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【逗子創業支援カフェ】#2 サラリーマンから転身、 夫婦で叶えた「AID.KITCHEN(エイド・キッチン)」開業の夢

逗子創業支援ネットワークが主催する、「逗子創業支援カフェ」。

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支援機関や金融機関がネットワークを組んで、逗子で何かをはじめたい人をサポートしています。


本連載は、「逗子創業支援カフェ」と、逗子の暮らしを心地よく編集する「アンドサタデー 珈琲と編集と」が一緒になってお届けする、様々なフィールドで活躍している方の創業ストーリー。
逗子で創業(起業)を目指す皆さまにとって、気付きやきっかけとなり、そっと背中を押すことを目的としています。

>第一回目はこちら 「日本発祥のビーチサンダルで、世界に挑んだ創業者」


第二回目となる今回は、2017年10月に逗子にオープンした「AID.KITCHEN(エイド・キッチン)」の郡山総平さん、南さんご夫妻にお話をお伺いしました。

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午前10時半過ぎ。昼時前のお忙しい時間にもかかわらず、取材と撮影を快諾くださったおふたり。

「ちょうど今日の惣菜が並び切る時間帯なので。1日のうちで一番華やかなショーケースをお見せしたくて。」

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笑顔でお茶を出してくださった南さん。仕込み中の総平さんも厨房から出てきてくださり、挨拶を交わします。

開放的で大きな窓から朝の光が注ぐ店内で、美味しい香りに包まれながら、郡山ご夫妻の創業ストーリーをお伺いしました。

栄養バランスと食材に徹底してこだわった惣菜たち

ーー惣菜が美味しそう過ぎて目移りしてしまってます、どんなランチを出されているんですか?

総平さん:「3 Deli Plate」というお惣菜を3種類選べる人気のプレートと、「Soup Deli Set」という週替わりの手作りスープにお惣菜1品が加わった軽めのプレート、それに特製グリーンカレー(季節限定商品)をご用意しています。
南さん:ランチは、お弁当にしてお持ち帰りもいただけますよ。

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ーーその日の気分でいろいろ選べるのが嬉しいですね。メニューはどのように決められているんですか?

総平さん:肉、魚、卵など低糖質高たんぱく質のお惣菜と、旬や地の野菜が中心のお惣菜。とにかく栄養バランスを意識して作っています。
南さん:お客様が選べる楽しみがあるように、安心して選べる定番のメニューと、季節で変わる旬のメニューの両方を、常にご用意しているんです。

ーー野菜だけじゃなく肉や魚もしっかり食べられるのが嬉しいです。食材へのこだわりはありますか?

総平さん:まず、野菜ですね。三浦の農家さんの野菜を使っています。畑にも行かせてもらって、彼らがどういう思いで、何を作っているのか、この目でちゃんと見て確かめるようにしています。
南さん:やっぱり、生産者さんの顔がわかる野菜っていいですよ。その方が自分たちも自信を持ってお客様に伝えられるし。

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総平さん:あとはお米。同じ逗子市内の「ちんや商店」さんからお米を仕入れています。うちはお弁当もあるので、冷めても美味しいお米、ということが条件で。ちんや商店さんが一緒に選んでくれて、「新潟の、ここのミルキークイーンがいい!」という結論になりました。

ーー我が家もちんや商店さんのお米を使っています!美味しいですよね。

南さん:うちはその玄米を使っているんですけど、すごく美味しい!と好評で。うちで食べて気に入って、ちんや商店さんにお米を買いに行かれる方もいらっしゃるんですよ。ちょっとした地域経済の流れが生まれているのも嬉しいですね。

開業時期は決めずに準備し、理想の物件を待ち続けた

ーー俄然お腹が減ってきたところで、まずはおふたりの出会いを教えてください。

南さん:出会いか…葉山にある、BEACHというフィットネスクラブでしたね。大人になってからアウトドアスポーツを始めたんですが、ふたりともトレイルランニングやサーフィンが大好きで。しっかりトレーニングもして、レースにも出たり。
総平さん:平日都内でハードな会社員生活を送っていた私たちにとって、海や山など自然をフィールドに体を動かすアウトドアスポーツはとても魅力的だったんです。

ーーそうか、おふたりとも元々は会社員だったのですね!

南さん:はい。朝から晩まで働いて、食生活も荒れて、それはもうハードな生活をしていました(笑)。当時は都内に住んでいたのですが、週末に逗子・葉山へ行くことはひとつの癒しでしたね。

ーー飲食店をやろうというのはどちらから?

