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相続しようとしたら知らないままでは終わらなかった話⑥

手紙を投函してから連絡が来るのを怖いような気持ちで毎日過ごしていた。もう手紙は着いただろうか、いきなりあんな手紙が届いて不審に思ってないだろうか、そもそも読んでくれただろうか。

ところが1週間たっても何の連絡もない。自分ならすぐに連絡するけどな・・・。そう思うと今度は私のことを調べているのではないかという考えが頭をもたげる。エゴサーチをしてみたが、私と同姓同名の方は出てきても、私につながる情報は出てこない。すると、もしかしたら探偵を雇っているかもしれないと思い始め、後をつけられているかもと後ろを振り返ったり、自分のことを見ている人がいなかきょろきょろしたり。調べられて困るような生活をしているわけではないが、落ち着かない日々を過ごしていた。

手紙を投函してから2週間ほどたった頃、昼休み中に見知らぬ番号から着信があった。
「来た!」
深呼吸して電話に出る。

相手の方は私の名前を確かめた後、自分の名前を名乗り、まず手紙のお礼を言ってくれた。そして「お互い驚きましたね」と笑った。穏やかで落ち着いた声。緊張感や高圧的な感じは全くせず、むしろ親しみやすい話し方だった。

私も電話をいただいたお礼を言い、それから30分ほどは話しただろうか。自己紹介をしてくれたが自分の血縁にこんな立派な人がいるとは信じられないほどの経歴だった。でもそこに父は一切関知しなかったようで、つまり父の援助なしにご自分の努力とあちらのご家族で築き上げたものとわかった。お母様はきっとご苦労されたのだろう。だからか「(父に対して)複雑な思いはあります」そして「出来るならば遺産は相続したいと思います」と仰った。

どんな事情があったのか知らないが、父は一切の援助をしなかったのだ。離婚の慰謝料すら払っていなかったのかもしれない。父をクソだと思った。父の遺産はきっちり分割しよう。分割協議に向けて必要な物や手順を話し、今後の連絡方法など決めて、電話を切った。

お相手の方に対してすがすがしさを感じた一方で、父への思いはさらにどす黒いものになっていった。そしてその思いを確定づけることが起きたのだった。





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