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ソーダ水とこんぺいとう

湿度の高い空に気泡が立ち上がる
雨が地上の空気を押し出すように降りはじめる

冷たい風を少しだけ吹き
地面に着地した気泡が空気に触れて弾け
水滴を撒き散らす

ソーダ水のようだ
駐車場へ
降り注ぐ雨を見ながらそんなことを思う

ここは桃月堂のおせんべいを作る工場
あられや金平糖、砂糖菓子で吹き寄せを
作る部署
通称「ひなの巣」

休憩室の扉が閉まる音がして振り返ると
森本さんが掲示板を眺めている

ハジメさんの提案で金米糖工場の見学へ行くことになったのだ
森本さんは、その案内を黙って見ている

うちのふきよせに入れる金平糖は、新潟県加茂市で作られているって小野さんが言っていたのを思い出す
こう、ぐるぐると回る機械の中でな、
職人が砂糖と水を熱して作る蜜を金平糖の材料になる小さな砂糖粒に少しずつかけながら長い時間をかけて作られているんだ
って、前に金平糖の入ったガラスの瓶を持って
説明してくれたのだ

小野さんは物知りで仕事熱心だなって思い出していたら
不意に、森本さんがこちらを見て
口を開いたので、驚く

いつもひなの巣で挨拶をしても返事を返さない彼が話しかけてきたので
驚いたのだ

雨脚が強くなって、窓ガラスに当たる
バチバチバチ

森本さんは自宅で蟻を飼っている事を話し始めたのだ
幅が1メートルもある観賞用の薄いガラスの飼育キッドで蟻を飼っており
複数のコロニーを形成する蟻を何時間見ていても飽きないと言う
奥行きはわずか10センチしかないんだとか、女王アリがいるんだとか

慎重に話す森本さんの口元を眺めると
お昼に何を食べたのか、ケチャップが僅かについている
オムライスだろうか

で、森本さんはその蟻に2週間かけて作られた最上級の金米糖を与えたくて
工場見学ツアーに参加しようかと思うだと説明してくれた

森本さんは話をしながら、冷蔵庫から紙パックの玄米茶を出してコップに注ぎ出す

再び、窓の外を見つめる
溶かした蜜が飴玉になり、再び蟻が分解するのか
あめ、あめ、あめ、水色のあめ

森本さんは、コップをすすぎ
休憩室を出て行く

早く晴れてコップいっぱいに弾けるサイダーが
飲みたいな

そう、心の中で祈る

#自由詩 #詩 #お話 #ポエトリーリーディング

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