見出し画像

スマートフォンにおけるオーディオについて

一昔前までは、高音質を謳うスマートフォンが一定数あった印象だ。ここで言う高音質とは、スマートフォンの内蔵スピーカーの音質ではなく、イヤホンジャックを介して接続されたイヤホンの音質のことである。HTCはノイズキャンセリング機能搭載の有線イヤホンを同梱したり、LGはB&Oとコラボした有線イヤホンを同梱したこともあった。

しかし2021年現在、有線イヤホン接続時の高音質を謳うスマートフォンはXperiaやVivoのハイエンド、一部ゲーミングスマートフォンくらいのものだ。ハイレゾ再生対応機種は増加したものの、2021年においてメーカーがスマートフォンの高音質をアピールしているとすれば、それは主にスピーカーに関してのことである。

有線イヤホン接続時の音質が軽視されてゆく一方、ステレオスピーカー搭載のスマートフォンは大幅に増加し、スピーカーの音質にこだわった機種が増えた。その理由を考察する。

有線イヤホン接続時の音質が軽視されていった理由は、言うまでもなくBluetoothイヤホンの普及とイヤホンジャックの廃止である。

音楽を再生する際、主に四つのプロセスがある。①音声データを開く②デジタルアナログ変換③音の増幅④音を流す、の四つである。①は音楽プレイヤーアプリ②はDAC③はアンプ④はイヤホンやスピーカーが行う。イヤホンジャックを介して有線イヤホンから音を流す場合、①の音楽プレイヤーアプリによる再生は言うまでもなく、②のDACと③のアンプもスマートフォン内部のものを使用し、有線イヤホンは④の工程のみを担う。

一方Bluetoothイヤホンでは、①はスマートフォンが行うものの、その次にBluetoothで送信できるファイル形式に変換され②と③、④の工程は全てBluetoothイヤホン側で行われる。つまりDACもアンプもイヤホンにすべて内蔵されているということだ。そのためBluetoothイヤホンで音楽を聴く際、音質をよくするために高音質なスマートフォンを使用しても特に意味はなくより高音質なBluetoothイヤホンを購入するべきなのである。勿論XperiaのDSEEなどBluetoothイヤホンへ送信するデータそのものを改善するアプローチは可能だが、そこまで大きな効果は期待できないし、Sonyのイヤホンであればその処理もイヤホン側で可能だ。

Vivoのハイエンドスマートフォンなど、イヤホンジャックが無くても高性能なDACが搭載されている端末は存在する。それは有線イヤホンを変換ケーブルでtype-C端子にアナログ接続したときに使用されるものである。イヤホンジャックの無いスマートフォンで有線イヤホンを使用するためには変換ケーブルで充電端子にイヤホンを接続する必要があるが、接続にはアナログ接続とデジタル接続の二種類が存在する。アナログ接続はイヤホンジャックのある端末と同じような仕組みで、①、②、③の工程はスマートフォンが行う。要はイヤホンジャックがUSBに変わっただけであるため、この変換ケーブルは百均などでも簡単に手に入るが、アナログ接続に対応するスマートフォンは限られる。iPhoneやPixel、Galaxyはアナログ接続ができない。

一方でデジタル接続は変換ケーブル内にDACとアンプを内蔵する。スマートフォン本体が行う工程は①のみで、②と③は変換ケーブルが行うのである。ポータブルUSBDACと呼ばれる、高音質な変換ケーブルが存在する(iBasso DCシリーズなど)が、それらは全てデジタル接続の変換ケーブルである。iPhoneに同梱されていた変換ケーブルもデジタル接続のものである。従来スマートフォン内部にあったDACとアンプを備えているため、アナログ変換ケーブルよりも複雑であり高価である。安物はノイズがひどいことも多い。イヤホンジャックのある機種も含め、デジタル接続はほとんどのスマートフォンやタブレット、PCでも利用できる。

まとめると、
・Bluetoothイヤホンを使用する場合、スマートフォン本体の音質はあまり関係ない。
・イヤホンジャックの無いスマートフォンだと、有線イヤホンを使用する場合でも、スマートフォン本体の音質はアナログ接続時しか関係しない。iPhoneやPixelではそもそもアナログ接続自体できない。

Bluetoothイヤホン使用時や、イヤホンジャックの無いスマートフォンで音楽を聴くときは、スマートフォン本体の音質があまり関係しないことはご理解いただけたと思う。そもそもイヤホンジャックがなくなった理由については…別の記事で書くかもしれない。

イヤホンジャックの廃止とBluetoothイヤホンの普及以外にも、高音質DACを使用すると発熱や電池消費が激しくなること、そもそも高級な有線イヤホンやヘッドホンで音楽を聴くなら専用機器のDAPなどを用いた方がいいことなど有線接続時の音質が軽視されていった理由は考えられるがとりあえずこの辺にしておく。

ではステレオスピーカーが増えた理由について。これは動画配信サービスやスマートフォンゲームの普及が挙げられる。モノラルスピーカーでは、スマートフォンを横に持った時どうあがいても片方からしか音は聞こえない。ステレオスピーカーを採用することで、動画を見たりゲームをプレイしているとき、右の音は右から左の音は左から聞こえるようになる。イヤホンを片耳だけつけるか、両耳つけるかの違いというと分かりやすいだろうか。

ただし、ステレオスピーカーを採用しただけでは不十分である。動画の登場人物やゲームの敵・味方は左右以外にもいろんな方向から訪れる。そこで立体音響技術を用いる。立体音響技術にも様々な種類が存在するが、最も有名なのはDolby Atmosである。Dolby Atmosを採用することで、左右以外にも様々な方向からの音を再現できるようになる(もちろん完璧ではない、限界はある)。

以上、スマートフォンにおいてイヤホンが軽視されスピーカーが重視された理由を考察した。
最後に今後のスマートフォンにおけるオーディオについて考察する。

今後も、Bluetoothイヤホンは進化を続けるにつれ、スマートフォンおいて有線イヤホンは軽視され続けるだろう。イヤホンの音質を重視したいのであればDAPかポタアンを持つべきだと思うし、そこまでこだわりがないのであれば高音質なBluetoothイヤホンを選ぶべきだと思う。他方、スピーカーも今後大きな進化を遂げるとは考えていない。音楽を本格的に聞きたいならイヤホンかBluetoothスピーカーを使うべきだし、スマートフォンのスピーカーはやはり外出先での動画やゲームがメインの用途になると考える。そして(僕は自宅でも敢えてスマートフォンで動画やゲームをプレイする物好きなのでスマートフォンのステレオスピーカーに強い執着があるが)自宅での動画やゲームについては、多くの場合タブレットのほうが有利だし、外出先ではイヤホンを使用することが多い。加えて、そもそもスマートフォンの限られた内部スペースにおいてスピーカーを大幅に強化するのは難しい。

総合的に見て、今後のスマートフォンにおいてオーディオ面での大幅な進化は期待できないと考える。その代わりとして、最近スマートフォンメーカーではAppleのAirPodsに代表されるようにセットでBluetoothイヤホンを開発する傾向がみられる。既に始まっていることだが、スマートフォンオーディオに代わって、Bluetoothイヤホンが大きな進化を遂げることになるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?