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#ベランダコーヒー

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大好きなコーヒーをベランダで飲んでみませんか。
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割ってしまった形見

2年近く前、「形見」というタイトルで、こんな文章を書きました。 そうなのです。 このクリーマーは、大好きだった伯母の形見だったのです。 それを、私のうっかりで割ってしまいました。。。。。 しばし落ち込みました。 その日一日を暗い気持ちで過ごさなくてはならなくなりそうでした。毎日の朝のコーヒータイムには欠かせない存在でしたから。 でも、そこを踏ん張ってネットで検索しまくりました。 ロイヤルコペンハーゲンのトランクェーバーシリーズのもので、もう中古品しかなく、みつけられた

そうしたら、こんな美しい花が咲いた

ベランダに緑を置き始めたのは、ここ数年のことです。 そう、置き始めたのです。 育て始めたわけではありません。 というのも、これは、我が家にとっては画期的な試みだったからです。 それまで、植物を上手に育てたことがなかったので、育てようなどという大それたことは最初から考えていませんでした。 気に入った絵はがきを額に入れて飾るように、ただ、植物をベランダに置いてみようと思っただけなのです。 ある意味、とても無責任な始め方です。 でも、その手軽さが、慣れないことを始めるのには

五月のケーキは涙の味

実家では、毎週日曜日にコーヒータイムがありました。 普段はそれぞれのことで忙しい家族が、日曜日の午後三時にだけは集まる。そのたったひとつのことが、この家族のゆるい関係を健全に保ってくれていました。 そのコーヒータイムのために、父はいつも同じお店のケーキを、その都度種類は変えながら、買ってきてくれていました。日曜日にはだから、父はお昼ご飯を食べたら、そのケーキ屋があるデーパートまで車を走らせました。ケーキを買うことだけが目的ではなく、その近くにある大きな本屋さんに立ち寄って

形見

 これは、伯母がまだ存命中に、お部屋の片付けを手伝うという名目で行ったときにもらったクリーマーです。  朝のコーヒータイムで使うたびに、伯母の顔や、伯母に関する思い出がふと浮かび、懐かしいほっこりした気持ちになります。  そのときは、形見としてもらってきたわけではありません。伯母自身はもうこれを使うことはないから、良かったら持っていってと言われて、ただもらってきたものです。  それが、伯母も亡くなって何年も経ってから、こんなに私の心をリラックスさせてくれることになろうと

雨の思い出

 雨は意外と好きなのですが、今でも匂いや温度と共に思い出されるのは、大学時代の記憶です。  大学の門の向かいにある喫茶店(カフェというような小洒落た場所ではなく)で、授業も終わって、そのまま下宿に帰るのがなんとなくもったいなかったので、その喫茶店の窓際の席に座っていました。  真正面の大学の門から出入りする学生たちを眺めながら、 あー、私も一人暮らしに慣れてきたなあ、 ちょっと大人になったなあ、 授業も面白かったしと、充実感を覚えながら感慨に耽っていました。  晩秋の雨

小さな家

両親が亡くなって、心に小さな家が建ちました。 絵本やおとぎ噺に登場するような赤い屋根と赤いドアの煙突があるお家。ドアの両隣には白い格子の窓にレースのカーテンがかかっています。周りは緑に囲まれていて、沿道からドアまでは、芝生の中に小径が作られています。 さして広くはない家ですが、座り心地の良さそうなモスグリーンの大きなソファがひとつあり、フローリングの床には、暖色系の丸い敷物が複数置かれています。 どこからともなくケーキを焼く甘い匂いとコーヒーの香りが漂い、サイドテーブル

好きな時間

コーヒーを丁寧に淹れる。 それを片手にベランダに出て、季節を感じる。 BGMは、部屋の中から流れてくる静かめのクラシックがいい。 ピアノやチェロ、ギターなどの優しい音色がいい。 傍らには、飼い猫の小太郎が静かに寝ている。 つかず離れずの距離にいるのがいい。 そして、気持ちの赴くままに筆を走らせたり、iPadのキーボードを叩いてその思いを文字にしていく。 私にとって、これはかなり好きな時間です。ひとりでも生きていけると思える勇気と強さをくれる時間です。 「今幸せならば、あな