南さん:総平だよね。
総平さん:そうですね。もともと料理は好きだったんですが、アウトドアスポーツに打ち込むうちに、食事が与える体への影響など、より食のことが気になり始めて。反対されるかな〜と思いながらも、思い切って南に言ったんです。「飲食やりたいんだよね」って。そしたら…。
南さん:「いいじゃん、やりなよ!」って。まだ結婚前、5年ぐらい前のことです。

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ーーなんて素敵な…。すんなりと方向性が定まったと。

総平:そうですね、予想外の反応が返ってきて驚きました(笑)。思いっきり背中を押された感じで。
南:まさか自分が飲食業に携わるなるなんて微塵も考えてなかったですけど(笑)、やりたいことがあるっていいなぁと素直に思ったんです。羨ましいなぁって。

ーーそれからおふたりはどんな行動を?

総平さん:ひとまず会社を辞めて、修行という意味で、掛け持ちでいくつか飲食店のアルバイトを始めました
南さん:私はその後もしばらく会社員生活を続けていて。当時勤めていた広告代理店は、夜も遅く、とてもハードな仕事。同僚が病気になったこともきっかけとなって、暮らしとは?食事とは?大事にすべきことってなんだろう...と立ち止まって考えるタイミングも訪れました。

ーー総平さんは飲食の修行、南さんは会社員。その間はどんな準備を進めていたんですか?

総平さん:料理の腕を上げ、知識を増やすのみと思い、飲食店の掛け持ちの他に「アスリートフードマイスター」というスポーツと食の資格をとりました。あとは、ありとあらゆるレシピ本を読みましたね。300〜400冊読んだ本のレシピは全てデータ化して、すぐ引き出せるようにストックしています。
南さん:私は料理ができないので(笑)、料理の部分は彼に任せて、料理以外の部分を頑張ろうと思いました。

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ーー料理以外の部分とは?

南さん:創業支援のセミナーに行ったり、事業計画書をどうやって書くか勉強会で学んだりと、ゼロから起業準備やネットワークづくりを進めていきました。それで下地が出来たのがとても大きかったです。その上で、最後にはやはり店舗面積や立地など具体的な物件が見えてこないと、事業計画書も細部まで詰められない

ーー事業のイメージも、実店舗があってこそ、の部分はありますよね。実際に総平さんが会社員を辞めてから開業されるまで、どのくらいの準備期間だったんですか?

総平さん:3年ぐらいかなぁ。
南さん:でも別に、最初から3年で開業する!と決めていたわけじゃないんです(笑)。

ーーえ、違うんですか(笑)。では開業のタイミングはどうやって?

総平さん:たまたま物件が見つかったタイミングです!
南さん:●年後にやりたい!と思っていても、なかなか物件が出て来なくて。常に物件情報をチェックしながらも、いつ現れるかわからないので、ゴールが見えない。その間目標を見失わずにいるのがすごく大変でした。本当に開業できるのかな?なんて弱気になった時もありました

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ーーテナント探しは宝探しのようだとも言われますしね。ちなみにどんな条件で探していたんですか?

総平さん:「池田通り」「1階の路面店舗」「居抜き」という条件でした。ただあまりに出てこないので(笑)、居抜きは諦める?と話していたところ...。

ーー今のお店となる物件が現れたと。

総平さん:エリアもまさに自分たちがやりたかった池田通り商店街で!
南さん:100%満足というわけではなかったんですが、まず場を持たないと始まらないよねと話して、すぐに借りることを決めました。
総平さん:今思えば、物件が決まったことが、夢を具現化するすべてのタイミングでしたね。

2人の原点を辿って見つけた、ネーミングとコンセプト

ーーお店のネーミングやコンセプトは、どのようにして生まれたんですか?
  
総平さん:当初、定食屋のおやじもいいかも?なんて思っていたけれど、南と話しているうちに、自分たちの原点に立ち戻って行ったんです。

ーーおふたりの原点というと?

総平さん:やはり「アウトドアスポーツ」ですね。トレイルランニングやサーフィンを始めてから、普段の生活でも、身体にいいものや栄養バランスなど、食べるものを気にかけるようになりましたし。
南さん:スポーツの後にハンバーグとビール!でもいいけれど、栄養バランスの取れた食事ができる、そういうお店があるといいよねって。
総平さん:南が言ってくれたイメージは自分も持っていたので、その方向で行こうと。

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ーーまさに、今の「AID.KITCHEN(エイド・キッチン)」ですね。

総平さん:これ言うと驚かれるんですけど...一番初めに決まったのがこのネーミングとコンセプトなんです。どういった業態でどう表現するかは、最初はまったく考えていなかった(笑)

ーー業態より先にネーミングが決まるのは、確かに珍しい。

総平さん:レースの途中に置かれている、「エイド・ステーション」ってご存知ですか?

