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昨日、めっちゃ振られた


切ない出来事がたくさんある人生の方が、振り返った時に色が足されて綺麗に見えるものだと思う。

だから僕はいつも、夏の空に思い出を擦り付けている。



その人は本当に素敵な人だった。

自分の幸せを自分の言葉で言える人で、些細なことでさえ幸せを感じられる人だった。トゲがなくて、けど芯があって、水のようにサラサラと澄んだ人だった。

久しぶりに会ったその日に、気持ちを伝えるかどうか死ぬほど迷った挙句、なんとも情けないタイミングで、心を絞ったように想いを吐き出してしまった。

相手の一言はありがとうだった。笑顔と共に、口が『あり...』という形を結んだ瞬間に、あーーあこれダメだったなと悟った。

そんなのをすぐ理解してしまう自分を、大人になったなと他人事のように感じていた。



1日中、2人で色んな場所へ出掛けて、結局帰ることもなく一緒に過ごす部屋の中。受け取り手のいない好意だけが宙ぶらりんになっていて、なんとも滑稽だった。

変に霞んでいなかった昔の自分なら、真正面から喰らってしまって、手から血の気が引く感覚がして、おどおどして変な空気になっていたかもしれない。

それが今じゃ、自分でもびっくりするくらいの切り替えの速さで一瞬で割り切って、
『そっか。しゃーねーや。ありがとう。伝えられてよかった』

と、なんとまあクソダサい強がりで乗り切ろうとしてしまった。

それからは今まで張っていたラインを一つ超えたような、より砕けた会話ができるようになって、伝える前よりも楽しかった記憶がある。

そこで相手のことをより知れたし、まだまだ何も知らなかったなと、少しだけ自分を反省した。




20代後半という年齢になると、人との出会いというものが、想像を凌駕するほどめっきり減ってしまい、今までの人間関係の維持ですら怪しくなってくる。

そんな必然的な道筋に抗うかのように、ネットというバグ技を使って、人と繋がることしか僕はできなかった。


色んな人に会ったとは思う。みんな素敵だった。今まで歩いてきた道では絶対に交わらないような人たちばかりで、常に刺激的だった。けれどその中で、この人と一緒にいたいなと思える人はほんの一握りにも満たなかった。

この訳のわからない出会いの世界で一つ確信できたことは、どうでも良い人と言ったらかなり乱暴だけど、気がない人に限って好意を寄せられて、しかもそれを無碍にできてしまう自分がいるということ。そして、自分が大切だと思う人への好意は届かないということ。

それはもうびっくりするくらい噛み合わない。空振りの応酬。勘弁してください。



彼女と一緒に過ごした時間の中で、めちゃくちゃに笑っていた瞬間や共有した感動が、今はまるで捏造された記憶のように感じてしまい無性に切なくなる。

相手の反応を自分の中で勝手に解釈して、舞い上がったまま、自分の気持ちにブーストをかけまくった結果、中身すっからかんの状態で膨れ上がって、最後は儚く破裂して終わってしまった。


なにが

自分でもびっくりするくらいの切り替えの速さで、一瞬で割り切って『そっか。しゃーねーや。ありがとうね』

だ。

全然割り切れてないじゃんか。割り切れるわけないじゃんか。



初めて会った時、『どっちがいい?』と照れながら飲み物をくれた。僕が水を選んだ時嬉しそうに
『私も水好きだよ』と笑っていた。

車で出かける時は頼んでもないのにいつも道を調べてくれた。絶対に多く払わせてくれなかった1日のデート代。

車内で会話が途切れることはなかったし、同じ空間にいる時も触れ合っている時も、心地よさを常に感じていた。


夏の雲にはしゃぐ横顔をずっと見ていたいと思った。




もう2度と会うことはないんだと思う。

きっとあの時想いを伝えていなければ、まだその先があったかも知れないのは分かっていたけれど。

認めたくない自分もいるけれど、現実を客観視できてしまう自分がいるせいで、いつまでも余白に想いを馳せることはないんだろう。


それでも、どうしようもなく胸が痛むのは、楽しかったあの景色がこれから増えることは絶対になくて、過去のわずかなシーンを断片的に思い出すことでしか、あの時の感情に会えないから。




今朝起きたら

『昨日は楽しかったね』

なんて意地悪そうに可愛く笑う彼女が隣に居た。

そのまま時間が止まってくれと本気で思ったけれど、予定があると言っていたので、いつも集合していたコンビニまで送り届けた。

道中での時間は、いつも通りあっという間にも感じたし、もどかしさに押しつぶされそうで長くもあった。



『あー、終わっちゃうな』と、突き抜ける夏の空の下、人ごとのように車を走らせた。普段よりアクセルは気持ち緩めて。



コンビニに到着し別れる間際、『ちょっと待ってて』
と一言残し、彼女がお店の中へ入って行った。戻ってくると、初めて会った時と同じように、『はいこれ。いつもの』と水を渡してくれた。



そこから何を話してバイバイしたか、あまり覚えていない。


『またね』という3文字に、ありったけのもしもを込めて振り絞ったのと、

冷たい水、喉の奥からやたらと味がしたのだけ覚えている。





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