朝日は栄養

冬の時期のベランダコーヒーは確かに寒いのですが、東向きの我が家のベランダには、朝日がたっぷり降り注ぎます。そのおかげか、風が強くなければ、実際は意外に寒くありません。 真正面から朝日を浴びるのは刺激が強すぎるくらいで、太陽に背中を向けて、一杯のコーヒーを楽しみます。それだけで、上着を一枚脱ぎたくなるくらい暖まります。 先日、ベランダに面したリビングルームで朝ヨガをしている最中に、向かいのマンションのてっぺんから朝日が昇ってきて、全身が朝日に包まれました。 そのときの気持

完璧な朝

雲ひとつない真っ青な空に太陽が輝いています。 空気は澄んで少し冷たく感じます。 晩秋の朝の光は、真夏と違って、少しだけオレンジ色がかっています。 その柔らかさが心地いいです。 少しひんやりした風が、光沢のある糸で縫製されたカーテンを軽く揺らしています。太陽の光がカーテンに反射して、まるでスターダストが舞っているように見えます。 絨毯の太陽が当たっている部分は床暖を入れているみたいにほんのり暖かいです。 花瓶に挿したお花も朝日に照らされて一層美しく見えます。 飼い猫の小

すぐそこにある幸せ

曇天の寒い冬の日。ほっぺたや鼻のてっぺんの感覚が薄れ、手袋をした手の指先はかじかんでいる。この気温ならきっと降り出すのは雪だろう。そんな午後、小学校から自宅までの一本道を歩いて帰る。子供の足で二十分ほどの距離だ。 「今日はどんなおやつかなあ」 お母さんは家事全般が得意だ。家の飾り付けや料理に裁縫、歌を歌ったり絵を描いたり読み聞かせもうまい。そんなお母さんが焼くケーキはとても美味しい。 家の玄関を開けると、甘い香りが鼻の奥に飛び込んでくる。暖かくて適度に湿度がある空気に包

秋の午後とコーヒー

何回こうやって空を見上げただろう。 仕事を無事に終えた満足感に浸ってコーヒーを飲みながら空を見上げる瞬間は、仕事を頑張った最も大きい報酬のひとつです。もちろん金銭的な報酬は生活のために必要です。でも、精神的満足感なくして、仕事は続けられませんし、いい仕事もできないと思うのです。 コーヒー片手の青空は心の栄養になります。 田舎育ちの私が大都会の東京に出てきてまがりなりにも仕事を続けてこられたのは、様々な出会いや幸運に恵まれたからです。そのことに心から感謝しています。 た

KENZOのカップ&ソーサー

高田賢三さんが亡くなられました。 心からご冥福をお祈りします。 実は、KENZOのカップ&ソーサーを二組持っています。 結婚祝いに父方の伯母が買ってくれたものです。 かれこれウン十年の付き合いです。 三回の引っ越しも乗り越え、どこも欠けていなくて、今でも毎朝のコーヒーと朝食のパン皿として活躍してくれています。 買ってもらった当時は、自分でそんな高価な物を購入できる経済力は全くありませんでした。ほぼ大学卒業と同時に付き合い始めた夫とは、6年半越しの結婚でした。 全面的に

10月1日はコーヒーの日

コーヒー生産量の約3割を占め、コーヒー市場に大きな影響を及ぼすブラジルでは、毎年9月にほとんどのコーヒー豆の収穫を終えます。そのため、ブラジルのコーヒー栽培のサイクルに合わせたコーヒー年度が国際基準になっていて、10月1日がコーヒーにとっての新年度の始まりの日となるのだそうです。 コーヒー好きとしては、もちろん年中コーヒーを飲むのですが、やっぱり、一番心地良くそのコーヒーを味わえる季節は秋だなあと感じています。 秋の夜長に、好きな本を片手に、側に香ばしい香を漂わせるコーヒ

父の存在

父は無類のクラシカル・ミュージック好きだった。CDの所有枚数は優に千枚を超え、在宅している時は、常にBGMとしてかけていた。車で往復三時間の通勤時間中には、CDからカセットテープに録音したものをカーステレオで聴いていた。私たち家族にとってそれはごく日常の風景のひとつだった。  高校時代のある日曜日、私の友人が家に遊びに来て、父も含めた私たち家族と一緒に三時のおやつを食べたことがあった。コーヒーと、父が好きで買ってきたケーキが、白いテーブルクロスの上に赤いランチョンマットが敷