ーー水分とかバナナとかが置かれている、あれですか??

南さん:そうです!マラソンやトレイルランニングの補給所であり、選手をサポートする場所です。
総平さん:トレイルランニングのレースに出た時、選手である我々にとってエイド・ステーションはひとつの励みでした。ランニングって実は孤独なスポーツで。自分と向き合ってひたすら走るわけです。そんな時に、エイド・ステーションの方から「頑張って!」なんて言葉をかけてもらえるだけで、すごく力になるんですよ。
南さん:スポーツをする人だけをサポートするのではなく、食で様々な人をサポートしたい。そんな思いから、「AID.KITCHEN(エイド・キッチン)」と名付けることにしました。

お客さんの反応を見ながら、細かなところをチューニング

ーー最初にネーミングとコンセプトが決まったとのことでしたが、業態や商品、メニューはどのようにして決めたんですか?

南さん:和風の割烹、居酒屋、レストランなど...様々な業態の可能性を考えました。ネーミングとコンセプトを実際に形にするのは本当に難しかった。
総平さん:DEAN&DELUCAというお店で働いていたときに、お惣菜って面白いなぁと思ったのが、大きなきっかけになりましたね。

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ーーお惣菜にはどのような面白さが?

総平さん:例えば飲食店だと、いくら気に入ったお店やメニューでも、毎日行くというのはあんまりないじゃないですか。それが、お惣菜というスタイルだと、昨日これ美味しかったから今日はこれにしよう、と毎日でも買いに来るお客さんがいる。目から鱗でした。

ーー確かに。お惣菜屋さんって種類があるから、選ぶのも楽しいんですよね。

総平さん:他にも理由があって。当時、逗子市の生活改善委員にボランティアとして所属していました。高齢者の料理教室で料理を教えたり、食生活のヒアリングをしたり。高齢者の方って、単身だったり、夫婦ふたりで生活されていたりするじゃないですか。外食もあまり多くないけれど、種類を作るのも面倒で、1品は作ってあとはお惣菜を合わせたりするんですよ。

ーーなるほど。ここでお惣菜の可能性を再認識したわけですね。

総平さん:だけど、スーパーのお惣菜って揚げ物が多くて。気の利いたサラダやおかずが少なくて、野菜も取りづらい。
南さん:高齢者の方にも1品から気軽に買っていただけるお惣菜というスタイルで、かつ栄養バランスを考えた野菜のたくさん取れるメニュー、というのは需要があるのでは?と考えました。

ーー実際にやってみてどうでしたか?

総平さん:想定していた高齢者のお客様ももちろん来てくださっているのですが、想定していなかった層にも喜んでいただけていて!

ーー想定していなかった層、とは?

南さん:子育て世代、ですね。うちは、フラットかつ比較的余裕ある客席レイアウトになっていて、ベビーカーも入りやすいみたいです。また、赤ちゃんと一緒に居て周りが気になるという方、お家でゆっくり食べたいという方が、お惣菜やお弁当をテイクアウトしてくださっています。
総平さん:自分の食事を毎食作るのも大変だし、コンビニ弁当やレトルトばかりでは栄養が偏るでしょ。思わぬところにテイクアウトの需要があったなぁと感じています。

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ーーなるほど。栄養バランスのとれた食事はママにも嬉しいし、ママに限らず家でゆっくり食べたい、という需要はありそうですね。

総平さん:集まりの場でみんなで同じ食事を食べたい、とか工事現場の大工さんが休憩中に食べたい、とか。
南さん:事前に予約を入れてくださる方も増えました。逗子・葉山には様々な食の嗜好を持ったかたがいらっしゃるので、なるべくご希望に添えるようにしています。

ーーオープンされて約2年、これがヒットした!という手ごたえやポイントはありましたか?

南さん:それが、正直まったくわからなくて(笑)
総平さん:12月の寒い日に、美味しい鰤が手に入ったので鰤大根を用意したら、これがまぁ出ない(笑)。お客様に聞くと、「鰤大根なら家で作れるのよ!」って。

ーー外食するなら普段食べないものをという心理、わかる気がします(笑)。

南さん:いままでに250種類以上ものお惣菜を出して来ましたが、最近感じるのが、家では作らないような手間暇かかったものや、少し非日常的なもの。例えば、綺麗な地野菜や、普段使わないような調味料での味付けなどが、喜ばれているんじゃないかなぁと思います。
総平さん:でも常に試行錯誤ですね。そもそも、ポイントなんかがわかったらビルでも建ってますよ(笑)。

ーーたしかに(笑)。いろいろな種類でお客様の反応を見られるのも、お惣菜の面白いところなのかもしれませんね。

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コンセプトに沿ったイベントで個性を表現、街に必要な場所へ

ーー最後に伺いたかったことが…。AID.KITCHENさんと言えば、よくイベントをやられているのを目にしています。いつからどんな意図でやられているんですか?

