【逗子創業支援カフェ】#3 自分らしく等身大で作り上げた、理想のコーヒーショップ
逗子創業支援ネットワークが主催する、「逗子創業支援カフェ」。
支援機関や金融機関がネットワークを組んで、逗子で何かをはじめたい人をサポートしています。
本連載は、「逗子創業支援カフェ」と、逗子の暮らし を心地よく編集する「アンドサタデー 珈琲と編集と」が一緒になってお届けする、様々なフィールドで活躍している方の創業ストーリー。
逗子で創業(起業)を目指す皆さまにとって、気付きやきっかけとなり、そっと背中を押すことを目的としています。
>第一回目はこちら 「日本発祥のビーチサンダルで、世界に挑んだ創業者」
>第二回目はこちら 「サラリーマンから転身、 夫婦で叶えた『AID.KITCHEN』開業の夢」
第三回目となる今回は、2017年10月に東逗子にオープンした「FATCAT COFFEE」の徳山華絵さんにお話をお伺いしました。
午前10時。山積みにされた焼き菓子の甘く香ばしい匂いに誘われ、どこからともなく人が訪れる。
お客様のほとんどが近所にお住まいの方やアメリカのベースの方で、それぞれお気に入りのドリンクをオーダーして挨拶を交わすというのが、「FATCAT COFFEE」の日常の風景。
東逗子の無くてはならない景色として、街の人たちの憩いの場所となっています。
大きな窓から朝の光が注ぐ開放的な店内で、コーヒーの美味しい香りに包まれながら、徳山さんの創業ストーリーをお伺いしました。
自家製焼き菓子と、それを引き立てるこだわりのコーヒー
ーー朝からたくさんのお菓子が並んで、甘くて香ばしい香りがします。どれも本当に美味しそう…!
ありがとうございます。スコーンやビスコッティ、ブラウニーといった焼き菓子を中心に、焼き菓子に合うコーヒーを、ドリップやエスプレッソドリンクでお出ししています。お菓子だけ買っていかれるお客様も多いです。
ーーコーヒーはどちらで焙煎されているんですか?
逗子にある「プフランツェン」さんにお願いしています。40種類くらいの豆を飲み比べて、目指している味に向けて細かく調整して作ったオリジナルブレンドなんですよ。
ーー田越橋の近くの焙煎所ですね。それにしても40種類も!
はい、クセの少ない飲みやすいコーヒーを目指していて。ニューヨークで出会った大好きなコーヒーがあって、舌が覚えているその味わいをイメージして作りました。マンデリンベースで酸味が少なく、お菓子と一緒に食べるとお互いを引き立てあうような、絶妙なバランスが特徴です。
ーーコーヒーは流行りの浅煎りではなくしっかり目。本当にお菓子とよく合います。
ニューヨークから東逗子へ
ーー焼き菓子に気を取られてしまいましたが、まずここまでの経歴を、簡単に教えてください。
19歳でニューヨークの大学に進学し、卒業後10年ほどそのままニューヨークでファッションデザイナーとして働いていました。ただ、この仕事は自分が作ったものへの反応を直接的には得にくい世界で。そんな中、趣味で作ったお菓子を配って喜ばれたり幸せそうに頬張る顔を間近で見たりするのは嬉しく、作り甲斐もありました。
ーー長いことアメリカにいらしたのですね!当時からお菓子を作られていたと。
はい。私自身、ブラウニーやスコーンなどのベイクスイーツが大好きで。自分の好きなお菓子を焼いては職場に持っていき、よく配っていました。それが結構好評で、知人からオーダーもらって作ったり、ケータリングの機会をもらうこともありました。この頃からですね、「いつかベーカリーを開きたい」と思うようになりました。
ーーそのあと東逗子に移ることになるわけですが、どのようなタイミングだったのでしょうか?
3年ほど前です。子供が産まれ、子育ての環境を考えた時に、日本に帰ることに決めました。
ーー日本に帰るとなったときに、東逗子を選んだとは驚きです。
私の実家は大分にありますが、実家に戻るつもりはありませんでした。ニューヨークに住んでいたので東京も考えましたが、ずっと都会にいても疲れてしまう(笑)次のライフステージとして、海あり山ありと田舎具合もちょうど良く、都会にもすぐに出られるこの街が気に入りました。米軍基地が近いので、のんびりしていますが外人さんもたくさん居らして、独特の空気を纏った街だと感じています。
ーーちょうど良い田舎具合という表現、とてもわかります。我々もその点が気に入って逗子に引っ越してきました。
小さくも前進し続けた、開業までの道のり
ーーそしてこの街で、カフェを始めることにしたきっかけを教えてください。
子供が幼稚園に入ったタイミングで日中に時間ができるようになり、ニューヨークにいたときのように、時間を見つけてはお菓子作りを再開しました。近所の方や幼稚園ママにプレゼントすると、ありがたいことに好評で。売ったら良いのに!と背中を押してもらい、最初は近所の珈琲屋さんにお菓子を置かせてもらえないか?と話しに行ったんです。
ーーすぐカフェ開業、ではなく、まずはお菓子の卸売を考えたわけですね。
そうなんです。いきなり大きなことを計画するのは向いていなくて、少しずつ。けれど、そのお店は喫茶店というより珈琲豆売りの専門店で、店内で飲食できるわけではないので、お菓子は難しいとなって。その時に、毎月開催している「東逗子朝市」を勧められ、そちらに出店できることになりました。
ーー東逗子駅前で、毎月第一日曜日に開催されている朝市ですね。自らアプローチしたことで、次の扉が開けたのですね!
