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レースのハンケチーフの追憶

拝啓 ナタアシャさま

あれは女学校の二年目の春を迎えた頃でしたでしょうか。突然の雨のなか行きまどう人々を背に大ぶりなビロードのリボンにきつく結ったおさげを揺らせながら雨やどりしていた私と同じ屋根の下にあなたが駆けこんできたあの日。

濡れそぼった羽織りをそっとはらう手で、私のおずおずと差し出したハンケチを目を見開きながら受け取ったあなたの様はまるで咲きこぼれたスミレのようでございました。

会話の糸口を見つけられぬまま、土ぼこりをおさめていく雨のなか天を見上げてばかりの私のことを覚えておられるでしょうか。

いまだ降り止まぬ雨が少し弱まったころ、あなたはとびきりの笑顔をのこしてさっと駆け出していってしまわれました。ぬかるみのはねを気にすることもなく弾けるような足取りで。

いただいたばかりのレースのハンケチを早々に無くしてしまったことで母にたいそう小言を言われましたが、あなたが私にまた会う日までカバンの隅にでもそっとしのばせておいてくれたらと想像するだけで自然と顔がほころんでしまう始末でした。

あれからずいぶんと時間が流れてしまい、私も少し歳をとりました。明日知らない土地へと嫁いでいきます。父方の伯母の取り計らってくださった縁談でございます。

今降り出した雨にあの日の心もちをそっと思い返し少女の自分に蓋をして明日の私につなげようと思う次第でございます。

 fine


雨に少し濡れたのでなりきってみました カルエ





くすっとふふっとなれるような日記を、西から東、東から西へと毎日(ほぼ)やりとりしています  本日もぜひ少しの時間、のほほんしてってください かるえ&なたーしゃ