見出し画像

【逗子・葉山 海街珈琲祭vol.5】「Minamicho Terrace」は暮らしの中で、人生の中で、少しだけ立ち止まる時間をつくる

せっかく逗子に来たのなら、ぜひ訪れて欲しいエリアがある。それが、この街の中でも一際ノスタルジックな空気を持った「小坪」という漁師町。この漁港を高台から見渡す場所にあるのが、ここにしかない眺めと風が通り抜ける空間を持つ「Minamicho Terrace」。まさにこの場所が、逗子の「特等席」。 遠方からもはるばる訪れる人もいるほど、特別な存在感を持ったコーヒー店である。

みんなが誰にも本当は教えたくないけれど、どうしても教えたくなってしまう場所。暮らしの中で、人生の中で、この場所に立ち寄り、この場所で過ごす時間の中で少しだけ立ち止まり、そしてまた前へと進んでいく。オーナーの日髙さんはいつでも、穏やかで控えめに、ここに辿り着く人たちを迎え入れてくれる。

スクリーンショット 2019-11-14 10.46.30

「成り行き」という表現に透けて見える、お店づくりへの飽くなきこだわり。

「このエリアは静かで。流れている風も他とは違っていて、街に日があたって色が変わっていく景色も好きなんです」

日髙さんは穏やかに言葉を紡ぎながら、裏手の庭で採れたてのハーブを使ったハーブティーを淹れてくれる。そのお人柄と佇まい、そして窓から見える風景に思わずうっとりと時間を忘れてくつろいでしまう。人と空間、そして立地、それらがきちんと美しく一本の線でつながっている、そんな印象と憧れを受ける。

画像11


「この場所をつくろうと思ったのも全部成り行きなんです」

20代の頃からゆくゆくはカフェをやりたいと思っていた。2010年に、この小坪の古屋と出合ったことで、その想いが加速していく。建築家のご主人とともに、路地をつくってテラスをつくった。最初は住宅だけの機能だったこの場所をカフェとしてつくりあげたのは、「カフェやったらいいじゃん」という周囲の人たちの後押しだったという。

画像9


「だから全部本当に成り行きで。お店の名前も、お客さんが自然に「南町テラス行こうよ」と呼ぶようになったからなんです」

かつてこの場所は南町と呼ばれていた。そこに出来たテラスだから、「Minamicho Terrace」。自然の流れで自分のお店の名前を決めてしまうほど、良い意味で日髙さんはこだわらない。自分の場であるとともに、街にとって、来てくれるみんなにとっての場なのだ、という意識を強く持っている。

画像5


「家を街に開く感覚で、街と良い関係の生まれる場でありたいと思ってます。週末だけの営業ですけど、誰かの居場所になれたら嬉しいなって思います」

そんな「Minamicho Terrace」は、2012年のオープンから間もなく、その美しい設計とロケーション、美味しいコーヒーやお菓子が話題となり、瞬く間に話題のコーヒー店へとなっていった。特に宣伝もしなかったのに、ここにしかない体験を持つコーヒー店にはメディアの注目も集まり、開店前に行列が出来てしまうこともあったという。

画像9

自分のお店は、お客さんにとって、街にとって、どんな存在でいるべきだろう。

「嬉しい反面その時に思ったのが、静かにやりたかった自分の想いや、この静かな時間のために来てくれるお客さんに対して、これは違うんじゃないかなって」

ちょうど良い人数がちょうど良い時間過ごせる場所を目指して。後ろに待っている人がいると、ゆっくりくつろげないじゃないですかと日高さんは困った顔ような顔をする。そこから「お客さんを減らす努力」をして、露出をせず極力静かに「Minamicho Terrace」を守り続けてきた。

「丹沢から朝一番に来てくださる常連さんがいらっしゃって。その方が、「この場所があるから楽しく生きていられる」とおっしゃっていただけるんです」

そう話す日髙さんの表情はとても嬉しそうで。目の前の一人のお客さんに、丁寧に向き合い大切に。常連のみんなが触れたいのは、この空間はもちろんだけれど、きっと日高さんそのものなのだろう。

画像2


「なにせ週末だけの営業なので、コーヒーもお菓子もなかなか少ない量では卸していただけなくて。なので自分でやらないとって」

そう言って自分でやりきってしまうところが、日髙さんの凄いところだと思う。お菓子はもちろん、コーヒーも自家焙煎でつくり、たくさんの人の暮らしの中で、大切に愛され続ける。

コーヒーはオーガニックにこだわり、焙煎した豆を専用の容器に入れて保管し、一番美味しく飲み頃と感じたタイミングで提供している。他ではなかなか飲むことができない、特別なコーヒーへの想いとこだわり。
さらっとして飲みやすいコーヒーは、その奥に豆が持っている力強さも感じられ、この風が流れる空間で飲むのに一番美味しいコーヒーだ。もちろんお菓子も素材からこだわり、地元や市外にも多くのファンがいる。海街珈琲祭にも自家製のお菓子をお持ちいただけるそう。すぐ売り切れてしまうと思うので、どうぞお早めに。

画像1

「Minamicho Terrace」らしい、ちょっと特別なエピソード。

それにしても、本当に成り行きだけでここまで多くの人に愛される場がつくれるものなのだろうか。

日髙さんが心に残るお話を聞かせてくれた。鹿児島県の集落で取れる「ダイダイ」をつかった手づくりのマーマレードジャムが、イギリスのマーマレードジャムの世界大会、職人部門で金賞を受賞したという。ご主人が仕事の際に立ち寄ったご縁で持ち帰ってきた「ダイダイ」を、ここまでのものに仕上げてしまう職人気質。

画像8


本場の権威ある賞を、小坪の丘の上のコーヒー店オーナーが受賞するという快挙。当然成り行きで獲れる賞ではない。表には決して出さないが、つくることに対して誰よりもストイックで、日々研究と実践を重ねている。「Minamicho Terrace」でも週末の営業のために、平日から休みなく準備をするプロフェッショナルとしての姿勢があるからこそ、この場所が唯一無二の存在になっているのだ。

画像7


「ジャム屋さん、コーヒー屋さん。皆さんの中にそれぞれの「Minamicho Terrace」があれば、それが一番幸せです」
自分で自分のお店の形を決めない。街やお客さんのために出来ることを考え、やりきる。その柔らかさと強さを持っている。この週末も、誰かが自分のタイミングでこの場所にやってきて、人生を整える時間をきっと過ごしていく。

つくり手として学ぶべきものを、たくさん持っている日高さんの、コーヒーとお菓子。ぜひ海街珈琲祭で楽しんでほしい。

そしていつか一度は、この高台で過ごす週末のゆるやかな時間を、体験してほしい。

画像10

Minamicho Terrace
住所:〒249-0008 神奈川県逗子市小坪4丁目12−15 南町テラス
営業時間:週末営業
席数が少ない為1~2名様でのご来店をお勧めしています。
4名様以上(お子様含)でのご来店は事前にご相談いただけると助かります。
―ご予約について―
只今、ご予約はお受けせずに営業しており、ご来店いただいた順番にお好きな席にお座りいただいております。
>Facebookページはこちら

Minamicho Terraceの絵も描いていただいた、林靖博(Rainy)さんのイラスト展示ブースもお楽しみに!

今回の海街珈琲祭では、台湾人アーティストの林靖博(Rainy)とのコラボ企画で、出店全店舗のイラストを描いていただいています。
11月16日には原画の展示もありますので、ぜひお楽しみしていただけますと幸いです!

南町テラス

取材 / 写真 / 文 : 庄司賢吾・真帆(アンドサタデー 珈琲と編集と)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?