2021年6月18日(金) 西野弘一(にしの こういち)氏(元衆議院議員。東大阪市)のツイートにより、民族学級のあり方について問題提起がなされた。
このツイートに関して、私が東大阪市役所あてに出した質問及び回答は、次のページに記載しました。
上記ツイート等の後、次のツイートもありました。
下記の記事では、民族学級とは何かについて、ネットに流布する、大阪府に関する情報を基に見ていきます。
1.定義
民族学級:朝鮮人を対象に朝鮮語その他を習得させることを目的として日本の公立学校に設置されたもの。通常、朝鮮人講師が担当する。
(資料出所)滋賀県立大学人間文化学部 河ゼミ 2005年5月10日 ゼミ発表レジュメより
2.実施の模様
(1)守口市立 樟風(しょうふう)中学校(大阪府)
(2)泉大津市立 戎(えびす)小学校(大阪府)
【民族学級】 2021-06-11 17:36 up!
3.制度と運用
●国では、
・異文化を尊重する態度
・異なる習慣・文化を持った人々と共に生きていく態度
を育成すると定めている。
民族学級という文言は無い。
●大阪府では、国の方針を拡張させ、民族学級の設置を認め支援することになっている。そこでは、韓国・朝鮮人として「自らの誇りと自覚が高められるよう」支援に努める必要がある、としている。
●東大阪市では、民族学級という用語を制度上使ってはいない。その代わり、「母国語学級」という用語を使って、同じような内容の教育を施している。
●在日韓国・朝鮮人の立場では、民族学級は韓国・朝鮮人のアイデンティティの確立をめざしている。名前や、家族がどのように日本へ渡ってきたかなどの問題について、同じルーツを持つ児童たちが一緒に向き合うことになっている。
以下、詳細に見ていきます。
4.国における根拠
国では、人権教育・啓発に関する基本計画(取りまとめは法務省)を根拠にしています。
平成14(2002)年3月15日閣議決定(策定)
平成23(2011)年4月1日閣議決定(変更)
(7) 外国人 31ページ
5.大阪府
大阪府での担当は、大阪府 府民文化部 人権局 人権企画課 企画グループ です。
2021年6月、私(この記事の著者)が、府の担当あてに電話で問い合わせたところ、
「人権教育・啓発に関する基本計画」(上記の国の計画)
「大阪府在日外国人施策に関する指針」(総合的な観点から)
「人権教育基本方針・人権教育推進プラン」(教育の観点から)
が民族学級の根拠であると教えて頂きました。
(1)大阪府在日外国人施策に関する指針(2023年3月)
令和5年(2023年)3月改訂版
第1 指針改正の背景
2 大阪で暮らす在日外国人の状況
(2) 国籍・地域別の状況
第3 在日外国人施策の基本的方向
6 国際理解教育・在日外国人教育の充実
在日外国人教育の充実
(注21)昭和63(1988)年策定、平成10(1998)年一部改正
平成11年(1999年)3月策定
平成30年(2018年)3月改訂
「人権教育基本方針」では、人権教育を総合的に推進するための基本的な考え方を示した。この記事では省略する。
「人権教育推進プラン」では、人権教育について、「人権及び人権問題を理解する教育」「教育を受ける権利の保障」「人権が尊重された教育」の3側面から基本方向を示し、学校教育、社会教育での具体的施策の推進方向を示した。次は、「人権教育推進プラン」の抜粋である。
1.基本的推進方向
(1)人権問題の状況 2ページ
(3)基本方向
イ.教育を受ける権利の保障 6ページ
本指針は、当初、平成14年(2002年)12月に策定されました。
最新版は、令和5年(2023年)3月の改正版です。
この改正にあたり、議論がありましたので、当初(2002年12月策定)の指針も見ておきます。
平成14(2002)年3月、大阪府在日外国人問題有識者会議から、在日外国人に対する施策を総合的に推進していくための「大阪府における在日外国人施策に関する指針について」の提言がなされました。
大阪府では、この提言を踏まえ、「大阪府在日外国人施策に関する指針」を策定しました。次は、2002年12月版の抜粋です。
第1 大阪府における在日外国人の状況
1 外国人登録者数
2 在日外国人の人権をめぐる国内外の動向
(2)府における動き
3 在日外国人施策に関する取組みと課題
(4)教育にかかわる分野
第3 基本方向と推進方策
4 国際理解教育・在日外国人教育の充実
(3)在日外国人教育の充実
(4)大阪府議会(2021年9月)
2023年3月版への指針の改訂をめぐり、パブコメにおいて議論の発端になったのが、次の、西野弘一議員による府議会での質疑です。西野議員は2002年12月版の指針に対して言及しています。
大阪府 令和3年(2021年)9月定例会本会議(2) 12月03日(金)-11号
(5)指針の改正作業(2022年11月~2023年3月)
大阪府在日外国人施策有識者会議では、令和4年(2022年)11月21日第48回会議以後、指針の改正について、下記のとおり、議論がありました。
2022年11月21日に未定稿版指針(案)が示されたものの、その後、修正されました。通常では、このような修正はあり得ないため、注目に値すると思われます。
ア.令和4年(2022年)11月21日
令和4年(2022年)11月21日第48回有識者会議に提出された、未定稿版の指針(改正案)では、「歴史的経緯を有する韓国・朝鮮の方々」に関する記述は次のとおりでした。
未定稿版 大阪府在日外国人施策に関する指針(改正案)(2022年11月21日配付資料)
第1 指針改正の背景
2 大阪で暮らす在日外国人の状況
(2) 国籍・地域別の状況 8ページ
この記述に対して、会議の場で、有識者から、次の発言がありました。
イ.パブリックコメント(2022年12月から2023年1月)
