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外作業の大敵、iPadの猛暑対策について検証してみた

こんにちは、ANDPAD ZEROの菊野です。
ここ数週間猛暑日が続いており、建設現場で働く方々は現場では大変ご苦労されているかと思います。現場経験のある方は特に、暑い夏、屋内外問わずiPadやiPhoneが機器の温度上昇により機能しない…という経験をされたことがあるのではないでしょうか。

過去に紹介したANDPAD HOUSEの施工時には、現場で鉄筋の干渉チェック用のHMD(HeadMountDisplay、 HoloLensを使用)が熱くなりすぎて起動しなかった、という経験をチームメンバーからも聞いています.

私が開発に携わっているANDPAD 3DスキャンやANDPAD BIMにおいても、端末への処理負荷が大きいアプリであるため、熱暴走しないか、という点については一番気を付けています。一方、実際に、現場で機能検証をしていると、常に端末を涼しい場所に置いておくことは非常に難しいと感じてもいます。

そこで今回は現場でiPhoneやiPadを使おうと検討している方にむけて、実際にどの程度の熱によってiPhoneやiPadがダウンしてしまうのかを検証することで、現場で手を止めずに、スムーズに作業をするための対策方法をご提示できればと考えました。


検証の背景

1995~2022までの年間猛暑日のグラフ(参照元

まずは大きな話から。本検証の背景には、今日をいきる私たちにとって避けられない「温暖化」があります。
「昔より、暑くなったな」「子供のころはこんなに暑かったっけ」と思われる方も多いと思いますが、実際に体感するだけでなく、データでその温暖化が示されています。
tenki.jpによれば、2022年は年間猛暑日(一年間で35℃以上超えた日数)が過去最高の14日だったとのことです(上記の図)。また、2018年以降、2021年を除いて、年間猛暑日が12日以上もあったことが確認できます。

本体の温度が上昇しすぎた場合に表示される画面(参照元

ちなみに上記温度の元データとなっているのは、地域気象観測システム「アメダス」です。アメダスの温度測定は地面の反射や直射日光が出来るだけ制御された形で測定されています。したがって、実際に直射日光やコンクリートの上で作業する工事現場では、気象温度以上の体感温度になっているのです。(のちほど詳しく解説しますが、今回の検証でも、気象庁の温度は31〜34℃となっていたものの、温度計には37〜40℃と表示されていました。)
今回はこうした背景のもと、現場でiPhone/iPadを冷やす方法を一緒に検証できればと思います。

検証概要

検証目的

屋外でiPad Proに処理負荷をかけた状態で端末の温度を効果的に抑えるための冷却方法を検討します。

冷却に利用するツール

様々な冷却方法がありますが、今回はファンでの冷却方式とヒートシンクなどを使った冷却方式を検証します。現場利用を目的としているため、結露してしまうようなものまたは作業を邪魔してしまいそうなものについては検証対象にいれていません。(ウォーターポンプ式やアイシングなど)。

具体的には、冷却ガジェットとして、冷却ファン式、冷却パッド(アルミ)、冷却パッド(シリコン)、そしてヒートシンクを使います。それぞれの冷却方式によって、どのぐらい効果的に端末の温度の上昇を抑えられるのかを確認していきたいと思います。

なお、このような冷却ガジェットは現場で使う目的ではないものも含まれると思うので、あくまで今回の検証環境に特化した形でご参考いただければと思います。

測定環境

現場でiPadを利用する状態を再現するため、屋外での検証を行います。

  • 直射日光の影響については、変動が大きすぎるため、検証端末上に傘を設置して、検証時は常に日陰になるようにします。

  • iPadスタンドを使うことで、地面や直接手で持つことによる影響を最低限に抑える。iPadは台の上に置き、常にFL+1.2mにiPadが来るように設置します。

  • 検証中の温度計についても日陰になる場所に設置しました。

どのような環境で検証したか、みなさんに立体的に確認いただけるよう、周辺環境をANDPAD 3Dスキャンで撮影してみました。

検証環境:傘、モニタースタンド

機材

今回、温度測定や冷却用ガジェット等として用いた機材を以下に示します。

1.温度測定
・放射温度計:シンワ測定放射温度計
・環境温度計:Bodyguard デジタル 温湿度計

2.冷却用ガジェット
・① 冷却パッド・アルミ:サンワダイレクト ノートパソコン冷却パッド
・② 冷却パッド・シリコン:Simplism シンプリズム スマ冷え
・③ ヒートシンク:CTRICALVER 4個ヒートシンク 導熱接着シート4pcs付き
・④ 冷却ファン:MTS SL06 タブレット 冷却ファン

