問いをするしかなかった。



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