2022年11月に公開された未定稿版指針改正案に対する、府民からのパブコメ意見は、2023年3月31日に公表され、194 者(団体を含む)から207件(うち意見の公表を望まないもの35件)の投稿がありました。
分量が多いため、次の記事に書きました。
ウ.令和5年(2023年)3月17日
令和5年(2023年)3月17日第49回有識者会議に提出された、指針(改正案)では、「歴史的経緯を有する韓国・朝鮮の方々」に関する記述は次のとおりに修正されました。
大阪府在日外国人施策に関する指針(改正案)(2023年3月17日配付資料)
第1 指針改正の背景
2 大阪で暮らす在日外国人の状況
(2)国籍・地域別の状況 8-9ページ
(6)府議会議員選挙(2023年4月)
令和5年(2023年)4月9日執行 大阪府議会議員選挙結果
東大阪市地区で、西野弘一氏(大阪維新の会)がトップで当選しました。内海公仁氏(日本共産党)は落選しました。
選挙期間中の、西野氏の選挙の広報誌は次のとおりです。
6.東大阪市
(1)基本方針
東大阪市には、「東大阪市人権学習プログラム」(平成18(2006)年3月 策定)があった。現在は、無い模様である。
東大阪市教育委員会が策定したのであって、行政ではない。
この「東大阪市人権学習プログラム」で、次の方針及びプランが策定されていることが説明されている。
・「東大阪市人権教育基本方針」
2003年(平成15年)3月20日策定
2021年(令和3年)3月改訂
・「東大阪市人権教育推進プラン」(2022年2月現在市のホームページには掲載されていない)
2004年(平成16年)2月策定
2021年(令和3年)3月改訂(民族学級に関して改訂は無い)
これら文書には、民族学級という言葉は無く、「母国語学級」という名称が用いられている。
次は「東大阪市人権教育推進プラン」の一部です。
Ⅱ 領域別推進プラン
在日外国人教育の推進
(2)教育推進の方向性
〈学校教育分野〉
次は、2018年時点での、母国語学級の活動の紹介です。
(写真データ)
(文字データ)
朝鮮文化に親しむ東大阪子どもの集い(下の写真)
(2)予算
令和4年(2022年)度予算
項目 予算額 備考
在日外国人教育推進経費 4,441千円 母国語学級指導員経費等
(3)東大阪市議会
●東大阪市議会 令和3年11月第4回定例会 令和3年(2021年)12月7日(火) 野田彰子(のだ しょうこ)議員
●東大阪市議会 令和4年6月第2回定例会 令和4年(2022年)6月16日(木) 野田彰子議員
https://higashiosaka.gijiroku.com/gikai/GikaiDoc/attach/koho/KhB578_6.pdf
7.新聞記事
(1)「ルーツ肯定的に 通名使わぬ小学校、100年の歴史に幕」
朝日新聞 2021年3月8日
(2)「在日コリアンの足跡まとめる 調査グループが本に 鉱山と民族教育の歴史掘り起こし」
丹波新聞 2021年6月12日
(3)児童に勝手な朝鮮名 東大阪市立小の民族学級、保護者の明確な同意得ず
産経新聞 2021年7月19日
(4)日本籍児童を朝鮮名で呼ぶ人権軽視
産経新聞 2021年7月21日
8.あり方と問題点の概説
「大阪の民族学級 ―在日の子どもたちとともに歩んだ60年」郭 政義(カク チョンイ)(北鶴橋小学校民族講師)月刊みんぱく 2011年2月号
https://www.minpaku.ac.jp/sites/default/files/museum/showcase/bookbite/gekkan/1102_18-19.pdf
9.学校現場を取材
・【特別企画】もう一つの民族教育 ~大阪の民族学級では
月刊イオのWEB版 2018年5月18日公開 当時の大阪市立矢田東小と桑津小を取材
https://www.io-web.net/2018/05/minzokugakkyu/
10.滋賀県における歴史など
・河かおる研究室
http://www.shc.usp.ac.jp/kawa/
http://www.shc.usp.ac.jp/kawa/ks/index.htm (滋賀県の在日コリアンの歴史に関するページです。)
11.大阪府における歴史など
(1)大阪市公立学校における在日韓国・朝鮮人教育の課題と展望
- 梁 陽日 YANG Yangil
立命館大学大学院 先端総合学術研究科 『Core Ethics』(『コア・エシックス』)Vol.9 2013年 p245-p256
https://www.r-gscefs.jp/pdf/ce09/yy01.pdf
(2)インクルーシブな教育と葛藤 ―大阪の民族学級の事例から
掲載誌『未来共創』第7号 p135-p151 刊行年 2020-03-31
山本晃輔(やまもと こうすけ) 大阪大学大学院 人間科学研究科 附属 未来共創センター
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/76143/
(参考)
座談会 特集2 : インクルージョンと共生 出演者/渥美公秀,石塚裕子,山本晃輔,木村友美,寺村晃 聞き手/織田和明
(3)「民族学級における「民族」,その限界と可能性」
呉 恵卿 OHE, Hye-Gyeong
雑誌名:国際基督教大学学報. I-A 『教育研究』 61号 p49-p56
発行年:2019-03-31
(4)公立学校の民族学級 : 大阪市立長橋小学校
川本 綾 Kawamoto, Aya 大阪市立大学 URP「先端的都市研究」シリーズ 012巻 p20-p30
刊行年月:2017-03-30
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/il/meta_pub/G0000438repository_9784904010273-12-20
以上
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