はい!ありがたいことに、朝市で知ってファンになってくださった方もたくさんいらして。最近では、朝市が始まるとすぐにお菓子が売り切れてしまうようになりました。ただ、そんな活動を続けるうちに、やっぱりお店を持ちたい!という思いも強くなって。並行して物件を探して回りました。
ーー場所は東逗子で探していたのですか?
そうですね。幼稚園のお迎えや生活を考えると、家の近くが良いなと思って。全て自転車で移動できるぐらいの範囲がちょうど良いなと。
ーー今の物件の決め手はなんだったんですか?
最初は、今の物件のオーナーさんが所有する、別の古民家が目に留まったんです。筆で「貸します」と書いてあるような家で(笑)古民家カフェに憧れていたのもあって、ここ良いな〜と思ってコンタクトをとりました。
ーー古民家カフェは憧れますよね。
はい、でもそこは飲食店ではなくて普通に住居として使って欲しかったみたいです。そんななか、「こっちはどう?」と見せてくださったのが今の場所で。そこは、昔鉄工所として使われていたガレージでした。無骨でクールな感じがとても気に入って、「こっちの方が良いじゃない!」とすぐにお借りすることに決めました。2017年の5月ごろです。
ーーまさに運命的な出会いだったんですね。物件を見つけてまず、どう動かれたのですか?
開業にあたっての知識はゼロで、何から始めたら良いのかさっぱり分かりませんでした。幸いに東逗子には商工会があったので、何か相談できるかな〜ぐらいの気軽な気持ちでアポもなしに訪ねてみました。
ーー逗子市商工会さんを訪ねられたと。
そこでは、資金調達の方法や、創業支援の制度、ビジネスプランの作成など・・とにかく1から10まで手厚くサポートしていただいて。本当に心強かったです。そうして2017年6月に、無事に金融公庫からの融資が下り、店舗の契約を進めることができました。
ーー商工会さんを大活用されたんですね!
本当に、たくさん助けていただきました!最初は、オーナーさんにカフェのビジネスプランややりたいことを説明して伝えるのも大変だったのですが、商工会さんに相談しています、というと受け入れてもらえたり・・(笑)
ーー商工会さんは地域の方の信頼を得ていますもんね。店舗を契約してからはどう進めていったのでしょう?
7月から賃貸が始まったのでまずは設計士さんとプランや予算を詰め、
8月からいよいよ大工さんが入って工事スタート、
9月には経費を抑える意味もありDIYしながら内装を整え、
10月にカフェオープン、という段取りで進めて行きました。
理想のイメージはニューヨークの原体験
ーー内装のイメージはありましたか?
倉庫や工場、古いレンガ作りのアパートなんかが立ち並ぶ、ブルックリンの街が大好きで。色数も少なく、無骨でかっこいい雰囲気。ニューヨークのブルックリンに住んでいた時、実は廃工場のロフトに住んでいたんです。そんな原体験もあって、ブルックリンのイメージで仕上げたい!という思いがありました。
ーー行ったことはないのですが、「ブルックリン」の雰囲気がわかる気がします。
元々デザインの仕事をしていたのもあって、設計士さんとも結構細かくイメージをやりとりしました。ピンタレストやインスタグラムで調べた画像をとにかくたくさん集めて送ったりして。設計士さんはやりにくかったんじゃないかなぁ(笑)
ーー結構内装費用も掛かったのでは・・?
知人にお願いできたというのもありますが、作り込まずにあえてラフに仕上げた部分もあるので、思ったほどはかかりませんでした。
例えば床は、オーナーさんが張り替えてくれると言ってくださったのですが、鉄工所当時のひび割れたコンクリートのままの方がかっこいいと思って残しています。外観の錆びついた鉄の屋根や窓枠もあえて残し、新しく取り付けた引き戸にはあえて古い加工を施して、古びた雰囲気に寄せました。壁はラフで良いから自分でやりたいと、DIYにさせてもらい費用を抑えました。
ーー新品には出せない味わいがあってかっこいいですね。
家具にも古材を使ったり、色はあまり使わずモノトーンで仕上げたり。古ぼけたぼろっちい感じを意識しました。
ーー大工さんにお願いしてよかった、と思う部分はありますか?