南さん:オープンして、年明けの4月あたりからかな。自分が食べるものを自分で作る、というのは大事なことだなぁと思って、最初は味噌作りのイベントをしたんですよ。

ーーやってみてどうでしたか?

南さん:みんなでわいわい楽しみながら味噌を作って、とても好評でした。楽しみながらも、自分たちのお店の想いも伝えられる”イベント”というスタイルが、うちのお店には必要だなぁと感じました。

ーーイベントを通してブランディングやPRをしていると。

総平さん:メニューのこだわりや、お野菜のことなんかを伝えたい。けど、「これはお豆腐でドレッシングを作っていて・・これが体に良くて・・・」なんて、説明臭くなってしまってはいけないなと。

ーー接客しながら、あれもこれも伝えるというのは難しいですよね。

総平さん:それが、イベントをやることでわかりやすく自然な形で伝えることができたんです。
南さん:"食”と"スポーツ”を大きな2つの柱として、イベントという形で体験してもらうことで、AID.KITCHEN(エイド・キッチン)ってこういうお店なんだよ、と知ってもらうことができる。今では、定休日を使って月1,2でイベントを実施しています。

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ーー人気なイベントはありますか?

総平さん:定期開催している、トレイルランニングのイベントかな。逗子の自然の中を気持ちよく走って、うちで体に優しいバランスの取れたご飯を食べて、ラン仲間もできて、満足して帰ってもらう。

ーーまさに、"食”と"スポーツ”が掛け合わされたイベントですね!ランニングウェアのまま、気持ちよさそうに食事とビールを楽しまれているみなさん、よくお見かけします(笑)

総平さん:そうそう。うちにはクラフトビールのドラフトもあるので、運動後の1杯を楽しみにされている方も多いんです(笑)
南さん:私たちが拠点を逗子に決めた理由に、素晴らしい自然というのがあって。トレイルランニングを通して、逗子っていいなぁと思って帰ってもらいたい。食べて喋って、今日は楽しかったなぁと思って帰ってもらいたい。このイベントは、私たちにとっても毎回充実感のあるイベントなんです。

ーー街の個性とお店の個性が噛み合っているコンセプトを、イベントを通して表現しながら逗子でも唯一無二の存在になりました。

総平さん:あまり実感はないし、数年後どうなっているかもまだわからないですけどね。
南さん:そうだよね、でも自分たちの個性が明確だから"食”と"スポーツ”の軸をしっかり持って、自分たちの健康にも気をつけて表現を続けていきたいです。

ーー貴重なお話ありがとうございました!そしてお腹ペコペコです、「3 Deli Plate」を2つ、持ち帰りでお願いします。

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AID.KITCHEN(エイド・キッチン)
住所   〒249-0006
     神奈川県逗子市逗子市逗子1-8-15 田村ビル1F
電話番号 046-815-0340
営業時間 11:00〜19:00(日曜定休)
https://www.facebook.com/AID.KITCHEN.ZUSHI/

編集後記

この取材が終わる頃には、店内はランチのお客様でいっぱい。オープンされてから約2年。今では本当に、逗子に暮らす人や訪れる人のお腹と心を満たす、エイド・ステーションのような存在になっています。
開業は思わぬタイミングとのことでしたが、総平さんと南さんは、自分たちのお店開業というゴールへ向けてしっかりと準備を進められてきたからこそ、降り立ったチャンスをしっかりものにできたのだと思いました。

数年後の未来を明確に描けない、だから今は動かない。そうして夢へのチャンスを逃すのではなくて、今できることを考えて、どんな形に結実するかわからなくても今動いて積み上げていく。それを繰り返しているといつかやってくる「ご縁」のタイミングに、それまでの積み重ねが活きてくる。
自分たちの核となるゴールや思いをぶらさずに試行錯誤を続けることの大切さを、ひしひしと感じた取材でした。
総平さん、南さん。本当にお忙しいところお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました!

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総平さんも創業時に利用されたというセミナーなど、創業支援に関する情報についてはこちらに掲載されています。まだ創業を決めていない人たちにとっても、知っておくことで将来にきっと活きる知識が満載です。ぜひ一度ご覧いただければと思います。

『逗子創業支援カフェ ホームページ』
https://www.shokonet.or.jp/zushi/

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https://www.facebook.com/zushisougyoucafe/

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コーディネーター:逗子市商工会 栗原大輔
取材・文・イラスト・写真:アンドサタデー 珈琲と編集と

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