Free & Easy を送り出す 角田涼太朗のビルドアップについて
※坂道要素は一切含みません。ご了承願います◢⁴⁶
2022年 3月6日
奇しくも昨年背負った背番号"36"と合わせるかのように、F・マリノスでの公式戦スタメンデビューを果たした角田涼太朗。
大学No.1DFの名を引っ提げ昨年プロ契約を締結するも、出場したのは大差がついたFC東京戦での途中出場のみ。
と言葉を残した通り、優勝争いをしていたチーム状況もあり継続的な出場機会を得ることはできませんでした。
今季は開幕前に主戦のチアゴ・マルチンスが電撃移籍。それに伴い鳥栖から加入したエドゥアルドも同じ左利きのため、開幕からの出番は引き続き限られた。そんな中迎えた3月6日。
本稿では、彼がスタメンデビュー戦で披露したビルドアップのスキルについて、備忘も含めて書き残したいと思います。
※基本的に選手名は敬称略とさせていただきます
1.センターバックに求められるビルドアップ能力とは
現代サッカーでは、センターバックが積極的にボールを保持し、ゲームを作ることは「珍しいことではない」という次元を超えほぼ当たり前となっています。
すなわち ただ"パスが出せる""ボールを上手に扱える(失わない)"
能力を持っているだけでは、ビルドアップに長けたセンターバックであるとひとえに形容することはできません。
では、求められているスキルとはどのようなものか。それはずばり、味方に
Free と Easy
を送り出す能力です(あれ、どこかで聞いたことあるフレーズ?気にしない、気にしない。)
パスを受ける味方にFreeとEasyを供与する能力。これが現代サッカーにおいて、センターバックに求められるビルドアップ能力です。
では、Free・Easyとは何を指すのか。
清水戦での具体例を見ながら解説していきます。
2.Free を生み出す持ち上がり
このプレーは実況の中でも大きな話題となりました。
11分35秒からのシーンです。
高丘陽平から低い位置でボールを受けた角田は、最初の選択肢として落ちてきた藤田譲瑠チマへのパスを模索します。
しかし藤田へは、清水のCH白崎凌兵がしかと狙いを定めているため、藤田へのパスは下記にて説明をするEasyが担保されないと判断し、持ち上がります。
このとき、藤田への狙いを定めていた白崎の裏を完全に取っていることが分かります。直線距離としてはそれほど遠くない位置にいた白崎が完全に遅れた対応となっています。
角田が持ち上がり、白崎の対応も遅れたことによって相手のもう一人のCHである竹内涼に一人で吉尾海夏と小池龍太をケアしなければいけない状態が生まれます。
そうしてボールを受けた吉尾には相手のマーク・プレスが少し乱れ自由なプレー選択ができる状態が生まれました。
少しでも味方がFreeな状態でパスを受け取れるように、角田は相手の選手を引き付ける選択をとりました。
このシーンではボールを受けた吉尾がトラップでこねてしまい、再度ビルドアップはやり直しとなりましたが、もし吉尾がボールを自分の支配下に置けていたならば、前を走るエウベルを使う・ドリブルで持ち上がるなど、プレスが不十分な状況下でより自由なプレーができていたかもしれません。
ビルドアップで大事な点、Freeとは、味方に十分な空間(スペース)を与え、その後のプレー選択を助けることです
14分にも、簡単に持ち出して相手の注目を引きつけ、逆サイドの宮市へとロングパスを送ります。
ただロングパスを送るだけでなく、一度このような動きを加えることによって、相手守備者の意識を少し逸らし、味方の自由な空間を生み出すことができます。もちろん、その後のロングパスの精度も素晴らしいものでした。
3.Easy を生み出すパス選択
前半29分頃からのシーンです。
高丘からボールを受けると、永戸勝也に出すそぶりを見せつつも切り返し、相手のプレスを誘い敵を引き付けます。
相手を引きつけたままボールが高丘を経由し岩田智輝に渡ると、相手の2トップ・及び左SHの3人が全て右CBの岩田に引きつけられた状態が生まれます。