カウンター回りですね。レジだったり、お菓子のディスプレイだったり、エスプレッソマシンだったり。お店の中心となる部分なので、ここは費用を割いてしっかり作っていただきました。作るところを作ってもらって、あとはラフに。緩急つけたのがよかったですね。
理想のコーヒーショップを目指して
ーーオープンされて2年ちょっと経ちましたが、いかがですか?
幼稚園のお迎えがある16時にはお店を閉めてしまったり、子供の行事がある時はそちらを優先したりとだいぶわがままな営業ですが、お客様が理解くださり、それもすっかり定着してきました。「FATCAT COFFEE」はほぼ私一人で切り盛りしているので、無理をすると続かなくなってしまう。背伸びしすぎない等身大のスタイルでこれからも続けていけたらと思っています。
ーー徳山さんご自身の暮らしも大切にしながら、ですね。お店を続けるうえで意識されていることはありますか?
お客様と挨拶は交わすけれど、必要以上に干渉せず、フロアではそれぞれの時間を楽しんでいただきたい。そう思って、お客様各々の時間を過ごしていただけるように、あえて適度な距離感を保つことにしています。最初と今とでは、徐々に私自身の接客スタイルも変えてきました。
ーーお店に立ちながら、試行錯誤を続けられているのですね。
はい、ニューヨークで好きだった、私にとってのコーヒーショップの形に徐々に近づいていると思います。喫茶店のようにゆっくり長い時間くつろいでもらうよりは、暮らしの中でふらっと来てお菓子を食べたり、コーヒーを持ち帰ったり、気軽に使って欲しい。生活の一部に”軽く”なれるコーヒーショップでありたいと思っています。
ーーこれからの展望があれば教えてください。
やっぱりお菓子づくりが大好きで、ゆくゆくはベーカリーとしての夢も実現したいなって。そのためのお菓子づくりでもあるんです。「FATCAT COFFEE」のスタイルも、そんなありたい姿へ向けて試行錯誤しながら、徐々に形を変えていきたいと思っています。
ーー徳山さんのベーカリー、毎日でも通いたいです!貴重なお話しをありがとうございました。
FATCAT COFFEE(ファットキャットコーヒー)
住所 〒249-0006
神奈川県逗子市沼間1-2-13
電話番号 046-890-3812
営業時間 10:00〜16:00(週末は18:00まで/水曜定休)
https://fatcatcoffee-zushi.owst.jp/
編集後記
色数が少なくクールな佇まいで、光が抜ける空間。シンプルで飾らない、凛とした徳山さんの人柄がそのまま現れたようなお店。お話を伺って、自分のスタイルを、内装デザインやコーヒー・お菓子づくり、接客において一貫して表現をし続けられているのだと感じました。
自分らしく、無理なく、のスタイルでここまで来たと徳山さんは仰るものの、知らない土地に移り住んですぐのイベント出店、飛び込みでの店舗探しや商工会への相談、商品や空間にとどまらずお店の在り方を問い続けるその行動力や根気は、並大抵ではないように思います。
開業する前も、もちろん開業してからも、迷ったり不安になったりすることはたくさんあるかと思いますが、それでも自分自身の感覚を大事にし、今出来るベストで試行錯誤し続け行動し続けていくことの大切さを、ひしと感じた取材でした。
徳山さん、お忙しいところお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました!
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徳山さんも活用された創業支援事業など、創業に関する情報についてはこちらに掲載されています。まだ創業を決めていない人たちにとっても、知っておくことで将来にきっと活きる知識が満載です。ぜひ一度ご覧いただければと思います。
『逗子創業支援カフェ ホームページ』
https://www.shokonet.or.jp/zushi/
『逗子創業支援カフェ Facebookページ』
https://www.facebook.com/zushisougyoucafe/
また、逗子市と商工会とで進めている逗子市シティプロモーションサイト「逗子暮らし」でも、逗子で起業し、逗子で働く方々の創業ストーリーを掲載しています。よろしければ、こちらの記事もぜひご覧ください。
逗子市シティプロモーションサイト「逗子暮らし」より
『逗子で働く』
https://www.city.zushi.kanagawa.jp/citypromotion/work/
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コーディネーター:逗子市商工会 栗原大輔
取材・文・イラスト・写真:アンドサタデー 珈琲と編集と
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