3.その他
・直射日射防止用の傘
・iPadスタンド
・iPad Pro 第2世代モデル
・iPadケース

検証方法

計測箇所・方法

機器の計測は以下のポイントで実施しました。

  • 30分間負荷を掛け続けた後に測定する。

  • 測定箇所はProcessorの真上や、アップルロゴの真上、iPadの印字の間、中央部の右側の計6点。

  • それぞれ温度がどの程度上昇したのかを評価。

ちなみに、iPad内部の温度が取れればもちろんベストだったのですが、AppleからiPad内の温度計は公開されていないため、今回はiPad背面での計測をすることとしています。

温度計測箇所の設定(参照元

検証作業の流れ

今回の検証は、アイドル状態(画面オフ・全てのアプリオフ)からiPadに負荷をかけた際にどのぐらい温度が上昇するかを目的としております。
そのため、iPadの温度が環境温度まで下がっていることを確認しながら検証を行いました。検証の流れは以下となります。

  1. (停止状態で熱平衡状態にする作業)iPadを画面オフにした状態で外に置く(5分)

  2. アイドル状態iPadの温度を計測

  3. (処理負荷状態にする作業)ANDPAD 3Dスキャン+データ変換の作業を繰り返して行い負荷をかける(10分)

  4. 負荷かけた直後のiPadの温度を計測

  5. 屋内にiPadを置き温度がアイドル状態と同じ程度になるまで待つ(5分~10分)

この1~5までの流れを、各冷却ツールを使いながら順に検証し、どの冷却方法が効率的に作用するかを検証しました。今回想定している現場では、基本的に常に屋外環境であり、近くに事務所などがない場所を想定しているため、冷却ツールは外のバックの中に保管しておき、屋外温度になっている状態で検証します。また、端末の保護ケースについても利用されている方とそうでない方がいらっしゃると思いますので、それぞれ計測しています。
*冷却ファンは保護ケースに付けても機能しないため、検証対象としていません。

検証結果

計測結果(単位:℃)

太字:冷却ガジェットを使っていないときのiPad表面の温度
赤字:温度が基準値よりも1.5℃以上に上がっている部分
青字:温度が基準値よりも1.5℃以下に下がっている部分


測定時の写真、負荷検証時の写真


冷却パッドアルミ・冷却パッドシリコン


冷却ファン・ヒートシンク

結論

最も効果があったケース

局部的な効果が一番あったのは冷却ファンという結果になりました。
熱を一番発する測定点①の温度は4.3℃低下、そしてAppleのロゴの真上の部分を3.3℃低下しました。
一番熱くなってしまう所を局所的に冷やすことで、一番温度が上がってしまう箇所の温度が40℃以上上がらないという効果がありました。

効果が出なかったケースの検証

カバーありの検証は冷却パッドでの検証でしたが、冷却パッドのアルミ版については、全体的に温度を抑えることが確認できました。一方、冷却パッドのシリコン版については、冷却パッドを付けないときよりもむしろ温度が上昇してしまうという結果となりました。

理由としては、アルミの場合は、熱を伝達しカバーをヒートシンクという形で分散できたものの、シリコンの冷却パッドについては表面がコーティングされていたため断熱材に近い要領で熱をこもらせてしまった可能性があります。カバーを取り付けながら温度を抑えたい場合は冷却パッドのアルミ版の方が効果がありそうといえると思います。

まとめ

今回の検証では半日程度、猛暑の37~40℃の環境の中、iPad Proを使いながらANDPAD 3Dスキャンを使っていたのですが、一度も端末が停止することはありませんでした。
現場ではなかなか難しいかもしれませんが、こまめにしっかりと機器を休ませながら利用することで、高熱による端末停止は避けられるということも確認できました。

ただ、屋外での検証は、コントロールしないといけない変数が多すぎるため比較検証が難しかった、というのが正直なところです。

ですが、局部的な効果に関しては冷却ファン式が一番効果があることが確認できました。同時にファンを取りつける場合だと、ケーブルや保護バンパーのような物を検討する必要が出てきてしまいますが、それを加味しても、効果的に温度を低下させるという観点においては、冷却ファンが一番おすすめと言えます。
冷却ファンの唯一の欠点である、「通常のiPadカバーと併用できない」「別途、バンパーなどの保護具を準備しないといけない」という点については、今後手軽に入手できる冷却ファン組み込み式のiPad Proケースなどが販売されることを待ち望みたいところです。

最後に、改めての注意になりますが、今回の検証は、あくまでも端末の表面温度という観点で検証しています。シリコンチップ自体の温度ではないため、表面上は温度が下がっていても熱暴走やアプリが落ちてしまうと可能性はあるため、基本的には端末の温度が上がりすぎないか十分に気を付けながら現場で活用するようにしていただきたいと思います。

おわりに

今回はこれまでの投稿とは少し異なった、実験スタイルの投稿となりましたが、研究者気質の自分としては非常に楽しい執筆となりました。次回は冷却ガジェットがもう少し豊富なiPhone Proについても検証してみたいと思います!

最後までお読みいただきありがとうございました。


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