この時、中盤に位置する藤田の周りには広大なスペースが生まれました。その後のプレーで岩田は右SBの松原健へのパスを選択しましたが、右利きの岩田ならば、藤田にパスを送ることも選択できたでしょう。
いずれにしても、岩田の目の前には充分なスペースが生まれ、次のプレーを選択する余裕が生まれています。
もし藤田に通っていたならば、持ち前の推進力で大きなチャンスが生まれていたかもしれません。
角田の相手を引き付ける動き(Freeを生み出す動き)・そしてパス選択によって、簡単に相手の2トップを突破することができたのです。
このシーンをもう少し遡ります。
上記一連の流れの数十秒前にも、角田は高丘からパスを受け取っています。ボールを受けた角田はルックアップし、ここでも同サイドの永戸を視界に入れていました。ここで角田は永戸に対してパスを出す選択はせず、簡単なフェイクを入れて一度仕切り直すかのようにボールを一度GKの高丘に下げる選択を行いました。
ここでポイントなのが、相手の右SHの神谷優太が永戸をしっかり捉えている点です。
左利きのプレーヤーである永戸にパスを出す場合、その後のプレーで扱いやすいよう利き足に向けてパスを出すことが基本になります。
しかし上述の通り相手の守備者が永戸に狙いを定めているため、永戸にボールが綺麗に入ったとしても守備者を近くに置いた状況が前提となり、その後のプレー選択は限られたものとなる=自由なプレー選択ができない
という結果を生んでしまいます。
少しでも味方がEasyな状態でパスを受け取れるように、角田は永戸へのパスをしないという選択をとりました。
ビルドアップで大事な点、Easyとは、味方に十分な時間を与え、その後のプレー選択を助けることです。
この一連のプレーに、角田のビルドアップにおける思考が見て取れます。
4.終わりに
いかがでしたでしょうか。
ビルドアップとは、パスを出すことが目的ではありません。
味方に空間(Free)と時間(Easy)を送り出せないようなパスを出すことは、ビルドアップとは呼べないと考えます。
それを踏まえてもこの日の角田のプレーはとても素晴らしかったと感じます。
個人的な意見ではありますが、ここ数年(特に17年〜)にマリノス所属したセンターバックの選手の中では、ことビルドアップ能力に置いては群を抜いているのではないでしょうか。
加入時の触れ込みや練習レポートなどを読んでいても、ビルドアップに特徴がある選手だとは認識していましたが、ここまで力のある選手だとは筆者は思っていませんでした。
もちろん、センターバックというポジション柄 "守備"の面もフォーカスされて然るべきだと思いますが、本稿では割愛をさせていただきます。
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さて、彼の出身校である
「前橋育英高校」といえばご存知の通り、松田直樹の後輩にあたります。そして
「筑波大学」といえば、"アジアの壁"でおなじみの井原正巳の後輩です。
筆者は井原のプレーを生で見ていた世代ではありませんが、
今年30周年を迎えるマリノスの歴史を振り返ったときに、欠かすことのできない2人の偉大なセンターバックの系譜を受け継ぐ角田が今年のマリノスに所属していることに、何かの縁を感じます。
この先の未来にマリノスの歴史を40年・50年と振り返ったときに、角田がその偉大な先輩に肩を並べているような、そんな選手となっていることを願い、本稿の締めとさせていただきます。
2022年3月6日は、その第一歩にふさわしい、そんな日だったように思います。
それでは。
写真提供:ゆか(@yk_m23)さん
5.追記 3/11
個人的に角田のビルドアップの思考を考察し世間に発信させて頂きましたが…
昨日のヨコエク(Yokohama EX)にて、角田本人がインタビューにて答え合わせをしてくれておりましたので、追記させていただきます。
(無料公開の範囲内です)
それでは。
(3/11 追記)
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